親の顔より見た光景
9月1日にスニーカー文庫から小説版第2巻発売です!
(ほぼ)全編書き下ろしで満足感ある1冊に仕上がっていますので、どうぞよろしくお願いします!
「あー。なんかやってられんのであるなぁ。気晴らしにどこぞの国でも滅ぼしてやるか……」
「自暴自棄になっては駄目よヨロさん。お主は今、一時的にショックを受けておるだけじゃから。じきに傷は癒えるものじゃから」
見かねたわしが追いかけていくと、ヨロさんは路地裏で地べたに座り込んでいた。
懐から酒瓶を取り出してグビグビとやっていて、立派な甲冑抜きに言動だけを見ればただの宿無しのアル中である。
「理解できぬ。なぜあそこまで奴は怒ったのだ。吾輩はただ正々堂々と殺し合いをしようと言っただけだというのに……」
「『正々堂々』と冠せばすべての言動をクリーンにできるわけではないことは覚えておこうの」
「いや、待てよ。さては予定でもあったのか? 祭りとやらの期間中であるしな。相手の都合も考えずに今すぐ戦おうというのはやはり無礼であったか。都合のいい日を改めて聞けばまだ十二分に可能性は残されているな……」
「微塵もないと思う」
ヨロさんにとっては長らく待ったリベンジの機会なのだろうが、神様サイドからすれば「大昔に討伐した危険な強敵が復活して平穏を脅かしにきた」という状況だ。邪険にされて当然である。
「だけどまあ、神様と知り合いっていうのはやっぱり本当だったんじゃね」
「何を言うのだ今更」
「いやね。あれだけ言ったら、普通の魔物は怒って暴れると思うのよ。でもお主は不貞腐れるだけじゃろ? そういう性格を神様も把握してたんじゃないかなあって」
最初は魔王ということで警戒していたが、今はもうヨロさんがそこまで凶暴ではないことは分かっている。レーコや操々だったら、さっきの挑発を聞いた瞬間その場で戦闘開始となるはずだ。
さっきの発言はそういうヨロさんの性格を掴んでいたからこそのものに思える。
「あまり侮るな。吾輩は魔王であるぞ? 平凡な者どものように下らん良識なぞ持ち合わせておらん。暴れようと思えばいつでも暴れられる。それをしなかったのは――単に今ここで吾輩が暴れたら大勢が死んでしまうからだ」
「そういうのを良識というのではないの?」
「違う。吾輩は別に人間の命などどうでもいいと思っている。だが、この国の者が亡くなれば、信徒を失って神の力が低下する。そうなってしまっては、吾輩は全力の神と戦うことができない。正々堂々の全力勝負を望む以上、無用な人死には吾輩としても御免被る」
ううむ、とわしは唸る。
人様への迷惑を考えているわけではなく、あくまで勝負を優先するからこそというわけか。
それを差し引いてもレーコよりは思慮深そうな印象があるけれど。
「ねえヨロさん。もしお祭りが終わっても神様が決闘に応じなかったらお主はどうするつもり?」
「そうであるなあ……。とりあえず挑発でもしてみる所存だ。教会の屋根に登って『バーカバーカ今はもう吾輩の方が強いのだ悔しかったら出てこい腰抜け』と尻を叩きながら叫んでみるのもいいやもしれぬ」
「わりと根に持つタイプなのねお主」
あと、たぶんそんなことしたら挙動不審の酔っ払いとして番兵たちに連行されるだろう。
ヨロさんのことだから変に抵抗せずそのまま牢獄送りになりそうだ。
「ともかく、憑依したということはさっきの娘が巫女に選ばれそうであるな。祭りが終わり次第すぐに連絡を取れるよう、今のうちから目を付けておくか……」
「レーコならまだいいけど、お主みたいな大男が小さい子をコソコソつけ回すのはいろいろとまずくない?」
「誰がコソコソなどするものか。覇者の風格を漲らせて堂々とつけ回してくれるわ」
「もうどうしようこの人」
魔物としてはそこまで危険でなくとも、単純に不審者として危険である。
と、そこでレーコがすたすたと裏路地に歩み入ってきた。
「邪竜様。かの巫女候補は近場の教会に迷子として送り届けておきました」
「おお、ありがとね。さっき神様が憑いたことは騒ぎになっておらんかった?」
「何人かじろじろと見てきましたが、ただの幼い魔導士の戯言と捉えたのでしょう。誰も神とは疑っていなかったようです」
「まあ発言が発言じゃったからね」
中身はまさに子供の暴言そのものだった。
「それにしてもやはり邪竜様の見込みは流石でございます。やはりあの者が巫女に選ばれたようですね」
「あれはヨロさんがたまたま近くにいたからではないかなあ。臨時の憑依じゃろうし、実際にあの子が選ばれるかどうかはまた別じゃないかの」
「いいえ邪竜様の見込みが外れるなどあり得ません。このまま正式に巫女に任命された後、いつでも誘拐できるように準備しておきます」
「お、用意がいいな小娘。また後で小遣いをやろう」
「ふ。褒めるなら邪竜様を褒めるがいい。私の行動のすべては邪竜様の意だ」
まるでわしの意に添わぬ犯罪計画。
当然ながら半泣きで抗議をしようとした――その瞬間だった。
「聞き捨てならない話ですね」
頭上から声が降ってきた。わしが振り仰げば、路地裏の両脇の建物の上に、武装した集団が大量に構えていた。しかも、ただのならず者ではない。
彼らはいずれも聖職者らしき衣服を身に纏っていた。
「ははは。どうやら教会からつけられたようだな、小娘」
「まさか。気付いていたがわざと引っ張ってきたのだ」
弓矢や杖がこちらに向けられているが、レーコとヨロさんは平然としている。元凶のくせしてこの両名のふてぶてしさ。
一方、自身の危機に気付いていない集団のうち、リーダーらしき片眼鏡の青年が口を開いた。
「神の声を聞く巫女は我が国の至宝。それを誘拐しようなどとは言語道断! この最年少の天才枢機卿であるこの僕が! 僕が! 僕こそが! 神に代わって君たちの罪を洗い清めてくれよう! さあ、不埒なる魂に救いのあらんこと――をっ」
そこまで言って、彼は白目を剥いてどさりと倒れた。
ヨロさんは驚かない。わしもさすがに慣れてきたのでいちいち驚かない。
「こいつが一番偉そうなので、とりあえず捕らえておきました」
一瞬で路地裏の壁を駆け上がったレーコが、手刀で青年を気絶させていた。
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