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おとぎ話のドラゴン

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 ――邪竜レーヴェンディアは架空の存在。


 わしが本物の邪竜でない以上、その指摘は確かに的を射ている。


 もしかすると世界のどこかに本物のレーヴェンディアさんがいるのかもしれないが、その可能性はかなり低いと思われる。

 それだけ強大な存在が完全に忘れ去られてしまうというのは考えづらいし、勝手に『レーヴェンディア』を名乗るわし(の眷属であるレーコ)がこれだけ暴れていたら、本人も多少なりの動きは見せるはずだ。

 しかし、これまでに本物のレーヴェンディアさんは影も形も見せていない。


「ええと、お主。どうして架空だって思うのかの?」

「えっとね。昔話に出てくる邪竜レーヴェンディアさんは、人間が生まれるよりもずっと前からこの世にいたらしいの。大昔はこの世界に太陽が2つあって、いつでも明るい昼間だったんだけど、お腹がすいた邪竜さんが太陽を1つ食べちゃった。だから世界には夜が来るようになって、月はそのときの食べ残しなんだって」

「そりゃあまた、スケールの大きな話じゃなあ」


 呑気に相槌を打ったわしだったが、ふと嫌な予感がよぎって傍らのレーコを振り向いた。すると案の定、フフフと不敵な笑いを浮かべていた。


「そしてその際に飲みこんだ太陽のエネルギーを全開放して撃つ技こそ、邪竜様の究極奥義である――」

「落ち着いてレーコ。今のは後世の作り話じゃから。ほら、わしは猫舌じゃろ? 太陽を食べるなんてちょっとわしらしくないとは思わない?」

「なるほど。そういえば邪竜様は猫舌でいらっしゃいましたね」


 間一髪のところで新たな設定の構築は防げた。

 基本的にわしの常食は野草のため、熱い食べ物には耐性がない。たまにレーコが野菜スープなどを作ってくれることがあるのだが、わしの分はちょっとぬるめの温度にしてもらっている。そういった日頃の積み重ねが活きた。


 わしは改めてリアに向きなおる。


「確かにそれはちょっと大げさな話じゃなあ」

「うん。だって、夜が来るのは星が動いてるからだもんね?」


 わしは頷いた。天文学についてはよく知らないが、太陽とか月の動きが一匹のドラゴンごときでどうこうできるものではないとは分かる。

 これだけでも十分に「架空」と判断できる根拠だったが、リアはさらに続けた。


「あとは名前も」

「名前?」

「うん。たとえばね――ここの神様と昔戦ったっていう、魔王さんがいるんだけど」


 ヨロさんのことだ。

 わしがピクリと身を強張らせている間に、リアは木の枝を拾って地面にガリガリと文字を書いた。三文字からなる表意文字で、


雷剛鎧ラーガン』と。


 枢機卿が言っていた、前世におけるヨロさんの名前である。


「魔物さんの名前って、こういう風に性質を示す表意文字で書くのが普通なの。神様が魔王と戦ったのも大昔のことだけど、その頃からずっとそういう風習。だけどレーヴェンディアさんの名前ってそんな感じじゃないでしょ?」

「あ、そういえばそうじゃの」

「うん。だから、本当にいた魔物さんじゃないのかなって……」


 暗明狼。繰首頭。水魔。虚。操々――いわれてみれば、どの魔物もそうした表記に当てはまる。当てはまらないのはレーヴェンディアだけだ。

 ドラドラについてはレーコが勝手に付けただけで、本当の名前は他にあるだろうから除外。


 それによく考えたら「人間が生まれる前から存在していた」というのも大きな矛盾だ。

 魔物は人間の負の感情から生まれる――とアリアンテが前に言っていた。それを踏まえるなら、人間なしに魔物である『邪竜』が存在できるはずがない。


 ただしもちろん、レーコはこの程度では微塵も動じない。


「ふ。邪竜様は常に規格外の存在……。世界創世の頃より君臨する唯一無二の存在なれば、普通の魔物の常識など通用しないのだ」

「お主のそういう前向きなところ、最近はもうちょっと尊敬できてきたのう」

「恐縮です」


 そこで、リアがわしとレーコの間に歩み入ってくる。


「でも、街のみんなはドラゴンさんのことをレーヴェンディアさんだって思ってるんだよね? どうしてだろ?」

「それがよく分からなくてね……」


 偽眷属の件は伏せた。あれだけ強力な魔物が潜伏していると伝えるのは、無暗に怯えさせるだけかもしれない。


 と、リアがいきなり両手の指を組み合わせて、祈るような仕草を見せた。


「ですが、心配なさることはありませんドラゴンさん。わたしもたった今思い出したのですが、誤解の解き方について神様はこうお告げをなさっていました――『文句言う奴は力づくで締め上げろ』と」

「お主。自分がどんな危険発言をしておるか理解してる?」

「そう捉えてしまうのも無理はありません。このお告げは非常に難解な解釈を要するものですから」


 すっかり聖職者らしい敬虔さを発揮し始めたリアは、恍惚とした表情で続ける。


「『力づく』というのは、『全力で頑張る』という意味で間違いありません。これはつまり『ドラゴンさんが全力で頑張って説得すれば、みんなきっと信じてくれる』という神様のありがたいお言葉です」

「『締め上げろ』は?」

「お告げを信じて前を向きましょう。そうすれば必ず希望の光は差すのです」

「『締め上げろ』は?」


 わし最大の疑問点をガン無視してリアはキラキラと目を輝かせる。レーコもふむふむと頷きながら「なるほど一理ある」と呟いている。

 なんだか既視感があると思ったら、いつものレーコの曲解の逆パターンだ。神様の悪辣な発言を好意的すぎる曲解と部分スルーで浄化している。


 同調したレーコがリアの前にしゃがみ込んで、腰を据えての話し合いの姿勢に入る。


「ならば作戦会議といこう。普通ならばどう足掻いても隠しようがない邪竜様の威厳だが、邪竜様自身の全能力を発揮すれば隠蔽することも可能かもしれん」

「うん! 頑張ろうね! ドラゴンさん優しいんだから、きっとみんな分かってくれるよ!」


 未だ不安は尽きないが、わしはリアのその一言で少しだけ安堵した。妙な先入観を持たずにわしのことを見てくれれば、たぶんみんなこうして普通に接してくれるはずなのだ。


 だが、それと同時に違和感もあった。


 今までこの旅で会って来た人間たちは、誰もが邪竜レーヴェンディアの実在を信じていた。アリアンテほどの強者も最初はわしを邪竜だと疑っていたし、リアと同じような年頃の幼子でも邪竜の存在は知っていたと思う。枢機卿も邪竜の存在を信じていたから、この国の教会がそう教え込んでいるというわけでもないだろう。



 だというのに。

 なぜ、この子だけ「邪竜レーヴェンディアなどいない」ということを正確に認識できているのだろうか?

更新1日遅れとなり申し訳ありません!

更新ペースもう少し落ちるかもしれません

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