恩人に一言
レーコの放った過去最強の一撃は、大地を抉って凄まじい爪痕を残していた。
一切を無に帰す爪撃の走った後に、もはや敵――偽眷属の姿はない。
「やったかの……?」
「む。申し訳ありません。出力を上げ過ぎたせいで、消し飛ばしたのか逃げられたのか分かりませんね」
謝りつつもどこか溌剌とした様子でレーコは言う。
その嬉しそうな調子のまま、すぐにぐっと両拳を握って、
「まあ、どちらでも変わりません。私と邪竜様が揃えばもはや完全無敵。あのような奴も、たとえ魔王が相手だろうと、この世に恐れるものは何もありません」
わしもそれに頷く。
気休めではなく心からの同意だった。
あの得体の知れない偽眷属を相手に、レーコは真っ向勝負でねじ伏せてみせた。この子はきっと、誰よりも強い。わしがその自信を支えていけば、もはや敵はいないだろう。
わしが共に戦う勇気さえ持てば、きっとレーコはどこまでも行ける。
――そしてヨロさんが、わしにその勇気をくれたのだ。いいや、気付かせてくれたというべきか。
「のう……レーコ。とりあえず首都に戻ろうかの? ヨロさんはいろいろあって倒してしまったんじゃけど、わしは決してあの人が嫌いではなくての……。むしろ友達みたいに思っとるというか。届くかは分からんのじゃけど、せめてお別れの挨拶をしておきたいのよ」
神様である焔華もきっと、わしと同じ気持ちだと思う。
「邪竜様がそう仰るなら、もちろんでございます。あの鎧はなかなか見上げた奴ではありましたからね。まあ、今のパワーアップした私ならば瞬殺できる程度ではありますが……」
「こういうときでもさりげなく自己アピールをしていくのねお主」
レーコに翼を生やしてもらい、わしらは首都へと飛行する。流れていく地上の景色を見る限り、偽眷属が発生させていた魔物の群れはもはや完全に消え去っている。
やはり無事に倒せたのだろうか? それとも撤退しただけか――……
「おお、戻ってきたぞ!」
そう思いながら首都の上空に至ったとき、わしを指差して首都の人たちが声を上げた。
枢機卿や教会の人だけでなく、一般の人たちも揃って。もはや怯える風ではなく、どこか歓迎するような顔だ。
大聖堂前の広場に着地すると、枢機卿が歩み寄ってきた。
「どうやら君が裏で糸を引いていた魔物を倒してくれたようだね。国を覆っていた怪しい魔力が消え去った。散々と君に無礼を働いた僕が言えた口ではないが、どうか感謝させて欲しい」
「う、うん。わしっていうかだいたいはレーコじゃけど……」
「いいや。君はあの雷剛鎧から我らが神を守ってくれた。それだけで百万千万の感謝に値する」
う、とわしは喉に声を詰まらせる。
「それなんじゃけどね。その雷剛鎧――ヨロさんは、決して悪意があって暴れていたわけではないのよ。雷を落として他の魔物を退治してくれていたし、あの戦いも焔華さんやわしに発破をかけてくれていたのよ。あんまり悪く思わないでいてくれるかの?」
「もちろん分かっているとも。神もそう仰っていたからね」
「焔華さん? まだ話せる状態なのかの?」
「ああ、聖堂の中で君たちを待っているよ。なんでも話したいことがあると……さあ、来てくれ」
広場の周りには群衆が集まっていたが、混乱になるのを防ぐためか教会の兵員が立ち入り制限をして人垣を押さえている。
わしとレーコは遠巻きに見送られながら、枢機卿の先導に従って大聖堂の正門を開く。
そこで待っていたのは――
「うむ、どうやら敵は倒せたようであるな。やればできるではないか。さすがは吾輩を倒しただけのことはある」
「あ、ヨロさん。ありがとうの。おかげさまでわしも勇気を出せたというかね……。一度お礼が言いたかったんじゃけど、こうして言えてわし嬉しいよ」
「はっは。一度どころか二度でも三度でも感謝してよいのだぞ。おっと、祝勝記念ということで酒でもどうだ。この教会の地下にいい葡萄酒が備蓄してあるらしくてな。あの若造の枢機卿が、いくらでも吾輩に献上してくれると――」
「おお。それはええのう。景気付けというやつじゃね」
ん?
しばらくホクホクと円満な会話を続けていたが、何か違和感を覚えてわしは首を傾げる。
冷静になって状況を整理する。
ここはどこか――大聖堂の大広間である。
話している相手は誰か――ヨロさんである。
はて、特におかしい点はないように思うが……
「ほぁっ!? なんでヨロさんがここにおるの!? 消滅したんではなかったの!?」
「む? 吾輩『復活する』って言ってなかったっけ?」
「いや言っておったけど……もうちょっと風情のある復活スパンというものがあるじゃろ?」
魔王の復活という大イベントなのだから、最低でも百年くらいはクールダウン期間を置いて欲しかった。そのくらいの長さならわしにとってもちょうどいい。
「む。そんな風に言われると吾輩が復活しなかった方がよかったみたいでちょっと傷つくのである」
「ああごめんの。嬉しいは嬉しいんじゃけど……」
わしが困惑していると、ヨロさんは楽しそうに笑った。
「冗談だ。これほどまでに早いのは吾輩も想定外ではあったしな。それというのも、焔華が吾輩を助けてくれたおかげだ」
「焔華さんが?」
「うむ。あそこにいるぞ」
そう言ってヨロさんは大聖堂の柱の陰を指差した。
なるほど――とわしは思う。
なんだかんだで、ヨロさんと焔華には腐れ縁的な仲のよさがあった。消滅を見かねて彼女が何か対策を打ったのかもしれない。
そしてわしが振り向いた柱の陰には、
まるでストーカーを見るような、ものすごくうざったそうな顔で――ヨロさんを睨んでいるリア(髪の色的にin焔華)の姿があった。
それだけで、たぶんヨロさんの復活がアクシデント的な理由なのだと察することができた。




