まったく反省の色がない
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「うむ、しかし済んでしまったことを悔やんでもしょうがない。あそこの大聖堂にでも行って謝ってくるとしよう。吾輩も悪気はなかったのだ」
「いか――――ん！」
早くも気を取り直して、謝罪という名の犯行声明を出しに行こうとしたヨロを、わしはすんでのところで制止した。
「邪竜様。この国の神が死んだとなれば、これはもう邪竜様が新たな神として君臨する以外に選択肢はないかと思います。どうかご決断を」
「お主はその発言をする前にちょっとでも別の選択肢を考慮した？ どう考えても脊髄反射で提案しておるよね？」
レーコはこの危機を逆にチャンスと捉えているようだった。なぜ毎回こんな発想をしてくるのか。
だいたい、このタイミングでわしが神になるなんて言おうものなら、ヨロ（魔王）との共犯関係を疑われるに決まっている。
「とにかくヨロさん、迂闊に自首なんてしてはいかんからね」
「自らの犯した罪を認めず目を背けるとは――竜よ、なかなかのワルであるな」
「ふ、当然だ。邪竜様の大いなる闇は貴様などと比べるべくもない」
「なんじゃろう。実行犯を差し置いてわしが一番の悪みたいにされておる」
雷のオブジェが飾られた広場の隅っこに移動し、わしら三人は顔を突き合わせて座り込む。
「いいかの。まずは状況を整理して対策を練らんと。ええと――とりあえず、なんでお主はそんなことをしちゃったの？」
「急に吾輩に雷を落としてきたから」
「まあ薄々そんな感じの顛末じゃろうとは思ってたけどね」
せめて反撃する前に深呼吸して考えて欲しかった。
「気にするな。貴様の不始末は通常であれば万死に値する罪だが、ここには邪竜様がいる。神の不在ごとき、邪竜様がいれば何の問題もない。さあ、邪竜様を信じろ」
「おお、それはかたじけないのであるな。では、後のことは任せるから吾輩はこれにて失礼――」
「レーコ。極力わしは傍観者の立場でいたいから、この話の当事者に巻き込もうとするのはやめてくれないかの。あとヨロさんも座って。わしも怒るよ」
ヨロは鎧を鳴らせてその場におとなしく座った。レーコと違って話が通じるのだけは救いだ。
「しかしだな竜よ。吾輩にも言い分というものがあるのだ」
「どういう？」
「そもそも吾輩が会いに来た知り合いというのは――この国に祀られている『神』なのだ。だが、吾輩の知る限り、この国の神は雷神などではなかった。だからよもやあの雷雲が神として扱われているなどとは思わなかったのだ」
「へ？」
いきなり明かされた情報にわしは「えっと」と頭を捻る。
「お主は生まれてまだ四日目じゃよね？ なのに、神様と前にも会ったことがあるの？」
「んまあ……あるといえばあるし、ないといえばない」
「どういうことじゃの？」
ヨロ自身もどう言ったものか迷っているようで、しばし顎に手を添えて考え込む。
「吾輩が生まれたのは四日前であるが、うっすらとそれ以前の記憶もあるのだ。吾輩が魔王だというのもその記憶のうちの一つだ」
「……それは、四日前に生まれたのではなく単に記憶喪失ではないのかの？」
「いいや、それはない。我が身が無から生まれたのをはっきりと覚えているからな」
しかし、それでは記憶があるのことの説明が――
「その『かつての記憶』の最期が、仇敵との戦いで討たれた吾輩の姿だったのだ。つまり……平たくいえば吾輩の前世の記憶ということなのだろうな」
前世？
人間の宗教でそういう概念を聞いたことはあるが、絵空事の話かと思っていた。
「ええと……魔物はそんな風に生まれ変わったりするものなのかの？」
「魔物の生まれる元は人間の『恐怖』や『畏怖』といった負の感情だ。魔物自体を倒しても、その発生元の感情が消えねばいずれは同じような魔物が発生する。まあ、吾輩もその類だろう」
前世という証拠もある、とヨロは続けた。
「吾輩が持っていた金塊は、かつての記憶の中にあった隠し財産でな。記憶の中では吾輩の真新しい根城に保管していたはずが――行ってみたら、完全に廃墟の遺跡と化していた。千年以上は昔のものであろう。ずいぶんと復活に時間がかかったようだ」
「ちなみに貴様はどういう元から生まれた魔物だ？」
ここでレーコが横槍を入れた。正直わしも気になる。その発生元によって、彼の強さもおおよそ分かるだろうし。
ヨロは鎧の掌を広げると、その中に青白い雷光を生んだ。
「この世すべての『落雷』の恐怖の化身が吾輩だ」
言葉を聞いたわしは目をぱちくりとさせた。
「それって、ここの神様と同じなのではないのかの？」
「あんな雷雲ごときと吾輩を一緒にするな。だが――確かに似ていることは否めん。しかし吾輩の知っているここの神は、貧弱な雷神などではなかったはずなのだ。もっと途轍もなくすごい奴だったのだ」
ヨロは腕を組んでふんぞり返る。
「まったく、何がどうなっているのやら。吾輩は本物の神に会いたいだけだというのに」
「あ、そうじゃそうじゃ。お主は結局、その神様にどんな用事があるの？」
「うむ、よくぞ聞いた」
拳に電気を漲らせ、ヨロは快活に笑った。
「前世の吾輩を倒したのがその神なのだ。ゆえに、積年のリベンジを果たそうと思ってはるばるやってきたのだ。ああ、早く再会して正々堂々と一戦ぶちかましたいものであるなあ」
早すぎる再犯宣言に、わしは泣きながら地面をバシバシと叩いて抗議した。
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