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危険人物一号二号

コミカライズ第1巻が発売中です!

単行本書き下ろしページもありますので、ぜひよろしくお願いします!


http://seiga.nicovideo.jp/comic/34701

ニコニコ静画にて一部公開中です!


「あれほど! あれほど言ったよねわし! 暴れるのはダメじゃって!」

「無差別に暴れるようなことはしない。ただ決闘がしたいだけだ」

「それで仮にお主が勝ったら、この国から神様がいなくなってしまうんじゃよ?」

「そこまでは吾輩の知ったところではない。真剣勝負に敗れる方が悪いのである」


 ダメだ。まともかと思ったら脳筋だった。わしの周りはこんな人ばっかりである。


「しかし参った。おそらく、あの雷雲は本物の神の手駒であろう。正々堂々と勝負を申し込むつもりだったのに、既に開戦の火蓋を切ってしまっていたとはな……。これではもはや一騎打ちは望めまい。いつでも互いの命を狙い合う、殺るか殺られるかの問答無用の戦いになりそうであるな。まあ、それはそれで一興かもしれぬ……フフ」

「なんでこういう人たちって異常にポジティブなんじゃろ」

「さ、話がまとまったようですね邪竜様。さっそくこの国の神を滅ぼしにかかりましょう」

「まとまったという体を装って、お主自身の過激な主張をしないでくれるかの」


 わしの悲哀をよそに、レーコとヨロはどこか楽観的――というか、普段どおり楽しげである。なぜわしだけが苦悩しなければならないのか。この世界はひどく不平等である。


「とにかくヨロさん、お主の話では雷雲の他にも神様がいるのね? それは信じてええのね?」

「無論。かつての吾輩を打倒できるほどの強者がいるはずなのである」

「じゃあレーコ。ちょっといつもの千里眼で探してみてくれないかの。ヨロさんが雷雲を消してしまったことを謝って、こちらに敵意はないということを説得しに行かんと」

「敵意はないが戦意はバリバリなのであるぞ。雷だけに」

「黙っててお主」


 生後四日のくせにずいぶんダジャレが親父臭い。これも前世の影響なのか。

 ヨロの呑気さ加減に呆れていると、命令を受けたレーコが目を輝かせる。


「……む」

「見つかったかの?」


 わしが尋ねると、レーコは眉間に皺を寄せて瞳の光をさらに増す。


「……気配はあります。非常に強大な者の気配が。しかし……位置までは捕捉できません。かなり巧妙に魔力を隠しているようです。『ここに本物の神がいる』と知らなければ、千里眼を働かせても気配にすら気付かなかったかもしれません」


 探知が不発に終わったレーコはしばし消沈し、しかしすぐに拳を握って元気を取り戻す。


「これはやはり、神というやつが邪竜様を恐れて敵前逃亡したというわけですね」

「いいやレーコ。それは違うと思うよ」


 即座にわしが否定すると、レーコはショックを受けたように表情を硬直させた。


「なぜですか邪竜様」

「だってこの街の様子を見る限り、この国はずいぶん前から『本物の神』ではなく雷雲の方を崇めていたということじゃろ? 本物の神様の方は、わしらが来るずっと前から身を隠しておるのではないかの」


 レーコは未だ納得できぬ様子だったが、ヨロはすんなりとわしの意見に頷いた。


「そうであろうな。これだけの彫像や聖堂の飾りなど、一朝一夕にはできまい。真の神は、かなり前から雷雲にその役を引き継いで隠遁していると見てよさそうである」

「神様の役割に疲れて隠居生活でもしたくなったのかもしれんのう。で、雷雲さんに後を任せて休もうと……」


 わしは自分のことに置き換えて想像した。ヨロみたいな武闘派が定期的に襲ってくるなら、確かに嫌気が差しそうなものである。


「邪竜様。もしもの話ではありますが、邪竜様がいつか隠居してゆっくりしたいと思った場合は、いつでも私にご相談ください。見事に代役を務め、邪竜様のお休みを憂いなくサポートしてみせましょう」

「わしは最初から隠居しておったんじゃけどなあ」


 むしろレーコはわしを五千年の隠居から引きずり出してきた立場である。


「そうですね。悠久の平穏を満喫されていた邪竜様を、大いなる怒りによって目覚めさせたのが憎き魔王でしたね。おのれ魔王」

「ん? 吾輩?」

「レーコ。この場面では混乱するから魔王に対して愚痴を言うのはやめようの。あ、ヨロさんは気にしないでください。こっちの話はお主とはたぶん別人の魔王じゃから」

「うむ」


 暴走する人が二人になったので、なんだかいつもの二倍疲れる。

 それに、頼みの綱だったレーコをしても本物の神様の居場所がつかめないときた。


「なんとかして話せる機会を作れんかのう」


 悩むわしに対して、レーコがびしっと手を挙げる。


「私にいい案があります。これから開催されるという祭りを襲撃して蹂躙の限りを尽くせば、神の方もたまらず姿を現すのでは?」

「ほう、小娘よ。貴様――なかなかの智将であるな」

「お主ら気は確か? 戦うつもりはないということを話したいのよ? そのために先制攻撃を仕掛けるなんて本末転倒じゃよ?」


 なるほど、とレーコとヨロが揃って頷いた。ダメだこの人たち。戦闘能力は高くても人間性に重大な欠陥がある。片一方は人間どころか魔王だけど。


「しかし、攻撃の件を差し引いても祭りがチャンスだというのは吾輩も同意だ。この国の神である以上、国民の信仰心を糧にしているはずだからな。岩場に隠れた魚とて餌を食うときは姿を現すというもの。普段よりは隠れ身が雑になる可能性は多大にありそうである」

「あっ。お主まともなことも言えるんだ。よかったあ」


 言われてみれば、聖女様も泥祭りの劇を見てウへウへと喜んでいたし、この国の神様もテンション次第ではこっそり姿を現すかもしれない。


「まあ……そうじゃね。それなら、とりあえず予定どおり研究所に行くかの。わし個人も調べたいことはあったけど、そっちは後回しでまずはお祭りについて聞いてみるよ。神様と話せそうなチャンスがあるかどうか」

「うむ、よろしく頼むぞ。それでその間、吾輩は何をしていればいい?」

「何も問題を起こさず酒場で時間を潰しておいてくれればええよ」

「承知した。ああ、リベンジの機会が待ちきれんのであるなあ」


 酒場にヨロを置き去り、レーコとともに研究所へと向かいながらわしは決意する。

 神様とコンタクトを取れても、とりあえずヨロには絶対報せないでおこう――と。

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