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【書籍3巻発売記念SS】レーコ唯一の不可能

全編書き下ろしの書籍版3巻が10月1日にスニーカー文庫より発売予定です!

(ページ下部にて表紙公開中!)


また、コミカライズ4巻も9月21日に発売予定です!

どちらもよろしくお願いします!

「レーコ。お主って多芸じゃけど、できないこととかあるの?」


 それは、レーコとともに空の旅路を進んでいるときのことだった。

 相変わらず気絶しそうな速度ではあるが、近頃慣れてきたおかげで、わしには会話ができる程度の余裕がある。

 そこでふと、前々から気になっていたことをレーコに尋ねてみたのだ。


「お主って戦ったり飛んだりするだけじゃなく、千里眼とか転送魔法とかも使うじゃろ? もうほとんどなんでもできそうな勢いなんじゃけど『これだけは無理』っていうことはあるの?」


 レーコがその場のノリだけで大概のことを実現するのはこれまでの実績でよく分かっている。しかし、さすがに全知全能の存在ではないはずだ。


 ここでレーコの口から確実に「できないこと」を聞き出すことで、この子の力にも上限があるのだと安心したかった。


「もちろんでございます。私の力など邪竜様のごく一端に過ぎぬものでありますから、当然ながら限界というものがあります。不可能なことも多々あります」

「本当? たとえば?」

「まず大前提ですが、私の意志は邪竜様に忠実でありますゆえ、それに背くことは絶対にできません」


 わしは静かに眼下を見下ろす。眩暈がするほどに凄まじい速度で雲が流れている。


「ねえレーコ。ちょっとわし減速したいんじゃけど」

「申し訳ありません。魔王討伐を急ぎますので、ここはスピードを維持させていただきます」

「そっか」


 一瞬で矛盾を露呈した気がするが、この程度はいつものことである。


「また転送魔法につきましても、見知らぬ土地と空間を繋ぐことはできません。私の知っている範囲内が限界となります」

「でもお主、千里眼で遠くの場所を見渡せるよね」

「そうですね。それを踏まえれば実質無制限ともいえます」


 わしは再び眼下を眺める。やっぱり眩暈がするほど凄まじい速度で飛び続けている。


「今向かってる目的地を千里眼で見れば、わざわざこうやって飛ばなくても転送魔法で移動できるのではないかの?」

「申し訳ありません。新たな地への旅には邪竜様の偉大なる翼がもっともふさわしいかと思いますので、ここは飛行を維持させていただきます」

「そっか」


 要するにレーコは今、気分的にノリノリで空を飛びたいのだ。減速できないか欲を出してみたが、どう足掻いても無理そうである。

 欲は出さず、落ち着いてレーコの不可能事項を確かめていく。


「他にまだできないことはあるかの?」

「はい。私は魔王討伐の切り札である戦闘特化型の眷属ですから、戦闘以外の分野では不得手が多いです。破壊しかできない冷酷無比の存在というわけです」

「前にお主が料理を作ってたとき、足りなくなった食材を魔法で増量したりしてたよね」

「兵站の確保も戦闘の一環でありますから」

「あと、わしの腰痛とかをよく治してくれるよね。ありがとね」

「治療も重要な戦闘行為です。常在戦場。人生において、戦いでないときなどないのです」


 要するに戦闘限定といいつつも、レーコ的拡大解釈でいくらでもなんとかなるわけか。

 ついでにいえば『戦闘特化の破壊しかできない存在』という設定はたった今響きのカッコよさだけで作ったと思う。明日には忘れてそうだ。


 しかし参った。ここまで聞いた結果だと、本格的に不可能が見つからない。

 こうなれば、わしに想像できる最大限の不可能をぶつけてみよう。


「死んだ人を生き返らせたりとかはできないよね? さすがにね?」

「それは私には不可能です」


 ほっとした。そんな神様じみた所業すら可能だったらどうしようかと思った。


「亡者の魂の管理は、冥府の主たる邪竜様のみに許される仕事ですから。私が手出しをするわけにはいきません」

「じゃよね。なんかわしにはできそうな口ぶりなのが気になるけど、いちおうお主には不可能なのよね?」

「現状では不可能です。しかし、もしも邪竜様が冥府の管轄権を委任してくださるなら――」

「しないから。なんか倫理的にアウトっぽいからしないから」


 レーコにそこまでトンデモを許すわけにはいかない。


「……というか、さっきから実際のところ不可能らしい不可能がないよねお主?」

「私自身には至らぬ点が多々ありますが、いざ不可能に直面すれば、乗り越えるために必要なパワーを邪竜様から適宜供給いただいております。しかしそれは邪竜様の成せる技であり、私の力ではありません」


 お主の力である。疑いの余地なく。

 もちろんそんなことは言えない。だが、こうしてレーコの力の強大さを痛感すると、その保護者的立場のわしは改めて気が滅入った。


「ですが邪竜様。私にも一つ絶対の不可能があります。どう足掻いても、天地がひっくり返っても実現不能なことです」


 と、ここでレーコが満を持したかのように切り出した。不可能というネガティブな内容だというのに、なぜだか自信満々な口調で。


「……どんなことじゃの?」

「邪竜様と離れ離れになること、です。それだけは絶対にあり得ません。いついかなるときも、私は邪竜様と共にあり続けましょう。これを覆すことは不可能中の不可能です」


 わしの背の上で、レーコがえへんと胸を張った。

 その得意気な顔を見ていると、なんだか少し気が楽になった。

 どんなに力があっても、あくまでこの子は普通の子供なのだと。


「そうじゃね。わしにもそれは不可能じゃと思うよ」


 わしは笑って答えた。レーコも嬉しそうな表情で頷き返してくる。




 だけどやっぱり、飛ぶ速度はもう少し落として欲しいな――と密かに思った。


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