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偽眷属vs旧魔王


 目にも留まらぬ速さで振り下ろされたレーコの斬撃を、偽眷属はやはり容易く片手で受け止めた。

 だが、それで戦意を失うレーコではない。殺気と魔力を猛然と放って、そのまま刃を押し切ろうと力を込めている。


「今度こそ逃がさん。ここで殺す」

「相変わらず物騒なお方ですね。なぜ怒るのです? 私はただレーヴェンディア様の偉大さを伝えただけですよ」

「む」


 剣を握るレーコの力が僅かに緩む。


「ああそうでした。今はただのトカゲという演技中なのでしたね……これは失敬。しかし私はレーヴェンディア様への敬意に満ち溢れすぎているため、いかなるときも偉大さを喧伝せずにはいられないのです。あなたのように『ほどほどの』眷属であればレーヴェンディア様への敬意が薄いため演技も上手にできるのでしょうが……敬意がありすぎるというのも考え物ですね。『ほどほどの』あなたが羨ましいものです」


 レーコが無言で短剣を引く。

 これはまずい、と思った瞬間にはもう手遅れだった。偽眷属に背を向けてこちらに振り向いたレーコは、その眼に対抗心の炎を赤々と燃やしていた。


「あまりふざけたことを抜かすな偽物め。私も今ちょうど邪竜様のすばらしさをアピールしようと思っていたところだ。さあとくと聞け愚民ども。ここにいるお方こそ邪竜レーヴェンディア様。世界最強にして全知全能の最高すぎるお方だ」

「おや? その程度ですか? どうやら私に先手を取られて焦っているようですね……ボキャブラリーが陳腐になっているようですよ。そのような語彙では主の偉大さを正確に伝えきれないと思いますが?」

「黙れうるさい殺すぞ。私は邪竜様の敬意に溢れすぎているからストレートに感情が出てしまうだけだ。邪竜様の偉大さを前にしていちいち面倒くさい台詞を考える余裕のある貴様こそ、邪竜様への敬意が不足しているのではないか?」


 偽眷属が「一本取られた」とばかりに仮面のまま天を仰ぐ。

 実際に一本取られたのはこちらである。レーコの戦意があっさりと逸らされてしまった。


 と、そこでヨロさんがわしの肩を指先でつついてきた。


「貴様、そんな大した奴だったのか? さっきあのけったいな仮面野郎が『魔王に比肩しうる唯一の存在』とか言っていたが……。吾輩と戦いたかったなら、そう言ってくれればすぐ相手になってやったものを」

「ねえヨロさん。わしがそんな怖い竜に見えるかの?」

「まったく」


 わしはため息をついた。あんな雑なデタラメを信じないで欲しい。

 ヨロさんはそれでも多少疑っているのか、わしの腹をプニプニとつついてきたが、わしがむず痒さに「おふんおふん」と鳴いていると、やがて指を引っ込めた。


「うむ。吾輩が本気を出せば秒とかからず爆発四散させられるほどの耐久力であるな」

「納得してくれたのはありがたいけど、あんまり具体的な喩えをするのはやめてね。わし怖くなるから」


 ヨロさんが納得してくれたところでわしは枢機卿に向く。彼の誤解も解いておかねば、わしはまたこの国で賞金首扱いされることとなる。


「のう枢機卿さん。このとおりわしは無害なトカゲじゃから。疑うなら触ってみてもええよ。お主くらいの魔導士なら、ちょっと調べればわしの弱さも分かるじゃろ?」


 そうしてわしと視線が合った瞬間。

 枢機卿は凄まじい速さでジャンプして、路地裏の両脇の建物の屋上まで逃れた。他の武装教徒たちと一緒に、わしとヨロさんを見下ろす構えである。


「え? あの? 枢機卿さん?」

「邪竜……レーヴェンディア……?」


 様子がおかしかった。

 冷静になってよく見ればわしの正体など見破れるだろうに、枢機卿は常軌を逸した眼差しでわしを見ている。いいや、彼だけではない。周りの武装教徒たちもわしに対して最大の警戒を取っている。


「そうか。鎧の男に、謎の少女。強力な魔物を二頭も従えている君が何者なのかとは思っていたが――まさか邪竜レーヴェンディアだったとはね。ただのトカゲと見間違えるなんて、僕の目もずいぶんと曇っていたかな?」

「今の方が曇っておるんじゃけどなあ」


 ヨロさんとレーコという強大な存在を引き連れていたから邪竜ということに信憑性が出てしまったのだろうか?

 いいや、枢機卿はさっきからその二人を前にしても余裕綽綽だった。たかだか偽眷属の発言一つで、そこまで冷静さを失うとは思えない。


 いや、そんなことを考えるよりもまずはこの場を収めねば。


「待っておくれ! ええと……わしが邪竜というのは百歩譲って認めるけど、わしは暴れたりするつもりはないから! ほら、ペリュドーナでわしが街を助けたという話はギルドから伝わっておらんかの? 懸賞金も凍結されとるらしいし……」

「この国の雷神を倒しておきながら、まだそんな言い逃れをするのかい?」

「ほらねヨロさん。軽率な言動はこういうことに繋がるんじゃよ。今後はもっと慎重さを覚えてね?」

「面目ない」


 枢機卿たちはそれぞれの武具を構え、魔力を最大限に溜め始めた。


「そうと知れれば、僕らの命に代えてでもこの場で討伐させてもらうよ。これ以上、邪悪なる者に僕らの国を蹂躙されるわけにはいかないからね」

「ちょっと! お願いだから話を聞いて!」


 いくら路地裏とはいえ、両脇は普通の民家だし、少し出れば表通りである。こんな場所で戦闘を始めては周囲にも被害が出てしまう。

 こちらの正体も確かめずにそんな判断を下すのは、あまりにも早計ではないか。


「――貴様ら、誰に向けて殺意を向けている?」


 そこでレーコが怒気を放った。

 しばらく偽眷属と言い争いをしていたようだが、こちらの状況に気付いたらしい。

 レーコから放射される禍々しい波動は枢機卿たちを金縛りに陥らせ、武具に溜めていた魔力も途端に霧散していく。


「どうしますか邪竜様? このまま全員の息の根を止めることもできますが」

「そういう物騒な発想はせんの。でも止めてくれてありがとねレーコ」


 とりあえずの急場は凌いだようでほっと一息つく。

 後は枢機卿たちを説得して、わしに敵意がないことを証明せねば。しかし上手くいくだろうか。さっきから彼らはどうも様子がおかしい気がするが――


「そこの仮面。貴様、なにやら妙なことをしたようであるな?」


 そこでふいに、ヨロさんがマントを翻して偽眷属を睨んだ。実際は兜があるから視線は分からないのだが、雰囲気からして明らかに睨んでいたと思う。


「おやおや。これは珍しいお方だ。古き魔王とは――」


 言い終わる前に、偽眷属の身は宙高くに投げ飛ばされていた。

 一瞬で偽眷属への距離を詰め、片手で放り飛ばしていたのはヨロさんだ。



「吾輩は貴様のような胡散臭い奴は好かん」



 そしてヨロさんが天に向けて片手を握ると、偽眷属を焼き尽くすように雷光が炸裂した。

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