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再集結の誓い


『ということは、アタシのところ来るんだよね……? ねえいつ? いつ来るの? レーヴェンディア……?』


 わしが今後の予定を決めるなり、狩神様の爪から声が響き始めた。

 やたらと嬉しげな、しかし同時に不穏な雰囲気も漂わせる操々の声である。


「あ、うん。話だけでええからこの場で済ませても大丈夫なんじゃけど」

『は?』

「ごめんなさい。ちゃんと行きます」


 一瞬で操々の声が怒気を帯びたのでわしは慌てて直接訪問を決める。


『で、いつ来るの? 当然すぐだよね? 眷属のチビッ子に頼んで今すぐ――』

『マア、ユックリ来イ。待ッテル』


 ぐいっと話に割り込む気配があって、狩神様がフォローを入れてくれた。

 何やら操々が反論している声がうっすらと聞こえるが、爪ごしの会話は狩神様に主導権があるらしい。


「まあ、そう遅くはならんと思うよ。わしも少しはマシになったでの」

『ウン。ナカナカ、ガンバッテル』


 強さの面では全然だが、少なくとも飛ぶことだけは平気になった。狩神様にまるで見込みなしと言われたときに比べたらだいぶ成長しただろう。


 狩神様と操々に来訪の約束をし終えてから、わしは他に会うべき人物――というか魔物を思い返す。


「ドラドラさんも魔王軍じゃったよなあ……」


 しかし操々と違って、彼とはやや複雑な関係である。ライオットと一緒になってわしを倒すべく修行していると聞くし、直接対峙するのはちょっと怖い気もする。


 となると、アリアンテに間に入ってもらうしかない。

 どうやって連絡すべきか悩んでいると、街の修理に出ていたレーコと枢機卿が戻ってきた。かなり街は損壊していたはずだが、今のレーコの力をもってすればあっという間に修復できたのだろう。


 ちょうどいい、と枢機卿に声をかける。


「枢機卿さん。ペリュドーナのアリアンテっていう人と連絡を取りたいんじゃけど、通信の魔法道具とかあるかの?」

「もちろんさ。さっきまではそこの雷剛鎧の雷雲によって遮断されていたけど、今は都市間の通信網が使えるとも」


 そこで「む」とレーコが頬を膨らませた。


「邪竜様。通信器具など用いなくても、私が直接念話を送ることも可能です。あの女騎士の脳内に直接呼びかければよいのですね?」

「いかんよレーコ。いきなり頭の中に他人の声が響いたら驚かせてしまうじゃろ」

「むしろ邪竜様からの啓示を受けたことに感謝すべきかと思いますが」

「親しき仲にも礼儀ありじゃから。いきなりの啓示はマナー違反じゃから」


 宥めている間に通信の準備が整う。

 運ばれてきたのは、共振の魔法をかかっているという金属製の耳当てと集音器だ。受けた音波を同じ波長で遠方の共振先にまで届けてくれるらしい。


 枢機卿が国名と身分を告げ、ペリュドーナの交換手に手早く呼び出しを伝える。


「呼び出したよ。アリアンテさんだったね?」

「おお。ありがとうの」

「しかし驚いたな。君があの有名なペリュドーナの女傑とも知り合いだったとは」

「うん? お主もアリアンテを知っておるの?」

「もちろんさ。こと純粋な戦闘においては、僕をも凌ぐ実力者だろうからね」


 枢機卿を基準にされてもよく分からない。わしが彼の実力について見たのは、レーコとヨロさんに二連続で瞬殺されたときだけである。

 実際かなり腕は立つのだろうが。


「む? 強い奴がいるのであるか? どの程度強いのだ?」


 この話題にヨロさんが食い付いた。

 声色を明るくしながらうずうずと身を揺らしている。


「よ、ヨロさん。アリアンテは強いけど敵というわけではないから……」

「しかし腕試しは構わんだろう? そいつも武人というなら、魔王たる吾輩と手合わせするのは望むところなのでは?」


 どうしよう。アリアンテのノリだと本当にヨロさんとの戦いを希望しそうな気がする。

 と、わしが困っていると焔華がヨロさんの脇腹を蹴っ飛ばして教会の床に転がした。


「ほら爺さん。この馬鹿に構わず用件伝えちまえ」

「む、何をするのであるか焔華」

「うるせえな。てめえは今あたしの部下だろうが。勝手に他所様に喧嘩売りに行こうとしてんじゃねえ」


 ヨロさんと焔華が言い争っている隙に、わしは通信器の前に立つ。

 しばらく待っていると、聞き覚えのある声が応対に出た。


「こちらアリアンテだ。用件は?」

「あ、アリアンテ? わしじゃよわし。分かる?」

「……レーヴェンディア?」

「うん。実はいろいろあって、ドラドラさんに話を聞きたいと思っての。あとお主からの意見も聞いてみたいし、近々会えるかの?」


 集合場所は狩神様の洞窟でいいだろう。全員が一堂に集まることができれば意見も交わしやすい。


「分かった。それは構わんが、特に変わったことはないか?」

「ん? 変わったことって?」

「いや。またお前が迂闊なことをして眷属の娘をパワーアップさせていないか気になってな」


 わしの心臓が爆発しそうなほどに脈打った。


「ぜ、ぜんぜん? ぜんぜんそんなことないよ? レーコは前と変わらないままじゃよ?」

「本当か? お前、その様子だと相当焦ってないか? 怒らないから正直に言え」

「……本当に怒らんかの?」

「心配するな」


 ふっ、と半ば呆れたようにアリアンテが笑う。


「どうせそんなことになるだろうとは思っていた。セーレンでの暴走後から既に、とても人間が止められるレベルじゃない魔力量になっていたからな。あれより大きくなったところでもう変わらん。むしろ魔王を倒すのに得するぐらいかもしれん」

「あ、じゃあレーコが強くなったのはお主的に問題ないのね?」

「想定の範疇だ」


 やはりアリアンテは頼りになる理解者である。わしは安堵と共に、隠し立てなく実情を告げる。


「えっとね。ついさっきレーコの魔力が、今までの3億4320万倍になったとこ」



 無音。



 静寂。



 ひたすらに長い沈黙。






「――お前、次会ったら覚えておけよ」


 やがて短くその一言だけを残し、アリアンテの側から通信が切れた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 山深くの洞窟の中には冷涼な空気が漂っている。


 かつてこの洞窟に住んでいた巨大なトカゲはもういない。眷属を名乗る少女に引きずり出され、広い世界へと旅立って行った。


 その誰もいなくなった洞窟の中で今、何かが蠢いている。

 まるで羽虫の群体のごとくして動くのは、魔力を帯びた黒い霧だ。


 洞窟の薄暗い闇のなかにあって、さらに濃い闇を持つ霧は次第に集まって凝縮していく。

 集まって形作るのは――人型だ。



 やがて生まれた人型は歩き始める。

 洞窟の出口に近づくにつれ、外から差し込む光でその姿が顕わとなっていく。


 ×印の仮面を被り、黒衣を身に纏った魔物の姿が。



「――今しばらくお待ちください。レーヴェンディア様」



 誰も聞く者のいない洞窟の中で、偽眷属は静かにそう言った。

これにて3章完結です!

次の4章が最終予定となっておりますが、その前に閑話として1話だけ前日譚の第0章を挟みます!

どうぞご期待ください!

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