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謎のリクルート基準


「レーヴェンディア。念のために聞いておくが、あの記憶は事実か?」

「ちょっとわしには心当たりがないのう」


 キャッキャウフフな光景がスクリーン上映される中、わしとアリアンテは冷めた表情でそれを眺める。

 操々は恍惚とした顔で、レーコはそれを見下しつつの歯ぎしり。

 狩神様と聖女様は最初からあまり興味がないようで、ちょっと遠巻きに神様談義に興じている。


「おい貴様。ふざけた妄想はやめろ。今すぐに魔王がらみの記憶を想起しなければ、この場で頭を握り潰してやるぞ」

「はっ! 悔しいかチビッ子! これがアタシとレーヴェンディアの魔王軍時代の秘められた記憶……ん……?」


 レーコに対して自慢げに反論を試みた操々だったが、語気はだんだんと尻すぼみになっていく。


「いや違う。これはアタシが寝る前に妄想してる内容……記憶じゃない……ううん……?」

「待てぬいぐるみ。もう一度よく探ってやる」


 操々の頭部を握るレーコの右手がさらに光を強めた。

 そしてレーコは眉を顰める。


「なるほど。魔王に関する情報を吐かせようとした場合は、偽りの記憶で攪乱するようにプロテクトがかかっているようです。しかし今の私の力ならプロテクト解除など造作もありません」


 岩壁に投影されていた光がいったん消え、「読み込み中」と表示されてから再び上映が始まる。

 そこに映されていたのは――


『よぉし。このアタシが主催する第1回、魔王軍幹部会の招待状を書かなくっちゃ。メインゲストにやっぱりあの邪竜レーヴェンディアを招きたいなあ……。出し物をたくさん用意しなくっちゃ』


 操々が卓上でせっせと筆を動かし、魔王軍幹部会の招待状を書いている風景だった。

 誰もロクに来なかったという、彼女にとっての悲劇の記憶である。


「う……あ……ぁ」


 やはり黒歴史なのか、操々は死にそうな声で喘ぎ始める。

 しかし、この光景には魔王軍に関する多大なヒントが隠れていた。


 真っ先に気付いたのはアリアンテである。


「眷属の娘。招待状だ。招待状の部分をもっと拡大できるか? 宛名や文面を見れば他の幹部の名前や素性が把握できるかもしれん」


 アリアンテからの指示にむっとした様子を見せつつも、レーコは「言われずとも分かっている」と招待状の部分を拡大した。


「一通目は『邪竜レーヴェンディア様宛て』……お前だな」

「みたいじゃね」


 問題は続く内容である。セーレンで戦った精神体の魔物の『虚』という魔物はバッタ一匹だけ幹部会の遣いによこしてきたというから、二通目は『虚』宛てだろうか。


 しかしそんな思惑は外れた。


「二通目も……お前だな。『邪竜レーヴェンディア様宛て』」

「一通目にミスとかあったのかの?」


 わざわざ書き直させてしまうとは申し訳ない。

 過去の操々に向けて頭を下げつつ、続く三通目を見る。


「三通目も『邪竜レーヴェンディア様宛て』か……」


 スクリーン内の操々は一心不乱に筆を動かし、狂気的な空気を漂わせながら招待状にセルフリテイクを繰り返し続けている。

 レーコが早送りをすると、みるみるうちにボツ招待状の山は積み上がっていく。


「お、ようやく完成したみたいだな。満足げに封綴じしてるぞ。今のは……だいたい二百通目か」

「招待状ってこんなに執念が籠っておるものなんじゃね」


 もし今後、操々から何かしらの招待状がきたら大事に保存しておこうと思う。

 でないと何かしらのバチが当たりそうだ。


 さて、肝心なのはここからだ。邪竜レーヴェンディア以外の幹部の宛名は――


 ばたん、と。


 わし宛ての招待状だけで疲労がピークに達したのか、過去の操々はそのまま机に突っ伏して休憩し始めた。

 レーコが舌打ちとともに再び早送りをしようとしたとき、画面に隅から割り入ってくる人影があった。


『書き上がったようですね。それでは、この招待状は責任をもって私が届けましょう』


 黒いコートに×印の仮面。間違いなくあの偽眷属である。

 机に突っ伏したまま頷く操々。そして偽眷属は、操々が最後に書き上げた招待状の一枚を持ち去っていく。


「邪竜様への手紙を騙し盗んだわけか。万死に値する罪だ。既に奴は殺したが、もっと苦しみを与えてやってもよかったな」

「チビッ子……あんたとは反りが合わないけど、そればっかりは感謝するよ。アタシの招待状の仇を取ってくれてありがとう」

「ふん、勘違いするな。私はただ邪竜様の私物を奪った不届き者が許せないだけだ」


 共通の敵を目の当たりにしたことで、レーコと操々の間に若干の絆が芽生えつつある。


 だが、おかしかった。

 偽眷属に手紙を渡し終えた後、操々は他の幹部への招待状を一切書こうとしなかったのだ。


 レーコがかなり高速で早回しをするが、やはりどこにも別幹部への手紙を書いているシーンはない。


「どういうことだ貴様。幹部会ということは、他の幹部にも書いたはずなのだろう?」

「たぶん。でも、なんか上手く思い出せない……あっ! そっか! アタシが出し忘れてたから誰も来なかったのかも! アタシが人望ないからとか嫌われてるからじゃなかったんだ! よかった!」


 寝言は寝て言え、とレーコが操々の首に絞め技をかけた。

 操々はコテンと一秒で意識を落とし、記憶の上映は終了する。


「アリアンテ。今のはどう解釈すればいいのかの?」

「まだ何とも言えん。とりあえず次の情報源を探ってみるしかないな」


 次の情報源とくればドラドラだろう。

 ほぼ全員の目が、瀕死の彼に向くが――


「あ! とうとうわたしの番ですか? みんなが満を持してわたしの話を聞いてくれるわけですね! 何を隠そうわたしは魔王軍に幹部待遇を約束されて勧誘されてたんですよ! もしも応じていたら、魔王軍の中でメキメキと頭角を現して次期魔王に推挙されていた可能性も十分にあったと思いますよ!」


 聖女様だけは明後日の方向に活き活きし始める。

 今日こうして久しぶりに会えたことは嬉しく思うけれど、正直なところ聖女様には情報源としての働きを求めていない。


 と、そこでアリアンテが聖女様に向く。


「ん……待て。聖女よ、お前を魔王軍に勧誘に来たのはこのドラドラだったな?」

「そうですよ、しつこく何度も勧誘してきたんです。よっぽどわたしという人材が欲しかったんでしょうね。有能すぎるのも罪ですね。困ってしまいます」


 セーレンのときは魔王軍の勧誘に怯えていたというのに、脅威が去った今では鼻高々で自慢話の種にしているのがなんとも小物らしい。


「のうアリアンテ。聖女様の話は後でもいいのではないかの?」

「いいや。少し疑問が湧いてな」

「疑問?」


 ああ、とアリアンテは頷く。


「魔王軍は――魔物としては最下層ランクのこの聖女を、なぜわざわざ幹部待遇で勧誘したんだ?」

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