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事情聴取を始めます


「……つまりそれは、魔王もお前と同じく部下に担がれているだけの無能ということか?」

「ということになるのかのう」


 現状、やはりその解釈が一番妥当な路線と思える。

 レーコの千里眼によれば魔王軍なる組織も確認できないそうだし、既に魔王がボロを出して瓦解済という可能性すらあり得る。


「しかしのう。ヨロさんは『怪しい』と言うのよ。レーコの千里眼にも盲点があるんじゃないかって。幹部だった偽眷属さんもハッタリだけの魔王に騙されるほど安易な相手には見えなかったというし……」

「ヨロさん? 誰だそいつは。手練れなのか?」

「ああうん。この間の旅先で友達になった魔物での。魔王さんなんじゃって」

「そうか魔王か。他ならぬ魔王がそこまで言うなら、一考の余地は……」


 途中まで言ってから、アリアンテはがしっとわしの顔面を鷲掴みにしてきた。


「おい待て。ふざけているのか? 魔王がいないと言ったそばから、今度は魔王に会っただと? しかも友達になっただと?」

「ち、違うんじゃよ。ヨロさんは魔王だけど元・魔王というかね。今はただの無害な人じゃから」


 そこでわしは、ヨロさんや焔華との顛末を掻い摘んで説明した。

 ついでに偽眷属を倒した戦いの詳細も。


「要するにそのヨロさんというのは、雷剛鎧ラーガンか。まさか復活していたとは……」

「ありゃ? アリアンテも知っておったの?」

「大昔に君臨した魔王としてな。長い歴史の中でも一・二を争うほどに強力な魔物と伝えられている」

「うん。最初に会ったときはレーコよりも強そうな雰囲気すらあったから」


 今はレーコの強さが3億倍以上になったのでヨロさんでもたぶんあの子を止められないけど。


「ん。でもヨロさん……雷剛鎧が大昔の魔王ということは結構知られておったのよね? 今の魔王が出てきたとき、雷剛鎧が復活したとは誰も考えなかったの?」

「伝承でも雷剛鎧は単騎を好む性質だったという。計略を謀ることはなく、人間と戦うときは正面から堂々と決闘を申し込んできたと。その雷剛鎧と今の魔王の戦略のイメージがまったく合わん」


 確かに、わしが初めてペリュドーナを訪ねたとき、街は卑劣な戦法で襲われていた。大量の人面鳥の死骸を、繰首頭が操っての物量作戦だったか。

 たぶんヨロさんが魔王軍のボスなら死んでも実行しないような作戦である。


「そもそも魔王というのは個体名というより、とりわけ強力な魔物を示す一種の称号のようなものだからな。雷剛鎧ほどの強さではないにせよ、これまでに魔王を自称した魔物は数例存在する。過去の魔王が復活したと考えるよりは、新たな手合いが出てきたと考える方が自然だ」

「そういうもんかの」

「まあ、実際のところは過去の魔王について資料が少なすぎて『復活』だろうが『新手』だろうが大差ないのが実情だな。雷剛鎧についても『正々堂々強かった』くらいの情報しか残っていない」


 ヨロさんについてはそれさえ踏まえていればたぶん情報の9割くらいカバーできていると思う。

 あとはストーカー気質で酔っ払いがちという点が加われば10割だ。


「じゃあ操々さんやドラドラさんに詳しく聞いてみようかの。実際の魔王はどんな魔物だったかって」

「そうだな。それがいい」


 わしとアリアンテは頷き合って、全員集合の手招きをする。

 レーコは空中での見張りをやめて降下し、聖女様と操々は口喧嘩をやめる。ドラドラについてはまだ寝転がっているので容態の回復を待つ。


「洞窟を騒々しくしてすまんの。はいこれ狩神様にもおみやげ」


 そして洞窟の入口で胡坐をかく狩神様には、即効性のスタミナドリンク詰め合わせをプレゼント。

 ここを訪れる修行者たちを、狩神様がより効率よくスパルタで鍛えるための必須ツールである。


『アリガト。コレデモット容赦ナク鍛エラレル』

「できれば容赦はしてあげての」

『オマエニモ後デタップリ飲マセテヤル』


 狩神様からの死刑宣告は聞かなかったことにして、わしは円になった一同(ドラドラ除く)に頭を下げる。


「今日はわざわざ忙しい中集まってくれてありがとうの。そんじゃ、まずは操々さん。魔王ってどんな魔物だったかの?」

「うーん……よく分かんない」


 しばしの沈黙。


「え? だってお主、幹部だったんじゃないの?」

「幹部会のパーティーやっても誰も来なかったし……魔王本人にも会ったことないし……」


 操々がずぅんと項垂れて一人で三角座りを始める。そうだった。この子は基本的に魔王軍で孤立していたのだった。うっかりトラウマを刺激してしまった。


「でも魔王からの命令とかはあったんじゃろ?」

「あったような……なかったような……あったのかな……?」


 歯切れが悪い。

 そこでアリアンテがため息をついた。


「ご覧のとおりだ。当然、私もこいつが寝返ったときに情報を引き出そうといろいろ聞いてみた。だが、記憶に封印でもかけられているのか、何一つ有用な手掛かりは得られなかった」

「えぇ? じゃあわしらが帰ってきた意味が……」


 わしの言葉を遮るように、アリアンテがすっとレーコを指差した。


「ん? レーコがどうしたの?」

「元からデタラメな力が3億倍以上になったのなら不可能などあるまい。今ここで、封印されているすべての記憶を洗いざらい探らせろ」

「えぇ? でも、いいのかの? 記憶を探るなんて操々さんも嫌なんじゃ……」


 そのとき、わしの背中に操々が乗っかってきた。

 人型ボディから抜け出て、今はもう本来のぬいぐるみ姿である。


「いいんだよレーヴェンディア。アタシのすべてはあんたのものだから……記憶だってなんだって覗かせてあげちゃう! きゃっ!」


 嬉しそうにぴょこぴょこと耳を振る操々の頭を、がしりとレーコが掴んだ。


「ではお望み通り、すべての記憶を吸いだして廃人にしてやろう」

「廃人にしちゃわないで。魔王に関しての部分を覗くだけでええから」

「了解しました。ついでに覗いた光景をそのままスクリーン上映致しましょう」

「相変わらず便利じゃねお主の力」


 レーコは右手で操々の頭を掴みつつ、左手で洞窟内の岩壁に向けて光を放射する。

 薄暗い岩壁に明々と映し出されるのは、現実さながらの明瞭な光景である。


 そこに映されていたのは――


『ククク……操々よ。お主の実力、美しさ。なかなか気に入ったでの……。わしの玩具にしてやろう。せいぜいわしに仕えて尽くすことじゃな……』

『レーヴェンディア……! うん! アタシたち、ずっと一緒だから……!』


 なんかキラキラした幻想的な風景の中で、やたらと美化されたわしと操々さんが楽しげに会話している光景が、そこにはあった。



「やだ。アタシとレーヴェンディアの秘密の邂逅の記憶がみんなに見られちゃってる……!」



 照れ臭そうに頬を赤らめる操々であるが、悪質な記憶の捏造であることは言うまでもなかった。

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