邪竜様&レーコvs偽眷属①
レーコの元に着いたかと思いきや、転送先でわしを待ち受けていたのは特大の斬撃だった。
しかも逃げ場のない両サイドからの挟み撃ちで。
「きゃあああああ――――――っ!?」
ある程度の覚悟は固めてきたものの、いきなり状況が予想を上回ってきた。
咄嗟に頭を抱えて蹲ったわしは、しかし数瞬ののちに自分の無事を自覚する。
恐る恐る視線を上げると、既に光の斬撃は影も形もなくなっていた。わしの足元で忽然と斬撃の跡が地面から消えているので、また例のごとく無効化されたらしい。
「邪竜様!」
そこでレーコがわしに駆け寄ってきた。表情はこれ以上ないほどの喜色を浮かべている。
「さすがでございます。やはりあのような偽物の攻撃など、邪竜様には取るに足らないというわけですね。傷一つなく消し去ってしまうとは。はっ! それにあの魔王も瞬殺されてきたのですね! お役に立てず面目ありません。ぜひその雄姿を目に留めたかったのですが」
「いやはや。私も全力で撃ったつもりなのですが、やはり貴方様には敵いませんね」
レーコと逆方向からすぐに落ち着いた声が響いてくる。
振り向くと、そこには偽眷属が悠然と立っていた。
「お主……」
「さすがはレーヴェンディア様。あの雷剛鎧を苦もなく倒されるとは。本来はその御手を煩わせることなく、この国の神と争わせて共倒れにさせるつもりだったのですが……。お手間をかけさせてしまい申し訳ありません」
「ヨロさんはお主の魂胆なんかとうに見抜いておったよ」
ヨロさんにリア=焔華という情報を伝えたのは、おそらくこの偽眷属だ。
だが、それを知ったヨロさんは決闘でなく――喝を入れに来てくれた。焔華がしっかり目覚め、神として国を守れるように。
「ええ、参りました。神との決闘の舞台を整えると提案したのですが、取り付く島もなくこちらに殴りかかってくる始末でして。しかし――貴方様のおかげであの邪魔者はもう消えました」
偽眷属が両手を掲げると、地底への穴が開くように平原のあちこちに黒色の渦が広がった。
そこから今にも大量の魔物が這い出してこようとしている。
「困っていたのですよ。さきほどまでいくら魔物を喚んでも、雷剛鎧が落雷で消し続けていましたからね。これで何の問題もなく、この国を滅ぼせるというものです」
「レーコ。あの黒い渦を閉じてくれるかの。お主ならできるから」
「はい、やってみます」
わしの言葉に応じて、ぱちんとレーコが手を叩く。
すると、広がっていた渦がすべて綺麗に閉じた。這い出そうとしてきた魔物は日の目を見ることなく闇の底に帰る。
その光景を見た偽眷属は、さして動じることもなく首を振る。
「なるほど、この国を滅ぼすのは中止というわけですね。承知いたしました。レーヴェンディア様の決定とあらば、私はここで一時退くと致しましょう――」
「のうお主。なんでわしの眷属を騙ってこんなことをするんじゃの?」
踵を返しかけた偽眷属にわしは呼びかける。彼は嘆く風を装って仮面に手を当てた。
「何を仰るのです。私は正真正銘、貴方様の眷属ではありませんか」
「わしはこの国を滅ぼしてだなんて一言も頼んではおらんよ」
「真の眷属ともなれば、言葉を交わさずとも貴方の真意を酌むことができるのです。たとえば貴方様が魔王との敵対を望んでいないということも、私はしっかりと察しております。そこの未熟なレーコ嬢と違って」
ですから、と偽眷属は繋ぐ。
「どうぞご安心ください。この私が必ずや、あなたの野望を実現させてみせ――」
「わしは魔王を倒すよ」
わざとらしい身振りで長広舌を振るっていた偽眷属の動きが止まる。
「ヨロさんだって倒せたんじゃから、今の魔王だって倒せるはずじゃよ。レーコ。お主も手伝ってくれるの?」
「もちろんでございます。たとえ敵が魔王だろうと邪神だろうと、邪竜様の敵はすべて私が斬り伏せる所存です」
ウキウキと拳を握るレーコとは対照的に、偽眷属は肩をすくめる。
「レーコ嬢をフォローするつもりなのでしょうが、あまりそのような嘘はよくないかと」
「嘘なんかではないよ」
「では、なぜ脚がそこまで震えているのです?」
虚勢はあっけなくバレた。そう、今現在わしの脚は生まれたての小鹿のようにガタガタと震えまくっていたのである。
「ふん。これは魔王との戦いを想像しての邪竜様の武者震いだ。貴様のような偽物には感じられんか? 邪竜様が震えとともに放つ刃物のごとく鋭い殺意が……」
「今はそういうことにしておいてもらえると助かるの」
「レーヴェンディア様ともあろうものが、軽率な嘘を吐くところは見たくないものです」
若干の怒りを滲ませたように、偽眷属が語気を強くした。
「あの雷剛鎧は所詮過ぎた時代の古き魔王。今の魔王様とは比べるまでもない。いかに貴方様でも、現状の衰えたままでは敵わぬでしょう」
「大丈夫じゃよ。レーコがおるから」
「私にすら及ばぬ未熟な眷属がいたところで、何の足しになるというのです」
わしは決然として否定に首を振った。
「レーコはお主なんかよりもずっと強い子じゃよ」
「ご冗談を。現にこれまでの戦いで、私に手も足もでなかったではありませんか」
口惜しげに唇を噛もうとするレーコの背に、わしはそっと前脚を添えた。
「そこが落とし穴でな。すっかりわしも、お主がとんでもなく強い魔物なんじゃと誤解しそうになっておったよ。でも、そう考えると一つおかしいことがあるんじゃ」
思い出すのは、アリアンテから聞いた以前の偽眷属とレーコの戦いについての詳細だ。
「前に、わしとライオットが操々さんの結界に閉じ込められておったとき、お主はレーコとアリアンテとドラドラの三人を相手に戦ったそうじゃの? 三人を相手にまったく引けをとらんかったとか」
「ええ。まるで歯ごたえはありませんでした」
「でも、一回だけ攻撃が効いたときがあったそうじゃの。この三人じゃなくて――操々さんの部下のイケメンさんの攻撃で」
元々あのイケメンさんはそこまで強くない上に、当時は瀕死に近い状態で攻撃力は皆無に等しかった。仮にこの偽眷属がレーコ以上の強者なら、どんな不意打ちを喰らっても眉一つ動かさなかったはずである。
それが痛打となるほどのダメージを受けた。今にして思えば、あまりに不自然な出来事だった。
わしの言葉を受けて、偽眷属は押し黙っている。
「軽々にヨロさんと戦ったのが運の尽きじゃったな。魔王だけあって、お主の能力もほとんど察しが付いておったよ」
そして消滅する直前、わしにそれを伝えてくれたのだ。
その推測が正しければ、偽眷属の攻撃がわしに効かないことも説明がつく。
「――お主は『相手との強弱関係を逆にできる』んじゃろ?」
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