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【2巻発売記念IF短編】中二病から目覚め、とうとう自分の魔力が自前だと気付いてしまったレーコの話

本日(9月1日)、草食ドラゴン2巻が発売となりました!

全編書き下ろしのギャグ満載の1冊となっております! ぜひとも読んでみてください!


「邪竜様、邪竜様。折り入ってお話があるのですが」

「んん……? もう朝かの?」


 ある日の朝。

 いつものように草原で野宿し、爆睡に耽っていたわしをレーコが揺り起こした。


「朝ご飯ならわしはまだええかな。わしはもうちょっと眠っておるよ。荷物の中にお主の食糧はあるから、好きなのを選んで――」

「いいえ違います邪竜様。もっと重大な話でございます。実は私は――この力が邪竜様のものではないということに気付いてしまったのです」


 わしは一瞬ですべての眠気を振り払い、「がばっ!」と跳び起きた。その勢いたるや、少し腰を痛めかけるほどだった。


「ほほほ……本当かのレーコ? ついに気付いてくれたのかの?」

「はい。昨晩の夢で、今までの旅路があたかも回想のように浮かんできまして……。それを客観的に見直したところ、『これはおかしいぞ』と思ったのです。邪竜様はいつも冷静に私を諌めてくださっている一方、私だけが幼稚に邪悪っぽく振る舞っており……まことに恥ずかしいばかりでした」

「レーコ。よく気付いてくれたの。わしは本当に嬉しいよ」


 わしは感涙にむせびながらレーコの肩を叩いた。ようやく待ちに待ったこの日がやって来たのだ。わしの苦難が終わり、無事に山奥に帰れる日が。


「私の思い込みのせいで、邪竜様にも大変な迷惑をかけてしまいました。本当に申し訳ありません」

「いやいやええのよ。わしもお主と一緒に旅をするのはなんだかんだで楽しいところもあったしの。何よりこうしてお主が自分で勘違いに気付いてくれたことは、わしにとって五千年で最高の喜びじゃよ」

「そこまで仰っていただけるとは……ありがとうございます。この過ちを大いに反省し、これからは私もこの幼稚な言動を改めようと思います」

「うんうん。期待しておるよ」


 じゃあ、まずはお主の村に帰ろうか――とわしが言いかけたとき、レーコはぽんと手を叩いた。


「つきましては、私の行動の改善案について邪竜様のご意見を伺いたいのですが」

「ん? ああ、そうね。ええよ」


 以前、村でライオットの話を聞いた限りでは、元々レーコは風変わりな子だったらしい。本人がやる気になっているのだから、せっかくだからこの機会に常識を教えておきたい。


「まず『竜王の大爪』や『影なる双翼』、そして『邪竜の煉獄』――こうした技を発動する際に、技名を叫ぶのをやめようと思うのです」

「ん?」

「今まで私はテンションとカッコよさを重視して技を発動していました。しかしこれはあまりにも幼稚な発想。敵と戦っていく上では一瞬の隙すら命取りとなります」

「ちょっと待って」


 わしの理解が少し追いつかない。


「それはあまりにも改善が小手先すぎないかの? もっと改善すべき点が山ほどあると思うんじゃけど」

「――と言いますと?」

「えっと、多すぎてすぐには出てこないけど普段の態度とか……。無用な火種をすぐ作っちゃうでしょお主?」


 そもそも、戦いなどしないに越したことはないのだ。技名を叫ぶ叫ばないというよりも、二度と戦わないような身の振り方を考えて欲しい。


「なるほど。今まで私は『邪悪=かっこいい』という価値基準ですぐ『殺す』や『消し飛ばす』といった脅し文句を連発していましたが、それを見直せということですね」

「そう! いやあ、さすがに理解が早いねお主は。そうやってトラブルを生まない姿勢を大事に――」

「はい。今後は言葉ではなく行動第一で示すことにします。それが大人の対応というものですね」

「絶対やめて」


 前警告なしに暴れられてはわしも止められない。

 というかさっきから改善になっていない。単に暴走行為の合理化を進めただけだ。むしろ悪質になっているといってよい。

 しかし当のレーコは自覚なく『改善案』を続ける。


「して、今後の邪竜様への仕え方も大いに改善していかねばなりません」

「仕えるって、お主は別に眷属ではないんじゃよ? 自力で覚醒したんじゃから。まだわしと一緒にいてくれるの?」

「もちろんでございます。眷属であろうとなかろうと、私が邪竜様をお慕いしていることは事実です」


 不覚にもわしは少し泣きそうになった。

 改善案が穴だらけでもいいじゃないか。この子がちゃんと根っこは優しい子だというのはよく分かっている。わしがしっかり見守っていればそれでいい話だ。


「これまで私は己が力に溺れ、邪竜様の意志を考えずただ振り回すばかりでした……」

「そうじゃね。そこまで分かってくれていたら、もうわしは十分じゃよ」

「これからは主従らしく、私が邪竜様に振り回されなければなりません」


 ん?


「というわけで次の人里に着いたら、邪竜様は民家を壊したり住民を襲ったり大暴れしてください。私は近くで存分に慌てていますので」

「わし、ちょっとその行動に意義を見出せないなあ」

「今までの私の言動をチャラにするための儀式だと思っていただければ」

「チャラどころか追加で大幅な負債が発生すると思う」


 論理としても完全に破綻しているが、それ以前にもっと大きな欠陥がある。


「だいたい、わしなんかが人里で大暴れしようものなら集中砲火に遭っちゃうでしょ? わしはただのトカゲなんじゃから、すぐ蒸発しちゃうに決まっとるって」

「ご謙遜なさらないでください。邪竜様が全力を出せば、きっと私が大慌てできるほどの地獄をこの世に再現できるに違いありません」

「ええと……レーコ? 思い込みは解けたんじゃよね? わしは弱いのよ?」

「そうなのですか?」

「そこは分かってなかったのね。でもちゃんと覚えておいて。よく理解して欲しいんじゃけど、わしは本当に何の変哲もないオオトカゲじゃから」


 少し考え込む仕草を見せたレーコだったが、その時間はごく短かった。


「しかしその辺の小娘だった私が覚醒できたのです。邪竜様ならもっと凄まじく覚醒できるに違いありません。となれば事実上の邪竜様と捉えて何ら問題はないかと」

「お主のそのわしに対する過大な評価は何なのかのう」

「私の第三の目が邪竜様の偉大さを示しているのです。さあ邪竜様、早く覚醒してください。魔王を倒すためには貴方様の力が欠かせません」

「待って、そんなこと言われてもわしにそんな芸当はできないって」


 そこでレーコは不敵な笑みを見せた。


「いいえ邪竜様。この私めに妙案があります。邪竜様を覚醒の切っ掛けとなり、かつ私も非常に満足感を得られる方法が」

「嫌な予感しかしないけど、言ってみてくれる?」


 そしてレーコはえっへんと胸を張る。


「この私の魂をお召し上がり――」

「却下」


 結局その後も、わしらの関係性に特段の変化はなかった。

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