【アニメ放送記念短編】眷属式シミュレーション 邪竜vs魔王
SS4本目です!
アニメもあと少しで放送・配信開始ですので、ぜひ応援よろしくお願いします!
「邪竜様がこうして動き始めたとなれば魔王の死はもはや必定。つきましては、邪竜様が統べる新世界の在り方を今からでも構想しておいて損はないかと思います」
「新世界がどうとかいうのはちょっと置いといて、とりあえず魔王がいなくなったら、わしは洞窟に帰りたいなあ」
ペリュドーナを発ち、どこへともなく青い平原を進む道中。レーコは明らかにウキウキしながらしきりに物騒な発言を繰り返していた。
「魔王を討伐したら、まずは世界の中心に天まで届くほどの記念碑を建てましょう。そして邪竜様の偉業を碑文として未来永劫に記録するのです」
「あのねレーコ。何度も言ったけど、魔王っていうのは今のわしじゃ敵わないほど強いんじゃからね? あんまり軽く見るのはどうかと思うよ?」
「はっ。もちろん心得ております。魔王めは邪竜様がそこまで警戒するほどの存在。決して侮っているわけではありません。その恐ろしさを十分に理解しているつもりです」
おおっ、とわしは背中のレーコを振り向いた。この子も魔王に対する警戒心はあるのだ。
「悔しいですが、今の私では魔王との戦いで足手纏いとなるばかりでしょう。無論、これからも強くなる所存ではありますが、果たして決戦の刻に間に合うかどうか……」
「うん。怖いと思ったらいつでも引き返してええから。なんなら今すぐ村に戻ってもええし、全然遠慮する必要とかないからね?」
「大丈夫です、ご心配には及びません。直接の戦闘でお役に立てずとも、支援役として動けるかもしれません。そうでなくとも、眷属として邪竜様の活躍をこの目で見届けなければ」
「そっかあ」
わしはため息をつく。やはり、この程度で御せるほどのレーコではない。
「ですが、非力な私が不用意に戦列に並べば、勝機を逸する可能性もあります。となれば、来たる決戦に備えて効率的な立ち回りを考えておきたいと思うのです。いわばイメージトレーニングというやつです。これから魔王との戦闘をシミュレーションしますので、邪竜様のご意見もいただけますでしょうか?」
「え、でもイメージするには事前情報が少なすぎないかの? まだ魔王がどんな魔物なのか知らんし、そもそもどこで戦うことになるかも分からんし」
そもそも、戦うような事態は絶対に避けねばならないけれど。
わしの内心の焦りとは裏腹に、レーコはごく落ち着いたまま続ける。
「決戦の場所については――僭越ながら、私から一つ提案がございます。邪竜様が真の力を発揮すれば、荒れ狂う魔力によりこの世は大災害に見舞われます。将来の下僕となる人類を絶滅させぬためにも、事前に魔王を邪竜様の創成する隔絶型亜空間に閉じ込めた状態で戦闘開始としていただけるでしょうか? 戦闘の舞台もそことさせていただきます」
「耳慣れない単語が飛んでた気がするけど、とりあえずその前提でええよ」
とんでもないフレーズが聞こえたが、あまり掘り下げてしまうとわしに対する新たな設定が生まれてしまいそうなのでスルーすることにした。
「では、始めましょう。亜空間はどこまでも続く冥府の大地なので遮蔽物はありません。そこに舞い降りた邪竜様と、その背に乗る私。そしてその眼前に転がる死にかけの魔王――」
「待って、ストップ。まだ始まったばかりでしょ? なんで既に魔王が死にかけとるの?」
「亜空間に閉じ込める隙を作るため、出会い頭に邪竜様がジャブを一発放ちましたので」
「ジャブで死ぬの魔王?」
「邪竜様の一撃は速く、そして重いですから」
「魔王はそんなに弱くないから。そんなに軽く済む相手だったらわしも苦労しないから」
魔王があまりにも弱いと判断されては、レーコが決戦を急ぐ危険性がある。できるだけ遠まわしにするためにも、最低限の警戒心は持っていてもらわないと困る。
「そうですか……。では、ジャブでは死なないということで」
「あとさっきも言ったけど、魔王の姿はどう設定するの?」
「では、暫定ながら魔王のサイズ感は大きめで。邪竜様がそこまで警戒されるなら、山をも凌ぐ巨大さに違いありません。戦闘法も、その巨体を活かした物理格闘中心と推測します」
「そんなでっかい魔物がいたら、ちょっと動くたびに大騒ぎになると思うんじゃけどなあ」
「このデカブツと相対するにあたり、もちろん邪竜様も巨大化を辞さないかと思います」
「あ、わしも大きくなっちゃうんだ」
この五千年で成長期は終わっていると思うが、果たしてまだ伸びしろはあるだろうか。
レーコはわしの苦悩を置き去りにして、暫定魔王との戦いを語り始める。
「亜空間に舞い降りた邪竜様と私。そしてやや脳震盪気味になりつつも辛うじて意識を保った魔王。互いに睨み合った状態からスタートします」
「もうその前提で妥協しようかのう。その先はもうちょっと魔王にも見せ場を作ってな」
「心得ております。さあ、魔王の拳と邪竜様の爪が正面からぶつかり合いました。衝撃波で地が裂け大気が震えます。力はまったくの互角――互角……いえ、邪竜様がやや押しています。……さらに押し込み始めました。魔王もこれには焦らざるを得ません……」
「隙あらばわしの戦況を上方修正していくのは客観性に欠けるのではないかの」
「そうでした。では互角ということで。一方、その頃の私は魔王の隙を伺いつつ上空を旋回しておりました。ハイレベルな邪竜様と魔王の戦いになかなか割り入ることができません」
たぶん本当なら最初の一撃でわしが粉微塵になっているだろうが、そこはもう触れない。前提の破綻をいうなら、そもそもわしは亜空間とか作れない。
「一進一退の攻防は延々と続き、業を煮やした邪竜様は、とうとう奥義『邪竜の尖角』の使用を決断します。魔力にて具現化させる第三の角は、触れるだけで問答無用の死を与える必殺の武器。翼による音速超過の突進と併せれば、何人たりとも逃れることは叶いません――」
「佳境じゃね。じゃあ、そろそろ魔王サイドの反撃かのう」
言葉を挟むと、ぴたっとレーコが止まった。賭けてもいい。ここでわしが止めねば普通に魔王を倒したはずである。そして「いけそうな気がします」と魔王の元に急行したはずだ。
「……はい。しかしこの技は、膨大な魔力を用いるため溜めの時間が必要なのです。精神を集中して約十秒――命を削る死闘の最中において、あまりにも絶望的な隙となる時間です」
ほら、リスクに後付け感がある。そんな技なら最初から使うまい。
が、唐突にレーコがわしの背中の上で勢いよく立ち上がった。
「そう、そこで私の出番です。この大一番でトドメの時間稼ぎ……これこそ眷属の本懐です」
しまった。この展開に絶好の自己アピール機会を見出してしまったらしい。
「ええ、ダメじゃよ。危ないもん」
「何を仰います。ここで眷属を使わずいつ使うのですか。さあ、命じてください」
再び座り込んだレーコは、命令をせがんでわしの背中を揺すってくる。あくまで想像だというのに、展開に興奮して歯止めが効かなくなっている。さすがの思い込みの強さである。
「あーもう、分かった分かった。任せる。任せるよ。けど、危なくなったら逃げてな?」
わしが抗弁を諦めると、ぴたりと背中の振動が止んだ。何事かと見れば、レーコが遠い目をして恍惚の笑みを浮かべている。
「ん? どうしたのレーコ?」
「勝ちました」
「へ?」
「邪竜様の手を煩わせるまでもありませんでした。この私めが魔王を一刀両断にしました」
「……あの、レーコ? 魔王はわしですら手こずる相手なんじゃよ? その展開はちょっとテンションを上げすぎではないかの?」
「邪竜様。これはあくまで想像です。現実といささか違う展開となることもご容赦ください」
「今までのお主の話は何だったの?」
土台から全否定である。これでは結局、レーコの妄想に付き合っただけではないか。
「ですが邪竜様。このイメトレで一つだけ確信できたことがあります。当初は上空で眺めるだけが精一杯だった魔王を、最後には己が手で仕留めるに至ったということは――私は戦いの中で成長するタイプだということです」
「絶対に違うと思うなあ」
間違いなく、思い込んだら手が付けられないタイプである。
そしておそらくこの先も、この見立てが覆ることはない。




