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【IF短編】もし邪竜様とレーコが巡り合わなかったら

「今更じゃけど、お主が生贄に来てくれたのがわしのところでよかったなあ」


 よく晴れた暖かな昼下がり。

 日向ぼっこ中のわしは眠気にまどろみながら、背中のレーコにぽつりと語り掛けた。


「私が邪竜様の元に捧げられたのは運命的な必然でございます。どのような過程を辿っても、最終的に私は必ず邪竜様のところへ捧げられたことでしょう」

「うん、結果的にはそうなったからええけどね。もしもお主が普通の魔物に捧げられとったらと思うと、わしはちょっと不安になるのよ」


 なんせ生贄に捧げられた当初のレーコは、何の力も持たない少女だったのだ。

 すぐに覚醒したとはいえ、生贄を食べることに乗り気な魔物に捧げられていたら、覚醒の暇もなく食べられていたかもしれない。


「それはいけません。邪竜様を不安にさせてしまうとは、眷属としてあるまじき失態です。早急にその不安を取り除きましょう」

「ん? 別にそんな大袈裟に捉えなくても……」

「それではこちらをご覧ください」

「こちら?」


 レーコがびしっと空中を指差すと、そこに四角形の鏡のようなものが出現した。

 鏡の中にざざっとノイズが走った後、そこに映し出されるのは――かつての生贄装束を纏ったレーコの姿だ。


「なんじゃのこれ?」

「眷属パワーで私の演算能力を大幅強化し、『もしも』の場合の世界線をシミュレーション&映像化してみました」

「そっか。お主は相変わらずすごいのう」

「恐縮です」


 わしは顔の近くに生えていた草をもしゃもしゃと齧る。もはやいちいちこんなことで驚くわしではない。


 映像の中のレーコは松明を掲げ、山道をトコトコと歩いていく。ただ、その山道はわしの棲んでいる山ではない。どこか別の山だ。


「今回、シミュレーション上の私は『唯一無二の偉大なる邪竜様』ではなく、比較的どこにでもいる平均的邪竜のもとに捧げられた設定となっております」

「平均的邪竜っていう概念があるんじゃね。初耳」


 生贄装束のレーコが山奥の洞窟に辿り着くと、奥から獰猛な唸り声がした。

 わしはここで一抹の不安を覚える。


「の、のうレーコ? 本当に大丈夫かの? たとえシミュレーションの中でも、お主が酷い目に遭うのはちょっと見たくないというか……」

「ご安心ください。画面の中の私をよく見てください」


 背中のレーコに指摘されるがまま、生贄レーコをよく見てみる。

 口元を「へ」の字に曲げて、なんだか不満そうに洞窟を見ていた。


「この表情はなんじゃの?」

「平均的邪竜の唸り声に品性がないと感じています」

「品性」

「さらに続きをご覧ください」


 やがて、ずしんずしんと大きな足音を立てて平均的邪竜さんが姿を現した。

 美味そうな獲物を前に、牙をギラつかせた口から涎を垂らし――


「はい、一時停止です。ここであるじポイントが合格点を下回りました」

「主ポイントってなに?」

「『生贄として捧げられてもいい』と思える総合評価点です。この平均的邪竜はテーブルマナーがあまりになっていません」

「ねえ、わしはテーブルマナーとか全然知らないんじゃけど、主ポイントは大丈夫じゃったの?」

「邪竜様は100億兆満点でした」

「清々しいほど恣意的なジャッジ基準じゃなあ」


 レーコが一時停止していた画面を再開する。

 わしも改めて画面の方に向き直ると――


 なんかいつの間にか、平均的邪竜が白目を剥いて倒れていた。


「え? なんでこの平均的邪竜さんはやられておるの?」

「決まり手は私の右フックですね。目にも止まらぬ一撃で意識を刈り取りました」

「そうではなくて。まだこのときのお主は覚醒イベント前じゃろ?」


 もし覚醒前レーコでも勝てると考えているなら、さすがに平均的邪竜さんを侮りすぎである。平均的邪竜ってそもそも何、という疑問は脇に置いておくとして。


「いいえ。主ポイントが合格点を割った時点で覚醒イベントは起きていたのです。私の心の中で」


 画面がちょっと巻き戻される。

 平均的邪竜と相対した瞬間のレーコがアップとなり、副音声のようにわんわんと彼女の内心音声が響いてくる。


(ふむ……ダメだなこの竜は。生贄になってやる価値が見出せん)

『聞け。少女レーコよ。この下品な平均的邪竜をしばく力が欲しいか?』

(欲しい)

『よし、今あげた。しばけ』

(しばく)


 以上。

 次の瞬間には、平均的邪竜さんがくたばっていた。


「ねえレーコ。生贄のレーコが心の中で対話していた物騒な存在はなに?」

「今ここにいる私です」

「うん、そうじゃよね。同じ声だったもん」


 それでもなんだか状況がよく分からなかったのでいちおう整理してみる。


「今ここにいる現在のお主が、過去のレーコに力を分けてあげたということ?」

「はい。邪竜様の眷属として究極形態に至った私は、あらゆる時空や世界線を超越する力を持っております。もし過去の私が邪竜様と巡り合わないルートに入っても、現在の時間軸から干渉して軌道修正することが可能です」

「やりたい放題じゃね」

「恐縮です」


 まあ、本気で言っているのかシミュレーション上のお遊びなのかは分からないが、どのみちレーコが悲惨な目に遭わないならそれでいいか。

 わしはそう思って目を閉じ、本格的に昼寝をしようとするが――


「むっ」


 レーコが警戒するように唸った。

 わしは片目を開いて「どしたの?」と尋ねる。


「シミュレーションを終了しようとしたのですが、画面が閉じません」


 レーコが画面に向けて指をぴしぴしと突くような仕草を見せるが、空中の鏡はまったく消える様子がない。

 画面の中の生贄レーコは、なにやらきょろきょろと周囲を見回している。そして――


『――見つけました。我が主。本物の邪竜様』


 生贄レーコがいきなりこちらを振り向いて、画面越しのわしに向けて妖しく微笑んだ。

 なんだかホラーな笑顔にわしの肝がきゅっと冷える。


「く、しまった。少しばかり力を与え過ぎたか……」

「え、レーコ。どういうこと?」

「私が時空間に干渉できるように、奴もまた時空間への干渉能力を身に着けてしまったようです……来ます」


 画面の中のレーコが、まるで握手を求めるようにこちらへと手を伸ばす。

 すると、鏡の中から映像ではなく実体を伴った手がにゅっと伸びてきた。手の次は腕、腕の次は肩。そして、とうとうもう一人の『レーコ』が嬉しそうにこちらの世界へと……


「――きゃああああっ!!?」


 そこでわしは目を覚ました。

 気付けば、いつも日向ぼっこをしている岩場だった。どうやら悪い夢を見ていたらしい。まだ心臓がバクバク鳴っている。


「ふう……大変な夢じゃったなあ。まさかレーコが二人になってしまうなんて」


 冷や汗を拭って、わしは背中で同じく昼寝中のはずのレーコに振り向く。


「いきなり飛び起きてしまってごめんの。びっくりせんかった?」


 そしてわしは硬直した。

 二人いた。

 いつもの服を着たレーコと、生贄装束を着たレーコが。ポジション争いをするように脚で互いを牽制しながら、わしの背中でぐうぐうと寝息を立てていた。


「……うん」


 わしは何も見なかったことにして、再び昼寝の姿勢に入った。


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邪竜認定と同じく少女&獣コンビの勘違いコメディですので、よろしければぜひこちらも読んでみてください!

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【二代目聖女は戦わない】
― 新着の感想 ―
画面が閉じない、で察した。過去改変したり並行世界干渉したり究極生命体にも程があるだろ しかもあんなのが2倍になって邪竜さまの心労が倍プッシュで跳満するんじゃないかな 適当なお使い頼んでその間に逃げると…
相変わらずの無法っぷりだなぁ… このレーコですら眷属でないならば、一顧だにしないであろう至上の存在である邪竜様…レーコのなかのハードルが天元突破してるなぁ
統合して更にパワーアップ!
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