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【アニメ放送記念短編】ペリュドーナからの献上品

アニメ放送開始記念SS3本目です


今回は邪竜様とレーコがペリュドーナを出発する直前の話です

「食料よし。薬品よし。衣類に毛布も入れたな。路銀は革の巾着の中に詰めてあるから失くすなよ」

「何から何まですまんのう」

「なに、構わんさ。こちらこそお前たちには世話になったからな」


 アリアンテの道場で、わしは何度目かも分からない礼に頭を下げていた。

 無一文のわしらの旅立ちのために、アリアンテは物資から資金まで一通りを揃えてくれたのだ。正直なところ旅立ちなんてしたくないが、何もなしに追い出されるよりは遥かにありがたい。


「礼の必要などありません邪竜様。下々の人間にとって邪竜様に富や血肉を捧げることは最高の栄誉。現に私は眷属として採用していただいてから常に歓喜の絶頂におります」

「お主の価値観を基準にしないでね。もうちょっとスタンダードな視点から物事を見て。ほらちゃんとお主からもお礼を言って――」


 背後に控えるレーコを嗜めようと振り返って、わしは言葉を止めた。レーコが両腕いっぱいにたくさんの箱や包みを抱えていたのである。


「レーコ? なんじゃの、そのたくさんの荷物は?」

「はい。たった今、裏手の倉庫から取って参りました。私は目撃していたのです。この街の者どもが邪竜様に捧げてきた品々を、そこの女騎士がこっそり自分の倉庫にしまいこんでいたのを……。これは悪質な簒奪に他なりません」

「え? それ本当? アリアンテ?」


 わしが尋ねると、アリアンテは露骨に面倒臭そうな顔になって前髪を掻いた。


「横取りするつもりではない。そこにあるのは、お前たちにとって不要な品だ。後で廃棄する予定だった」

「浅はかな判断を。不要かそうでないかは邪竜様が決めること。さあ邪竜様、さっそく中身を検めましょう」


 そう言ってレーコは床に荷物をまとめ置く。

 まず結び紐がほどかれたのは、ピンク色の可愛らしい箱だった。蓋を開けてみれば、骨付きのぶっとい生肉が入っている。おそらくは『邪竜』とされているわしへの献上品だろう。

 見当違いもいいところだ。わしは根っからの草食――だというのに、僅かな匂いが鼻に触れただけで不思議と唾液が湧き、ふらふらと引き寄せられた。


「なんじゃの……? 肉なのに、やけに美味しそうじゃの……?」

「美味そうだろう。この毒入り肉は、魔物を仕留める罠にうってつけの代物だ」


 危うく手を伸ばしかけたわしに向けて、鋭くアリアンテが言い放った。


「……毒?」

「ああ。致死性の猛毒入りだ。しかも誘因作用のある香剤まで塗ってある。これを罠としておけば、大抵の魔物は排除できる……そういう有用な道具だが、圧倒的強者であるお前たちにそんな絡め手の道具は必要あるまい?」


 アリアンテの目線が「察しろ」と訴えている。

 諭されるまでもなく、本意は理解できた。この物騒な肉は、そんな有用な道具として献上されたのではない。それなら「毒物注意」とかの注意書きがあってしかるべきである。どう考えても、わしの命をピンポイントに狙って贈られてきたブツだ。

 しかしそんな真意が知られれば、レーコは贈り主の口にこの肉を放り込みに行くだろう。


「そうじゃのう。気持ちはありがたいけど、わしらは正攻法で行くから。これはいらんかの」


 あくまで善意で贈られた品を断る体で、危険な生肉の詰まった箱を脇に押しのける。アリアンテとともにやや緊張しながらレーコの様子を見ると、「確かに不要ですね」と疑う様子はない。よかった、無事にやり過ごした。


「では次の品に移りましょう」


 レーコが古紙にくるまれた包みを開く。ごとり固い音を立てて床に置かれたのは、水晶でできた紫色のドクロである。非常に禍々しい魔力を纏い、触れた者すべてに災いをもたらしそうな怨念をひしひしと漂わせている。


「アクセサリーだ」

「……アクセサリーじゃね」


 わしとアリアンテが静かに頷く。レーコはしげしげとドクロを眺め、


「個人的にはなかなかよいデザインだと思うのですが、邪竜様のお首にぶらさげてみてはいかがでしょう?」

「わしもう歳だから、そこまで前衛的なファッションには挑めないなあ」

「そうですか。残念です。ではこのドクロも用済みということで」


 レーコが見下して用済みの宣告をすると、ドクロは「カカカッ」と歯を鳴らして粉々に自壊した。一瞬、レーコとドクロの間に変な主従関係が生まれていた気がするが、見なかったことにする。


 次にレーコが箱から引っ張り出したのは、何の捻りもないシンプルな爆弾だった。ただし箱から出した瞬間、導火線に自動着火されるギミック付きである。


「上に投げろ!」


 アリアンテの絶叫を受け、レーコが勢いよく爆弾を上に投げる。道場の屋根を突き破った爆弾は、街の遥か上空で真っ赤な閃光となって炸裂した。


「お前たちの門出を祝う花火だ」

「打ち上げがセルフサービスとは斬新な花火じゃね」


 気のせいか、だんだん命の狙い方がダイレクトになってきているように感じる。

 それからも、あれやこれやと危険な品物が登場し、アリアンテが適当な言い訳でレーコをあしらっていく。ちなみに途中からわしは床に伏せたままガタガタと震えるだけになっていた。


 そして、ようやくすべての品が片付いた。


「……確かに、これといって使えそうなものはないようだ」

「だから言っただろう。この街の奴らは気遣いが下手な上に、こういう贈り物のセンスが壊滅的に悪い。わざわざ開くだけ時間の無駄だ」

「邪竜様はそれを見抜いていたからこそ、この女騎士の独断に文句を言わなかったのですね……流石です」

「え? 何? もう大丈夫よね? まだ残ってたりしないよね?」

「安心しろレーヴェンディア。もう終わった。すべて終わったんだ」


 ぽんとわしの背中にアリアンテの手が触れ、不覚にも涙ぐんでしまう。


「それでは、そろそろ旅立ちといきましょう邪竜様。もうここに用事は――」


 レーコがそう言ってわしの背中に乗ろうとしたとき、いきなり道場の扉が勢いよく叩かれた。跳び上がったわしに向け、アリアンテは「奥に隠れろ」と、レーコとともに物陰に潜むよう告げた。

 わしらが隠れ、アリアンテが扉を開くと、そこには数名の冒険者が集まっていた。


「アリアンテさん! さっきの爆発は、オレの爆弾じゃないですかい!?」


 なお、このときわしは、咄嗟の判断で「威勢のいい戦士は花火のことを爆弾とも言うんじゃよ」と嘘のフォローを入れた。


「それがどうかしたか? レーヴェンディアは未明のうちにこの街を去った。お前たちの贈り物も渡せなかったから、処分していただけだ」

「……そうっすか。いや、それならよかった。実はオレたち、ちょっと考え直したんです。どんな魂胆があったにせよ、あの邪竜がこの街を救ってくれたのは事実だ。あんなものじゃなくて、もっとしっかりした感謝の品を渡すべきだったんじゃないか……って。なあみんな?」


 わしは目を丸くした。よく見れば、彼らはそれぞれの手に新たな箱や包みを持っている。今度はまともな餞別を持ってきてくれたようだ。

 アリアンテは渋い顔となり、掌を振って追い払う仕草を見せた。


「あのな、もう邪竜はいないんだ。どうせ渡せないんだから、持って帰――」

「でも、また邪竜がこの街に来るとしたらきっとアリアンテさんを訪ねるでしょう? なら、そのときのために預かっておいてくださいや」


 冒険者たちは話も聞かずにドカドカと品物を道場の入口に積んでいく。

 そして返品する間もなく、ガコンと道場の扉が閉じられた。


「……あいつら」

「いやあ、まさかこんな風になるとは思わなかったのう。街を出る直前でよかったわい。今度こそいいものがあると嬉しいんじゃけど」


 わしは上機嫌になって、積まれた贈り物にホイホイと近づく。だが、前脚で触れようとした瞬間、「よせ!」とアリアンテが叫んだ。


「え?」


 遅かった。わしの爪先が触れ、積まれていた品々が傾き一気に床へと散る。

 そこには――禍々しい色をした生魚。ギョロギョロと動く目玉が紡がれたネックレス。導火線に着火済みの爆弾、その他もろもろの危険物が転がっていた。


「え? え? なんじゃの? また罠?」

「違う! さっきも言っただろう! あいつらはとにかくセンスがないんだ! 今度は本気で『罠用の毒餌』とか『アクセサリー』とか……そんなつもりだ!」


 二度とこの街の人間は信用しない。

 そう誓い、滂沱の涙を浮かべて逃げ跳んだわしの脇で、アリアンテが爆弾を再び天井の穴から投げ飛ばした。


 今度の門出の閃光は、美しい七色に輝いていた。


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【二代目聖女は戦わない】
― 新着の感想 ―
[一言] この掛け合いは毎度楽しみですがアニメでどう表現されるのか楽しみでもあり怖くもあり 妄想は飛躍してますが二人は喋ってるだけですからね 2人のどっちに画面の空気感を合わせてくるのでしょうか
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