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人違い……?

6月13日にコミカライズ第1巻発売予定です!


第一話は下記URLの特設サイトで無料公開中です!

http://www.jp.square-enix.com/magazine/joker/series/jaryunintei/index.html


 テーブルを吹き飛ばしてレーコが動いた。

 獰猛な光を瞳に宿し、抜き放った短剣の切っ先で狙うのはヨロ――いいや、魔王の心臓である。


「やめぬか。食事時であるぞ」


 激震。

 レーコの突進は到底その場で収まるものではなかった。刺突の勢いに巻き込んで魔王ごと店の壁をぶち抜き、既に両者の姿は屋外で遠い影になってしまっている。

 物騒なフレーズにも動じていなかった店主も、さすがに破壊された店の壁を見て呆然としていた。


「す、すまんの。ちょっと今すぐ止めてくるから待ってての」


 これはいけない。ここでレーコと魔王が本気の戦闘なんて始めようものなら、この村はもちろんとしてこの国自体どうなるか分からない。

 もちろんわしは余波で死ぬ。


 わしは壁の穴から外に飛び出す。そして全力疾走で二人の元に向かい――


「聞き分けのない娘だ。吾輩はやめろと言っておろうに」


 辿り着いた頂上決戦の場は、意外にも静かだった。

 魔王はその右手でレーコの突き出した短剣の刃を握り、心臓の間際で受け止めている。


「く。なめるな……」


 レーコは歯ぎしりして刃を押し込もうとするが、魔王の防御はまるで動かない。

 ただし、魔王の完全優勢というわけでもない。刃を握る手から血が滴り落ちていることから見て、多少なりのダメージは通っているように見える。


「こらレーコ! 向こうの話を詳しく聞かんうちに襲い掛かるのはダメっていつも言っておるじゃろ!」


 一瞬だけ戦況に気を取られかけたが、すぐにわしは制止の叫びを上げる。

 その声でレーコに漲っていた殺気が薄れ、代わりに無邪気な笑い顔が浮かんだ。


「はっ! 申し訳ありません! やはり魔王は邪竜様自らが討ち果たすというわけですね!」

「えっ。いや、そういうことではなくてね」


 短剣をあっさり手放して、レーコがはしゃぎながらわしの元に寄ってくる。


「ほう、今度は貴様が吾輩の相手をするというのか?」

「待って。魔王さん、まずは話し合いというものをね」

「冗談だ。こんなところで戦っては、許可証の件もフイにしてしまうからな」


 そう言って魔王は短剣をレーコの足元に投げ返した。手から流れていた血は煙とともに蒸発し、みるみるうちに跡形もなく癒えていく。鎧の手甲にも傷は残っていない。


「んで、吾輩に何の恨みがあるというのだ貴様ら。奢ってやっているのに襲い掛かってくるとは」

「とぼけるな。邪竜様に数多の刺客を送り込み、魔王軍を組織して人類と敵対する――これが誅殺に足る理由でなくて何だ」

「のうレーコ、お主はちょっと静かにしておってくれんかの」


 わしはレーコの肩をぽんぽんと叩いてストップをかける。


「えっと、魔王さん。さっきお主は生まれたのが三日前と言っておったよね? でもわしら、それより前に魔王軍の人とかと会っておるんじゃけど」

「魔王軍……? 何の話だそれは。吾輩は知らんぞ」

「は?」


 わしはぽかんと口を開けて間抜け顔を晒した。


「そうか、分かりましたよ邪竜様。魔王にしてはあまり敵対的ではないと思っていたのですが、さてはこいつ、自分を魔王と思い込んでいるだけの者では……?」

「お主のその言葉は己自身に刺さるものじゃからね?」


 わしらの会話を無視して、魔王は平然と腕を組んでいる。


「まったく。分別もなく喧嘩を売るのは二流の行いであるぞ。ほれ、さっさと戻るぞ。まだ吾輩は飲み足りん」

「そうじゃよレーコ。早く帰って宿屋の主人さんに謝らんと。あと、ちゃんと壁は直すのよ? できるよねお主なら」

「はい。破片すべての時の流れを巻き戻して壊れる前の状態に戻せば造作もありません」

「そういう方法は敢えて説明せんでええから」


 ただ単に念動力とかで破片を集めて接着させる修理法ではいけないのか。なぜいつもわしの想像を凌ごうとしてくるのか。

 怪しげな新技を引っ提げ、短剣を拾ったレーコは宿屋へと修理に走って行った。


 そしてその場にわしと魔王だけが残された。

 魔王もすぐに歩き出そうとしていたが、わしは思い切って声をかけてみる。


「……あ、あのね魔王さん」

「何だ」

「操々さんという魔物を知っておるかの? 魔王軍の幹部だった子なんじゃけど、お主が魔王っていうなら名前くらいは知っておらんかの?」

「知らん。だいたい、さっきも言ったが吾輩は魔王軍なんてものにまるで心当たりがない。絶対的強者である吾輩からすれば、配下の軍勢など足手纏いに過ぎんからな」


 鼻息とともに否定されるが、わしは少し安堵した。

 ということは、ここにいる魔王はわしら(正確にはレーコ)が討伐しようとしている魔王とは別人ということである。

 魔王というのは複数いるのだろうか? それとも、レーコ説のようにこの人がただ自分を魔王と思い込んでいるのか。


 謎ではあるが、とにかく荒っぽくなさそうな人でよかった。


「なにはともあれ、レーコがいきなり失礼して本当にすまんかったの……いや、失礼くらいで済む話ではないんじゃけどね。お主が無事でよかったです、本当に」

「ふん。このくらい大したことではないわ――だが」


 魔王は防御していた掌をひらつかせる。


「詫びというならば、首都への同行は認めてもらえるのだろうな? そのくらいの誠意を見せてもらいたいものだ」

「う……うん。そりゃあ、仕方ないのう……」


 いかんせん、全面的にこちらに非があるから断り辛い。

 正直な話、魔王――いいや、魔王というと本物の魔王と紛らわしいから、もうヨロと呼ぼう――ヨロはレーコの攻撃に対して、実に大人な対応をしてくれた。

 この人物なら、首都に入った途端に大暴れしだすなんて心配もないように思う。


「しかしだ。その態度を見る限り貴様、あの幼子の保護者か?」

「まあ、そんなところじゃの」

「ならば、よく手綱を握っておくのだな」


 ヨロはとうに傷の消え去った右手で、堅く拳を握った。



「――あの娘は弱い。あまり奔放にさせておくと、身を滅ぼしかねんぞ」

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