みんなの力が一つになった結果
「かつてこの星に自転をもたらしたという邪竜様の秘技中の秘技『創世竜の天球』……やはり力をセーブしたその姿では、いかに邪竜様といえど容易には成せぬというわけですね」
「さっきの話に影響されて話のスケール感がいつもより壮大じゃね」
直前に太陽がどうのという話をリアから聞いていたのが幸いだった。なかなか珍しい宇宙規模の解釈でレーコは勝手に納得してくれた。
「いかがなさいますか邪竜様。元の大きさに戻って全力を出すという選択肢もあるかと思いますが」
「えっとの、できるだけ怖がられんようにしたいから、姿は今の小さいサイズのままがええのよ。少し頑張って練習してみるから待っててくれるかの?」
「かしこまりました」
「あ、それと乗るためのボールとか作って貰えるかの? 滑ったときに腰とか背中を打っても大丈夫そうな柔らかめのボールね」
わしが頼むと、レーコは頭上でぎゅっと手を握った。
すると、周囲の地面の土が重力に逆らうように浮かび上がり、空中で凝縮して一つの球体を形作る。
「わぁ! お姉ちゃんすごい!」
その様子をリアは目を輝かせながら眺めている。
レーコの本領を嫌というほど知っているわしはこの程度でいまさら動じない。というかそもそもわしの指示だし。
ずん、と重々しい音を立てて土のボールが地面に落ちる。そこに今度は周囲の草が寄せ集められて、ボールの表面をクッション質に柔らかくコーティングしていく。
「できました」
任務達成、といわんばかりに堂々とした表情でレーコが胸を張る。
ボールを触ってみると、表面は柔らかいながらも芯はしっかりしていてよく転がる。
「ありがとうのレーコ。これなら完璧じゃよ」
「この程度は造作もありません」
謙遜しつつも嬉しそうである。レーコが日頃からこういう生産的な方向に力を使ってくれるなら、わしも大歓迎なのだけれど。
それはさておき、今は練習をせねば。
先ほどのように飛び乗るという愚は犯さず、慎重に前脚をついてゆっくり身を持ち上げようとするが、
「あっ」
やはり普通に失敗した。
ぐらりとボールが転がるとともに、わしの身もバランスを崩して傾いた。何の抵抗もできずそのまま地面に真っ逆さまに――
ならなかった。
地面へと落ちかけたわしの身は、『見えない手に掴まれたかのように』強引にボールの上へと引き戻された。そして最も安定するボールの頂上の位置にしっかりと四つ足が付く。
恐る恐る一歩を踏み出してみるとやはりバランスを崩しかけたが、再び強引に見えない力がわしの身を支えて軌道を修正する。
「……レーコ? お主、何かしておる?」
「いいえ邪竜様。今は練習とのことですので、私も無用な手出しは控えております」
「じゃよね」
わしは平然と玉を乗り回しながら同意する。なにしろレーコから魔力を発動している気配を感じない。
しかし、だとすれば誰が。
「――頑張ってくださいドラゴンさん。きっと神様も見守っていらっしゃいます」
そこで周囲を見回したわしは、さしたる苦労もなく魔力の源を感じ取った。
膝をつきながら祈りを捧げるリア。
その祈りのために組んだ手指から、明らかに魔力の気配が漂っていた。
「……リア? お主、魔法が使えたの?」
わしが問いかけると、リアはきょとんとした顔になって敬語を崩した。
「ううん、まだ全然」
なんとなくそんな気はしていた。
さっき、レーコがボールを作ったくらいで驚いていた。あの程度の魔法は別に難しくもない。自分が少しでも魔法を習得していたら、あそこまで大袈裟な反応はしなかったはずだ。
「この魔力、さっきまで憑依していた神と同質のものですね」
と、そこでレーコが割り込んできた。
リアの周囲の魔力を嗅ぎつけているのか、鼻をピクピクと動かしている。
「えっと、リア。なんだか神様が手助けしてくれておるようなんじゃけど」
「そうなんだ! きっと祈りが通じたんだね!」
果たしてそうか。あの神様は性格上、玉乗りなんかに力を貸しそうにない。そもそも昼寝を決め込んで、こっちの事情など察してもいないはずである。
「……どういうことじゃろ?」
もしかすると、リアが祈ったら無条件で何かしらの魔法が発動するようにしているのだろうか。巫女への加護ということならあり得そうではある。
気になるところではあるが――
「ま、ええか。玉乗りが上手くいくならありがたいことだしの」
「しかし邪竜様。この技は数ある邪竜様の技の中でも非常に繊細かつ高度なものの一つです。外部からの余計な干渉を許してもよいのですか?」
「ええのよレーコ。臨機応変にいくことも大事じゃよ」
「では私からもお力添えさせてください」
わしは軽い気持ちで「ええよ」と頷いた。
そう、頷いてしまった。
てっきりレーコも神様と同じように「支える」感じの補助をしてくれるかと思ったのだ。
壮大な設定を踏まえたネーミングから不穏な気配を察知できなかったのは、わしの気の緩みというほかなかった。
レーコがちょこんと指先をボールに触れる。
「星に永久なる駆転あれ。大いなる流転の力をここに。いざ動け――『創世竜の天球』」
途端に、ボールが砲弾のような猛スピードで転がり始めた。
首都の方角へと一直線に。
わしを乗せたまま。




