眷属のピンチに颯爽と
――押されている。
偽眷属と攻防を繰り広げながら、レーコは舌打ちを鳴らした。
邪竜様の眷属である自分が単純な力負けをするということはあり得ない。事実、この偽眷属に気迫でも魔力でも劣っている気は微塵もしない。
だが、いざ戦ってみると毎回劣勢を強いられる。
袈裟斬りに振るった短剣を片手で白刃に受け止められ、鍔迫り合いをしながらレーコは唸る。
「何者だ、貴様」
「だから何度も言っているでしょう。レーヴェンディア様の眷属ですよ」
「嘘をつけ。邪竜様は貴様のことなど知らんと言っていた」
吐き捨てるなり、鍔迫り合いの至近距離のまま偽眷属に向かって咆哮を発する。
眷属として与えられた力は、まさしく竜の雄叫びを実現する。一直線の衝撃波として放たれた咆哮は偽眷属を呑み込み、地平の彼方まで吹き飛ばす――はずだった。
「やれ。力で敵わないからといってうるさく叫ぶのはやめていただきたいですね。駄々を捏ねるようでみっともないですよ」
しかしレーコの咆哮を受けてなお、偽眷属は平然としていた。
不発に終わったわけではない。偽眷属の背後の地面は、衝撃によって抉れ散っている。
警戒にバックステップで距離を置いてから、レーコはじっと目を凝らす。
この偽眷属の強さについて、以前あのアリアンテという女騎士は『何かカラクリがある』と推測していた。
後追いのようで癪ではあるが、レーコもこれには同感である。何かの種がなければ自分と渡り合えるはずがない。
「不審に思っているようですが、種も仕掛けもありませんよ。単純に私の方があなたよりも眷属として一日の長があるというだけです」
「戯言を。よりにもよって邪竜様の仇敵である魔王に与している貴様などが眷属を騙るとは。おこがましいにもほどがある」
「それはどうでしょうね?」
どこか嘲笑するような偽眷属の言葉に、レーコは怪訝な顔となる。
「どうでしょうね、だと? 疑いの余地などあるはずがないだろう。眷属というなら、邪竜様とともに魔王討伐に励むのが務めというものだ。私のようにな」
「ですから、私はそこに疑義を呈しているのですよ。『果たしてレーヴェンディア様は本当に魔王と敵対するつもりがあるのだろうか』――とね」
「馬鹿馬鹿しい。そんな自明のことを疑おうとは。これまで数々の敵を屠ってきた邪竜様の覇道を見ていないのか?」
「ええ。すべて見た上で判断していますとも」
偽眷属はレーコを糾弾するかのように人差し指を向けてくる。
「レーヴェンディア様は今まで明確に魔王様に対して敵意を向けたことはありません。これまでの魔王様に仇なす行いは、すべてあなたが率先してやってきたことです」
「……何だと?」
「レーヴェンディア様の言動を都合よく曲解し、人類に利するべく魔王討伐の立役者へと仕向けようとしている。利用していると言っていいかもしれませんね。その行いが果たして真の眷属といえるでしょうか?」
ゆらりと偽眷属が揺れ、その場から姿を掻き消す。
と思った次の瞬間には、レーコの背面に敵の気配が出現した。
振り返りざまに短剣で斬撃を放とうとして――
「それもあなたの未熟ところですよ」
偽眷属の手刀で短剣は天高く弾き飛ばされ、そのままレーコ自身も吹き飛ばされた。
地に転がって受け身を取るが、手刀を咄嗟にガードした右腕には骨まで痺れが走っている。
くるくると宙で回った短剣は、やがて地面に突き立った。
「あなたはまだ、人間であることを捨てきれていない。それが眷属として私に及ばぬ理由です。あのような短剣などを使っていることも信じられません」
偽眷属は仮面の視線を突き立った短剣に向けている。
「あれは、レーヴェンディア様の名誉を汚した偽りの勇者の剣ではありませんか。本来なら砕いて踏みにじるべき代物です。こともあろうにそれを武器として愛用しようとは、眷属としてありえぬ愚行」
「邪竜様が『高そうなものじゃから、大事に持ってておいてな』と言ったのだ」
「寛大なレーヴェンディア様はそう仰るでしょう。しかし眷属ならば義憤として――」
「おかしなやつだな」
そこでレーコはほんの少し笑みを浮かべた。
「貴様の発言はどれも心のない空々しいものばかりだ。上っ面では邪竜様を崇めておきながら、敬意の欠片も感じない。だが、今の言葉――ライオットの一族について語るときだけは、本気で怒りを浮かべていた」
偽眷属は言葉を止め、静かにレーコを見返してくる。
「そういえば、以前もライオットを殺そうとしていたな……。何か貴様と関係があるのか?」
「わざわざ邪推されるほど大した話ではありませんよ。ただ、私にとってあのライオットという少年は――懐かしくも忌々しい顔というだけです」
次の瞬間、偽眷属の身から獰猛な殺気と魔力が迸る。
「無駄話はここまでです。あなたが詮索すべきは私の本心などよりも、レーヴェンディア様の本心でしょう。主を都合よく振り回すばかりの未熟な眷属のままでは、決して私に敵いませんよ」
偽眷属が振りかぶる手指は、敵を引き裂く爪の形を模している。
以前こちらの攻撃を完膚なきまでに打ち破った『竜王の大爪』だ。
「安心しなさい。殺しはしません。ですがこの一撃を喰らって、眷属として至らぬ点を反省するがいいでしょう」
「くっ……!」
負けじとレーコも手指を振りかぶる。
斬撃を振り抜くタイミングはまったくの同時だった。
双方から放たれた巨大な光の刃が、大地に文字通りの爪痕を残しながら突き進んでいく。
そのとき。
「レーコ! 大丈夫かの……ってきゃあああああ―――――――――――っ!?」
二つの斬撃が衝突せんとするちょうど中間の位置に、突如として邪竜様が出現した。
そして大地を揺るがす轟音が響いた。
4月12日(金)に邪竜認定コミカライズ3巻が発売となります!
第13話まで収録ですので、ニコニコ静画で公開している現在の最新話の続きがすぐに読めます!
1章ラストの最高の盛り上がりが見られますので、ぜひよろしくお願いします!




