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魔物と神

全編書き下ろしの書籍版3巻が10月1日にスニーカー文庫より発売予定です!

(ページ下部にて表紙公開中!)


また、コミカライズ4巻も発売中です!

どちらもよろしくお願いします!


「そ、操々さん。元気じゃったかの」

「元気元気! レーヴェンディアが来てくれるんだから元気じゃなくても元気になっちゃう! きゃっ」


 桃色の髪に赤い瞳。前に会ったときのウサギ姿とは全然違っていたが、雰囲気だけで間違いなく操々だと分かる。


「なんだ貴様その面妖な姿は。人間に擬態してよからぬ企みでもするつもりか?」

「分かってないねえチビッ子。これはアタシなりのオシャレ兼強化外装だよ」

「オシャレと強化外装って両立するものなんじゃね」


 ぴょこんと頭から兎耳が生えたのを見る限り、本体のぬいぐるみは頭部に収納されているらしい。

 様子を見る限り、操々に別段弱った様子はない。それどころか前以上に元気なくらいかもしれない。


 レーコにのしかかられながら、操々はじたばたとこちらに手を伸ばしてくる。

 ちょうどいいタイミングなので、伸ばしてきたその手にお土産の『レーヴェンディアぬいぐるみ』を掴ませる。


「レーヴェンディア……これは……?」

「うん。お主へのお土産じゃよ」

「レーヴェンディアを模った人形をアタシに……? つまりこれは、アタシにレーヴェンディアのすべてをくれるっていうプロポーズの証……」


 ギラギラと瞳に炎を宿す操々だったが、その兎耳をレーコがハンドルのように掴んだ。


「勘違いするな愚か者。それは『お人形にはお人形がお似合いだ』という邪竜様からのメッセージだ」

「へ~? 言うねえチビッ子~? アタシはあんたの知らないレーヴェンディアの秘密を知ってるんだけど~?」


 わしの背から汗がどっと噴き出す。

 その秘密とは間違いなく『わしが弱い』ということだろう。既に操々は狩神様やアリアンテからだいたいの事情を聞いているのだから。


「ふ、下手な挑発だ。私は邪竜様の筆頭眷属。一心同体といっても過言でない立場だ。貴様ごときが知っていて、この私が知らぬ秘密などあるはずがない」


 しかしレーコは動じない。

 不敵かつ自信満々な態度で、操々の発言をデマと斬り捨てている。

 一方、操々はわしの方を見ながらニヤニヤとしている。ひょっとしてからかわれたのだろうか。


 そこでアリアンテが仕切るように手を叩いた。


「挨拶はそれくらいでいいだろう。そろそろ本題といくぞ」

「まだドラドラさんに挨拶しておらんけど」

「そいつはそっとしておいてやれ」


 レーコの助言のもと、ドラドラにもお土産としてペットフードを用意していたのだが、どうやらこの流れだとお蔵入りになりそうだ。


 洞窟の入口はよく見れば前に来たときよりも随分と広くなっていて、何らかの拡張工事が施されたのが窺えた。たぶんここを修行場所としているペリュドーナの冒険者たちによるものだろう。


 と、その入口にふと人影が立つ。

 狩神様だった。


「おお! お久しぶりじゃね狩神様」

『久シブリ。少シハ強クナッタ?』

「そうじゃね。うん、わしもなかなか頑張れるようになったでの」


 わしが駆け寄ると、狩神様は褒めるようにぽんぽんと背中を叩いてきた。修行モードに入っていなければ優しい神様なのだ。

 再会を喜ぶわしらの間に、アリアンテがすっと入ってくる。


「狩神よ。ここ数日、どうも魔物が弱ったりする異変が相次いでいるようだ。ここに異変はないか?」

『ウン。ダイジョウブ』


 ふむ、とアリアンテは頷いて今度は操々に声を飛ばす。


「おい操々。お前はもう魔物ではなくなっているな?」

『そうなの? アタシはよく分かんないけど』

「魔力はどこから補充している?」

『う~ん。なんかそういえば最近、ここに来る連中に修行つけてあげたりすると魔力が湧くような……』


 それと似た存在を前にも聞いたことがある。というかたった今、すぐ間近にいる。

 わしがその心当たり――聖女様に振り向くと、鼻高々で操々に歩み寄っていくところだった。


「おやおや? あなたも魔物から神様になったクチですか? そういうことならわたしの後輩ですね! わたしは魔物としても超一流で、今も神様として各地で崇められる超グレートな存在ですから、このわたしを先輩と崇めて精進していくのをお勧めしま――うぺっ!」


 操々からデコピンを浴びて聖女様は尻餅をついた。


「何をするんですか! せっかく先輩として心得を伝授してあげようとしてるのに!」

「はっ! このアタシがあんたみたいなポンコツ臭い小娘に先輩面されてたまるもんか!」

「誰が小娘ですか! わたしはたぶんあなたより年上ですよ! さあ素直に敬ってください!」


 同類同士の口喧嘩が始まる。

 こうやって見ると、魔物が神様になることはあんまり珍しくないのだろうか。ヨロさんも魔物から焔華の配下に入ったことだし。


 わしと並んでその口論の様子を見ながら、アリアンテは静かに呟く。


「今のところ弱っている魔物で確認できているのはドラドラだけか。レーヴェンディア、ここに来る途中で魔物と遭遇したりしなかったか?」

「今のレーコに近寄ってくる魔物はおらんようでの」

「そうだな。下手をすれば接近しただけで消し飛びそうだしな。よくもまああそこまでパワーアップしたものだ、誰かさんのおかげで」


 藪蛇だった。

 わしが身を縮ませると、アリアンテがぐしゃりと髪を掻く。


「とにかく本題に入るか。まず単刀直入に聞かせてもらうが、あのパワーアップの理由はなんだ?」

「うう、違うんじゃよ。わしは確かに『強さ100倍!』なんて煽ったけど、まさか強引解釈で3億倍オーバーにされてしまうとは思わなかったんじゃよ……」

「相変わらず下らん理由というのは分かった。だが、そもそも100倍としても相当の異常事態だろう。いったいどんな敵と戦っていたんだ?」


 アリアンテもかつて偽眷属の強さは目の当たりにしている。

 それと戦ったという事情を話せば、きっと情状を酌量してくれるだろう。


「ほら。前にわしらを襲ってきた偽物の眷属さんじゃよ」


 それからわしは、彼の能力が『強弱の逆転』だったことや、それを正面から捻じ伏せるためにパワーアップを許可したことを説明した。


 アリアンテは渋い顔でそれを聞き、


「……相手の能力のカラクリが分かったなら、他にいろいろやり方があっただろう。お前を砲弾みたいにぶん投げるとか、お前の尻尾を掴んで武器にするとか」

「わしへの負担を度外視してるのがお主らしい発想じゃね」


 あの場にアリアンテがいたら、たぶんわしを振り回して偽眷属に叩き付けただろう。一切の迷いなく。


「まあ、なんにせよ倒せたなら構わんが……それと異変が繋がらんな」

「異変というのは、魔物が弱っとること?」


 わしが尋ねるとアリアンテは首を振った。


「いいや、それだけじゃない。タイザンカタリトカゲという動物の名がいきなり人々の間で思い出されたりと、妙な出来事が他にも続いている」

「タイザンカタリトカゲ……? なんじゃのそれは?」

「お前のことだ」

「わしってそんな名前のトカゲだったんだ」


 ドラゴンではなくトカゲという宣告は受けていたが、正式名称をこんなところで知ることになるとは。


「もう一つ確認させろ。その偽眷属には確実にトドメを刺したんだな?」

「うん。その後にレーコが千里眼で見たけど、反応はなかったと言っておったよ」

「そうか……ならばこの異変は、幹部を欠いた魔王が何か動き始めたということか……?」

「あ、それなんじゃけどね。レーコが探した限り、魔王も存在しないんじゃって」


 最大の相談事項をわしが告げると同時、アリアンテは珍しいほど呆然とした表情になった。

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