わしには荷が重すぎる
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「吾輩では巫女になれないだと……? なぜだ?」
「むしろなれると判断した理由を教えてくれんかの」
ヨロを連れて退散した先は、研究所の裏手の木陰である。
結果としては、なんとか駆けつけるのが間に合ったといえるだろう。あれ以上遅くなっていたら、ヨロが改めて素性を調べられて、許可を得ていないのがバレたかもしれない。
「いい? 募集しておるのは女の子の巫女さんで、しかもここの神様の信者じゃないといけないのよ? お主はゴツい大男じゃし、神様の部下を倒しちゃったばかりじゃよね?」
「竜よ。前例と伝統に囚われるだけの守旧的な儀式にどんな価値があるというのだ? 革新的な息吹を取り入れて新たな時代を迎えようとすることにこそ価値があると吾輩は考えるが」
「わしを論破しても現実は変わらないからね? というよりお主のそれは論破というよりもはや開き直りに近いけど」
わしの言葉を受けたヨロは、歯噛みしながら大聖堂を仰いだ。
「巫女になれぬならば、もはや残る策は一つ。この街の人間すべてを人質に取って神を脅す他あるまいな……」
「待って、もう少し発想に柔軟な幅を持って。いきなり極端な過激路線に走らないで」
手に雷光を纏わせて街に歩いていこうとしたヨロを必死になだめて押しとどめる。
「あ、そうじゃ。国中から候補の女の子が集まるなら、それに紛れてこっそりレーコが潜入できんかの? お主なら儀式中の大聖堂の中に入ってしまえば神様の声を聞けそうじゃし」
わしにしては妙案である――と思ってレーコの顔を見たら、口を真一文字に閉じて露骨に嫌そうな顔をしていた。
わしの提案に対してレーコがこんな顔をするのは物凄く珍しい。
「レーコ……? 何か嫌じゃったかの?」
「僭越ながら申し上げますが、私が崇めるのは邪竜様のみでございます。たとえ仮初のことではあっても、ここの神を崇めている風に振る舞うのは心情的に難しいところがあります」
「あー……そっか。お主、演技は苦手だったもんの」
ペリュドーナのときのようにあっさり演技を途中放棄されては、最悪の事態になりかねない。儀式の最中に痺れを切らして「この国は邪竜様がいただいた!」とか叫び出したらもはや終了である。
「やはり私は邪竜様の御心の神託のみを聞くことに徹したいと思うのです。今も耳を澄ませば聞こえてきます――『壊せ。壊し尽くせ。さらなる死と破壊をこの世に刻め』と」
「それはわしでも神様でもない第三者の声じゃね。おそらく危険人物と思うから二度と聞こえないように遮断しておいてくれるかの」
「かしこまりました」
ヨロは律儀にレーコの言葉を信じたのか、耳に手を当てて首を傾げていた。そんなことをしても物騒な声は聞こえない。いつものこの子の妄想である。
しかし困った。ヨロに自粛を要請できるほどの代替案が思い浮かばない。いい案がなければヨロは再びトンデモな行動に走ってしまうだろう。そういう要素はレーコ一人で充分だというのに。
「どうするのだ竜よ? よい案がなければ吾輩も独自判断で行動するつもりだが。そうであるな……まずは吾輩の見た目の性別をごまかすため、兜にリボンでも結ぶのが適当そうであるな。それでダメならやはり武力行使しか」
「うう……なんでこんなに落差が激しいんじゃろうこの人……」
リボンごときでその厳ついフォルムをごまかせると思っているのか。生後四日目で前世の記憶も完全でないというあたり、相当の世間知らずである。
そのとき、どすんとレーコがわしの背中に乗っかってきた。
「邪竜様。やはりこの状況で頼れるのは邪竜様しかあり得ません。このポンコツ魔王もダメ、私もダメ――そうなれば、もはや邪竜様が巫女候補として潜入するよりないかと」
「わしが一番不適格じゃよ? まず人間ですらないからね?」
「何を仰います。巫女の資格には『人間であること』など含まれていなかったではないですか」
「普通に大前提すぎて省略されてただけだと思うなあ」
しかしレーコは興奮気味に拳を握る。
「『魔力を持った若い女性』という条件にも見事一致します。邪竜様の強大なる魔力はこの世の誰もが恐れるほどであり、その寿命は無限――つまり永遠の若さを持っているも同然。まさに邪竜様のために作られたような条件でございます」
「性別は?」
「さあ邪竜様、どうぞご決断を」
「性別は?」
レーコにとっては些事なのか、ごく自然に疑問がスルーされる。わしはたぶんオスである。同族と会ったことがないのでいまいち自信はないが……おそらくオスだと思う。
「あのねレーコ。そんな無茶は――」
「なるほどな」
わしが反論するよりも先に、ヨロが大きく頷いた。
「吾輩も先入観を捨て切れていなかったようだ。確かに貴様の主張は筋が通っている。この竜――まさに巫女候補にうってつけといえよう」
「筋なんかまったく通っておらんよ? ガバガバの部類じゃよ?」
「当然だ。邪竜様の大いなるポテンシャルはあらゆる事態への対応を可能としている。この程度のトラブルを制するなど造作もない」
波長が無駄に合っているのか、レーコとヨロの会話は妙にスムーズである。普段なら誰もが耳を疑うレーコのトンデモ発言をごく自然に信じている。
まあ、ただ単にヨロが騙されやすいだけなのかもしれないが。
「ええとね、ヨロさん。後はわしがなんとかするから、お主はわしを信じておとなしくしておいてくれないかの。絶対に余計なことはしないで」
「うむ、任せよう」
だが、下手に担ぎやすい分、だんだんと取り返しのつかないレベルまで嘘が進行していく。
とりあえず「あとは任せろ」ということで酒場に帰したが、これも問題を数日先延ばしにしただけに過ぎない。ドン詰まりにも近い状況に、わしはもう泣きそうである。
「……レーコ。ヨロさんがちゃんと寄り道しないで酒場まで戻ってるか、こっそり確認してきてくれるかの」
「大丈夫とは思いますが」
「念のためね。とりあえず行ってきて」
「承知しました」
適当な口実でレーコもその場から外させ、わしは再び大聖堂へと歩き始める。
わしが巫女候補になるというのは論外として、当日の儀式を見物だけでもさせてもらえないか頼みに行くのだ。
儀式中の大聖堂の中に入ることができれば、何かしらのチャンスはあるかもしれないし。
「部外者は立ち入り禁止です。どうかご理解を」
「じゃよねえ」
涙の門前払い。
どうせこうなるとは思っていたが、やはり精神的ダメージは大きかった。
大聖堂前の噴水で、無念のヤケ水を飲みまくりながらわしが途方に暮れていると――隣にそっと並んでくる者があった。
やたらと小さかった。
一瞬レーコかとも思ったが、それよりさらに二回りは小さい。五歳か六歳くらいの歳の女の子であり、真っ白な修道衣をマントのごとく身に巻いている。
「ねえ、ドラゴンさん? どうしたの? 泣いてるの?」
そしてくりくりとした目で、心配そうに尋ねてきた。
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