幹部の共通点
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「そんなの決まってるじゃないですか! わたしが幹部に相応しいくらい凶悪で恐ろしい魔物だからですよ! 最下層ランクとはどういうことですか!」
プンスカと腹を立てた様子で聖女様が抗議の声を放つ。
だがもちろん、どこからどう考えても聖女様に『凶悪で恐ろしい』要素は見当たらない。
アリアンテは聖女様をじっと眺めながら続ける。
「もし私が魔王軍の採用担当なら、幹部待遇どころか下っ端でも正直要らんと判断する」
「で、でも神様としては聖女様も立派にやっておるから……魔物としても強いと勘違いしたのではないのかの?」
「いいや。そもそも、前から少しおかしいと思っていた」
レーコに絞め落とされて気絶中の操々をアリアンテが指さす。
「この操々も確かに強い魔物だ。だが、凶悪かどうかといえば疑問符が付く」
「操々さんも根は悪い魔物ではないもんの」
今はこの洞窟の修行神様として、魔物を脱却しているようだし。
「だけど、わざと凶悪じゃない魔物を勧誘するわけないと思うよ。ほれ、精神魔物の『虚』さんとか、偽眷属さんとかは十分魔物らしかったし」
「……旅の中で他の幹部には遭遇しなかったのか?」
「今のところ遭ってはおらんの。ヨロさんは幹部じゃなくて先代魔王じゃし」
もっとも、わしが昼寝とかしている間にレーコが返り討ちにしている可能性は捨てきれないけれど。
と、そこで聖女様がのびているドラドラに駆け寄って揺さぶり始めた。
「ちょっとドラドラさん! 起きてわたしへのスカウト経緯を説明してあげてください! 魔王軍はわたしを貴重な人材として欲しがっていたんですよね! そうですよね!」
「知らん……俺はただ任務に従っただけのこと……」
ちなみにレーコもドラドラの頭に触れて記憶を上映しているが、流れているのは『殴られ水に沈められ野菜を口に詰め込まれている』という走馬灯めいた光景だけである。
レーコにやられたのがよほどのトラウマとなっているらしい。
「しかしまあ、一つだけなら幹部全員の共通点を挙げられんこともないが……」
しばらく考え込んでいたアリアンテが目を細めながら呟く。
「え? どんなの?」
「お前と相性がいい」
「……相性?」
「ああ」
頷いてからアリアンテは声を落とす。
「お前は普通の雑魚魔物と戦っても瞬殺されるくらい弱いだろう。だが、把握している幹部連中が相手なら善戦が期待できる」
いわれてみればそうだ。
操々はわしへの敵意よりも好意が強く、全力で敵対してきたというわけではなかった。
また『虚』との対峙においては、美味しい葉っぱ独り占め事件という悲しい出来事があった。
そして最も難敵と思われた偽眷属は――わしが天敵となる強弱逆転の能力を持っていた。
もし聖女様が魔王軍の幹部に抜擢されていたとしても、やはりわしとはいい勝負になったことだろう。実際、誤解されたまま聖女様と戦ったときはわしが辛勝を収めたわけだし。
とはいえ。
「なんでわざわざわしと相性悪い魔物を魔王軍の幹部にしとるの?」
「私に聞かれても知るものか。単なる偶然という可能性もある」
アリアンテは悩むように髪を掻いた。
現状、魔王軍の正体について何かを推測するには情報が少なすぎる。
わしはこれまでの旅路を脳裏に振り返りつつ、何か手掛かりはないかと熟考する。
その結果――
「ここは一つ気分転換にみんなでご飯でも食べないかの?」
「面倒臭くなっただろうお前」
「まあそれもあるけど……せっかくみんな集まってくれたんじゃから」
わしの提案に対し、レーコが素早く反応して荷物から鍋を取り出した。
「この人数ならばメインは鍋でよろしいでしょうか」
「うんレーコ。お願いしてもいいかの。食材は――」
「はいはい! わたしにお任せくださいっ!」
聖女様が得意満面の表情で袖からキャベツやニンジンを取り出す。
よし。完全に食事の流れになった。これでいったん休憩できる。
わしはうつ伏せになって、煮込まれていく野菜の香りをスンスンと嗅ぐ。
団欒の安堵感と芳しさに包まれ、少しばかりウトウトと意識が落ちそうになる。
【――レーヴェンディア様】
「……うん? 今、誰かわしを呼んだ?」
うっかり眠りかけていたところで、誰かに名前を呼ばれた気がして目を開く。
しかしレーコと聖女様は鍋支度、アリアンテと狩神様は肉を焼いており、操々はドラドラは寝て(気絶して)いるだけだ。
「気のせいかの?」
夢うつつで空耳が聞こえたのかもしれない。
わしは再び目蓋に重みを感じ、浅い眠りに沈んでいく。
【――どうぞこの私を】
まただ。
どこか聞き覚えのある声。
男とも女ともつかぬくぐもった声。
【――お召しあがりください】
偽眷属の声だ。
しかしこの台詞は、かつてレーコがわしに告げたもののはず……
そう思いながらも、わしはそのまま眠りに落ちた。




