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すぐ態度に出ちゃうタイプ


 ざっと見渡したところ、わしらを包囲する武装聖職者たちの腕前は中の上といったところだった。ただ一人レーコが始末した枢機卿とやらは比較的強そうだったが、もう彼は戦力外となっている。


「枢機卿がやられた!」

「馬鹿な。あれほどのお方が何の抵抗もできず……?」


 口上の勢いのまま幸せそうな顔で気絶している彼の頭を鷲掴みにして、レーコは周囲の集団に告げる。


「さあ。こいつがどうなってもいいのか。この頭を潰されたくなければ、今すぐ全面降伏しこちらのあらゆる要求を――」

「レーコ。とりあえずその人は放置してこっち戻ってきて。今からわし頑張って説得してみるから」

「かしこまりました」


 ぽいっ、と枢機卿をその場に置き捨て、レーコは一跳ねでわしのそばに着地する。

 路地裏横の建物の上に立つ武装集団たちは少々動揺しつつも、


「賊が離れたぞ! 枢機卿をお助けしろ!」


 レーコがいなくなるや、枢機卿の元に集って揺り起こし始めた。息はあるはずだと思う。たぶん。


「ときに邪竜様。枢機卿といえばなかなかの地位と思います。あれを人質にすればこの国での調べ物が捗るのでは? この機会にぜひゲットしておくべきです」

「吾輩も同感だ。巫女との接触も楽になるだろう。とりあえず捕まえておいて損はない。運ぶのが手間なら、吾輩のマントの中に収納しておいてやろうか?」

「お主らはちょっと黙っててもらっていいかの?」


 危険思想の持ち主2名に不用意な発言をしないよう釘を刺し、わしは武装集団を仰ぎ見る。

 彼らの手当てが功を奏したようで、枢機卿は早くも「はっ」と復活した。


「枢機卿! 無事ですか!?」

「くっ……僕としたことが不覚だった。まさか相討ちに持ち込まれてしまうなんてね」

「いいえ全然相討ててないです枢機卿。奴らはまだあそこに健在です」


 部下から示されて、枢機卿はわしらの方を振り向いた。そして何度か状況の把握に首を傾げた後、納得したような得意顔になって片眼鏡に鎖に触れる。


「なるほど。卑怯な不意打ちで僕を気絶させたのはいいが、この人数には勝てないと踏んだんだね? だから諦めて降伏したと。ハハッ、賊のわりにはなかなか賢明な判断だよ。いいだろう。その殊勝さに免じて牢獄での食事は少しマシなもの――にっ」


 今度はヨロさんが枢機卿の背後まで壁を駆け上って、首筋に手刀を入れていた。

 またしても膝から崩れ落ちた枢機卿を、ヨロさんは酒瓶でもしまうかのような仕草で自身のマントの中にしまおうとしている。


「ええと、ヨロさん……? 何を?」

「む? 黙っておけと言われたから、静かに捕獲したのだがまずかったか?」

「今すぐ解放して」


 既に枢機卿の下半身はマントの中に吸い込まれていた。空間が歪んでいるから、転送系の魔法でどこかに繋がっているのだろう。ヨロさんは小技が苦手と言っていたから、あのマント自体がそういう道具なのだと思う。


「み、皆! 早く引き抜け! 枢機卿が攫われるぞ!」


 辛うじて残っている上半身を武装集団が引っ張り、すぽんと枢機卿がマントの亜空間から引っ張り出される。

 なんとなくわしは、大根とかカブを抜いている風景を連想した。


「くっ。僕としたことが不意打ちを二度も……なんて卑劣な連中なんだ」

「あ、お主の意識の回復もだんだん早くなってきたね」


 さすがは枢機卿である。対応能力が高い。

 と、そこでヨロさんが枢機卿の襟首を掴み、地面まで跳び下りるついでに引き連れてきた。


「戦うにせよ話し合うにせよ、こいつが敵の代表だろう。ならば間近で話した方がよかろう。矢避けにもなるしな」

「最後の一言は話し合う前にはちょっと余計じゃなあ」

「いいか枢機卿とやら。言葉は慎重に選べ。こちらの要求にイエス以外の回答をすれば……どうなるか分かっているな?」

「レーコも。話し合いをさりげなく脅迫にすり替えないで」


 レーコとヨロさんに両脇を固められたダブル圧力交渉。

 わしなら即座に吐く自信がある。情報的な意味でも、物理的な意味でも。


「邪悪なる者に屈する僕ではない! やれるならやってみるがいい! おっと、しかし……君たちのような魔性の者が光の魔力溢れる僕の身に触れたら浄化の苦痛を味わうだろうがね……?」


 しかしこの枢機卿、意外とメンタルだけは自負のとおりに強かった。ある意味で大物なのは間違いないかもしれない。


 ちなみに、さっきからレーコとヨロさんが普通に手刀を喰らわせていることには触れないでおく。彼はきっと一瞬のことだったから自覚がないのだ。


 幸い、ヨロさんの「矢避け」発言のとおり、上にいる武装集団たちは枢機卿を巻き込むことを恐れて攻撃を放ってこない。


「あのな。落ち着いて話を聞いて欲しいんじゃけど、わしらは巫女候補の子の誘拐なんてしとらんからね? ただちょっとうちの子が買い食いに付き合わせただけよ。ちゃんと教会に送り返したじゃろ?」

「……その言葉、嘘はないか? 神に誓えるか?」

「もちろんじゃよ。わしはそもそも調べ物をしたくてこの国に来ただけじゃから、あんまり神様の件に興味はないのよ。用事があったのはこのヨロさんの方。ちょっと話をしたいみたいでな」

「ああ。決闘の日程について――」

「ととととにかく! わしらは無害じゃから! こんな風に物騒な扱いをせんでくれるかの?」


 枢機卿はわしとレーコとヨロさんをざっと眺める。

 それから首を振って「なら一つだけ尋ねてもいいかな?」とニヒルに言った。


「ええよ、どんなの?」

「この国の主神の眷属である雷神が数日前、何者かの手で討たれた。それについて知っていることは?」


 わしは凄い勢いでヨロさんを振り向いてしまった。

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