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みんなの力が一つになった結果(Ver2)


「お……お久しぶりじゃの操々さん。元気じゃったかの……?」

『あぁ元気だよ……。優しい優しい邪竜レーヴェンディア様にお目こぼしして貰ったからね……?』


 どことなく不気味な声色にわしの全身が震えはじめる。根が悪い人(魔物)ではないのは知っているが、それでも苦手意識は拭えない。本気で命を狙われたこともあるわけだし。


「そ、それより狩神様とは仲良くなれたみたいじゃの?」


 わしが狩神様に助けを求めてすぐ、こうして救いの糸を伸ばしてくれたことが何よりの証左である。


『ふ、ふん。馴れ合ってなんかないから。たまたま洞窟の近くを通りがかったから、ちょっと寄ってやっただけだから』

『助カッテル。オカゲデ、コノ洞窟、トテモ繁盛シテル』

「繁盛?」


 狩神様の洞窟は商売などやっていなかったと思うが。


『狩リノ訓練。最近マイニチ、何人モ来ル』

「ああ訓練ね。でも、どうして操々さんのおかげで繁盛しとるの?」

『コレモ兎。兎ナラ狩リノ対象』


 確かに操々の本来の姿は兎のぬいぐるみである。いちおうは動物を模しているということで、狩りの練習対象にはなるのか。


『あの赤毛の女騎士が、自分の街で『元・魔王軍幹部と実戦訓練できる洞窟』って吹聴してくれたみたいでさ。毎日毎日、バカそうな人間どもがアタシの前に列をなして待っててもう忙しくてふふふ……』


 操々の声から不気味さが薄れて、上機嫌そうなのが伝わってくる。なんだかんだで上手いこと過ごしているらしい。


 わしが安堵に和みかけたとき、


「邪竜が妙な動きを始めたぞ! 足元の謎の兵器を起動させる気かもしれん!」

「牽制の攻撃を放て! 決して街に近づけるな!」


 すっかり存在を忘れていた魔導士の面々が、わしに向かって各々の武器から攻撃魔法を放ってきた。炎や風刃、雷や石礫が混ざり合い、わしの前方から大波のごとく迫って来る。


「あぁ――っ! いかんってちょっと待ってこっちは戦う気はないから!」


 抗議を叫ぶが、既に放たれた攻撃はもはや止まってくれない。どこにも逃げ場のない面制圧の攻撃がわしを押し潰そうとする。


 そこで、足元の玉が糸にられた。


 レーコによって無尽蔵の運動エネルギーを与えられた玉である。転がるスピードは途轍もない。そこに操々の手による精密な操作が加われば――


 ボールは蛇がうねるように複雑な軌道を描き、波状攻撃の僅かな隙を無傷で掻い潜った。


「い、生きとる……? わし……?」

『当然。アタシが避けてやったからね』

「うん。ありがとうの操々さん。このお礼はいつか必ず」

『ところで。なんで魔王と並ぶ【邪竜レーヴェンディア】がアタシなんかの助けを借りないと、あの程度の攻撃もかわせないわけ?』


 わしの顔が笑みのまま凍り付いた。

 そうだった。操々は最後までわしのことを魔王軍最高幹部のすごいドラゴンだと誤解したままだった。


『それとも、今のはちょっと油断しただけ? そうだよねレーヴェンディア? あんたは最強のドラゴンのはずだよね……? そうじゃないと、前にアタシが負けたのは何だったってことになるからね……?』

「そ、そうじゃの。今のは油断しただけで、本来のわしなら今の攻撃なんてちょちょいのちょいで吹き飛ばせたかの」


 わしは冷や汗を流しながら言い訳をする。だが次の瞬間、別方面で墓穴が掘られた。


「聞いたか! 今の攻撃では通用しないとこちらを挑発しているぞ! 次はもっと強い攻撃を撃て!」


 最悪の部分だけ魔導士たちに聞かれてしまった。慌ててわしは彼らに向き直る。


「ち、違うんじゃよ! わしは無害でおとなしいただのトカゲみたいな者じゃから。その物騒な武器を収めてはくれんかの!?」

『へぇ……レーヴェンディア。そんなの初めて聞くけど?』

「あぁっ! 違うのよ操々さん。わしは確かに強いドラゴンではあるけれどね……」


 わしは弁舌に困窮し始める。どちらかに言い訳をすれば、もう片方を刺激してしまう。

 ここはもう、イチかバチか操々を信じてすべて白状して許しを乞うしか――


『なんてね』


 と、いきなり操々の声色が柔らかくなった。


『全部もう聞いたよ。あんた、誤解されてただけで本当は弱かったんだって?』

『ナカナカ信ジナカッタケドネ』

「ご、ごめんの。騙すつもりはなかったんじゃよ。ただ正直に話す機会がなくて……許してくれんかの?」

『残念だったね。アタシをコケにした以上、そう簡単に許す気はないから……』


 子羊のごとく怯え切ったわしに、死刑宣告のごとく操々は言葉を続ける。


『うん決めた。ちゃんと直接、アタシのところに謝りに来るまでは許さない。だから困ったときは言いなよ。謝りに来る前に、どこかでくたばられちゃ困るから。できる範囲で手を貸してあげる』


 拍子抜けな内容に、わしはきょとんとした。


「それってつまり、これからは助けてくれるということ?」

『素直ジャナイ』

『ああうるさい! ほら、それで今はどんな状況!?』


 再び魔導士たちから攻撃が飛来してくる。しかし、操々の手によってボールは見事な回避運動を取り続ける。

 その間にわしは状況を掻い摘んで説明する。


 偽眷属の怪しげな魔法によって、首都の皆がわしのことを邪竜だと誤認してしまったこと。

 その警戒心を解くために、玉乗りで歓心を買おうとしたこと。

 そしてレーコの力によってボールがえらいことになってしまったこと。


『そうか……大変だったねレーヴェンディア』

「うう。分かってくれるかの操々さん。じゃからね、一刻も早くこのボールからわしを解放して――」

『分かる。分かるよ、その気持ち。怖がられて皆から遠ざけられて友達ができない……アタシも同じような時期があったから……』

「操々さん?」


 わしは瞬時に困惑する。同情のベクトルが期待していたのと違う。


『アタシに任せて。あんたの見事な玉乗り芸を首都の奴らに見せつけてあげるから』

「違うよ。わしを降ろすとかボールを壊してくれればそれでええから。なんでお主までレーコサイドの発想に染まっておるの? ねえ狩神様、操々さんを止めてくれんかの?」

『コレモイイ訓練ニナル』

「お主もそっち側の人間だったかぁ」


 厳密には人間でなく神様だけど。どうやらこの場にわしの味方はいないらしい。


『大丈夫。城門さえ突破すれば市街地で戦闘はできないはず。さあ……行くよレーヴェンディア』


 そこからわしの視界は爆炎で真っ白に染まる。

 魔導士たちの攻撃を紙一重の機動で掻い潜りながら、一切の交戦はせずに素通りで彼らを置き去りにしていく。


『開けぇっ!』


 閉ざされた城門は操々の操糸の干渉であっけなく開かれ、わしの身は単騎のままで首都に突入させられる。

 開城と同時に街中から恐怖の悲鳴が上がったが、最も高らかに恐怖を叫んでいたのはわしだった。



「いかぁ――んっ! 誰かっ! 誰かわしを助けてぇ――っ! このボールを止めてぇ――っ!!」



 そんなわしの姿を見て、多くの住民が「……?」といった感じの、困惑の色を浮かべていた。

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