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お察しの通りです


 迂闊だった。

 わしがヨロさんを振り向いてしまったことに、枢機卿はやはり反応を見せた。


「おや? やはり何か思い当たることがあるようだね? そこの鎧の大男が関係しているのかな?」

「いきなり雷を落としてきたあの不届きな雷雲のことか? ああ、確かにぶっ飛ばしたのは吾輩で間違いないぞ」

「ヨロさん。わしが止める暇もないほどスムーズに自白しないで」

「あんな小者の雷雲を散らしたくらいどうでもよいだろう。せいぜいあんなのは、本物の神の遣い走りに過ぎんはずだ」


 主神の眷属の雷神――それは間違いなく、わしらが入国する前の日にヨロさんがうっかり倒してしまったという雷雲のことである。

 あっさり自供したヨロさんを前に、枢機卿は高笑いする。


「ハハッ! やはり僕から発せられる神の威光の前では、君たちのような悪党も隠し事はできないかな?」

「隠すも何も吾輩にやましいことはないのである」

「『やましさを感じない』ことと『やましくない』ということは似て非なるものじゃからね?」


 それより、とヨロさんが枢機卿の肩に手を置いて威圧を放った。


「吾輩の方も尋ねさせてもらおう。なぜこの国は、あのような雷雲ごときを崇めている? 貴様は先ほど『主神の眷属である雷神』と言ったな。ならば、主神と雷神が別物であることは理解しているはずであろう? なぜ主神を崇めんのだ? 信仰が薄れて奴に弱くなられては吾輩は困るのだ」


 ヨロさんの話では、ここの神――さっき巫女候補の少女に憑依した口の悪い神は雷神などではなかったという。しかし、首都の聖堂や広場に飾られている彫刻などは、すべて雷を象ったものだった。

 レーコですらここの神=雷神だと見誤ったほどだ。


「ふふ、何も知らないんだね……。真なる神はあまりにも畏れ多きお方。安易に崇めることすら憚られる存在。一般の民衆たちは主神の眷属である雷神や守護神獣たちを崇め、僕のような――そう! 僕のように! 選びに選び抜けれたごく一部の天才だけが! 真の神に祈りを捧げることを許されるのさ!」

「じゃあ祈りとやらで神をここに呼び出すのである。吾輩は貴奴に決闘を挑みたいのだ」

「神に決闘……? ハハッ! 面白い冗談だね? さては君は自殺志願者かな? それなら教会に相談するといい。救いの手を差し伸べてあげよう」


 わしは一種の感嘆の念を交えて枢機卿を見ていた。わしもこんな精神力が欲しい。

 ヨロさんは黙って聞いていたが、不機嫌そうに口元を曲げている。ただ、それは別に枢機卿の態度が気になったわけではないようで、


「理解できぬ。神にとって信仰は魔力の源となる何よりの糧であろう。それを敢えてしないだと? それは神を愚弄しているにも等しいぞ」

「そうかな? 主神そのものを崇めないというのは、先々代の巫女が当の主神より直接受けた託宣だよ? 神は『祈りがうるさいからいちいち崇めんなバカ。それよりアタシの部下をねぎらえ』と仰ったのだ」

「あ、ヨロさんが相手のときだけじゃなくて常にあんな口調なのねあの神様」


 口調だけなら畏れ多いとかそういう印象はまるでない。むしろちょっと軽すぎる雰囲気である。

 だが、仮にもヨロさんを打ち破った神だ。力だけなら畏怖されるのも分かる。


 ところで、と枢機卿が両の掌をくるりと返す仕草をした。


「そこの鎧くん。君がその主神様の大事な部下である雷神を害したということは、間違いないんだね?」

「吾輩の右一発で霧散させてやったわ」

「お願い。お願いだからヨロさん。お主は黙秘に徹してわしに弁護をさせて。レーコもわしが許可するまでは何も言っちゃダメよ」

「ご安心ください。私が許可なしに動いたことが過去にあったでしょうか」

「そうじゃね。お主はとても偉いね」


 わしはヨロさんとレーコを座らせ、枢機卿の前に一人で相対した。


「ふふ。おかしな組み合わせだね。人間が魔物を飼い慣らして使い魔にしていることはあるけれど、まさかトカゲが魔物を引き連れているなんてね。しかもとびきり強力なのを二人も」

「ヨロさんはともかくレーコは人間じゃよ?」

「ハハハ馬鹿を言わないでくれ。どう見たって人間の魔力を超越しているじゃあないか。それが魔物でなくて何だい?」


 そうだった。レーコに宿っている魔力は『邪竜レーヴェンディア』への畏怖なのだ。すなわちある意味でレーコは邪竜そのもの。魔物と解されてもおかしくない。


「既に調べはついているよ。君は、昨日入国を許されたトカゲだろう? 鱗が貴重な薬になるとの情報だったが……眉唾だね。そこの連れの魔物たちにペテンを働かせたんじゃないか?」

「すいません。そこについてはわし何も否定できません」


 わしの鱗なんて本来はちょっとまずいダシが取れるだけの代物である。あれは完全なるレーコのペテンだ。


「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。僕が聞きたいのは、君たちの目的さ。雷神を討ち、巫女となり得る少女を攫おうとした――これはどう考えてもこの国を滅ぼしにかかっているとしか思えないんだけど、言い訳はあるかな?」

「え、ええっとの……」


 わしはヨロさんを振り向いた。誘拐の件はまだ言い訳のしようがあるが、雷神を倒してしまった件はどう転んでも言い訳できない。

 ならもう、致命的な部分だけは伏せてある程度正直に認めてしまうしかない。


「実はそこのヨロさんは、ここの神様と古くからの知り合いなんじゃよ。で、旧交を温めにやってきたそうなんじゃ。でも来て見たら別の雷神さんがいたから『偽物か!』と思って倒してしまったそうで。決してこの国に敵意はないんじゃよ」


 しかしわしの主張は、笑いとともに一蹴された。


「主神と知り合い? しかも雷神がまだいなかった時代からの? ハハッ、馬鹿も休み休み言いたまえ。そんな魔物はそうそういるものじゃないよ。それこそ旧代の魔王でもない限りね!」


 はい。その魔王なんです。

 わしの心の声に同調するかのように、ヨロさんが大きく頷いていた。

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