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しかし魔王はどうするか

コミカライズ版単行本第1巻、現在発売中です!

http://seiga.nicovideo.jp/comic/34701


ニコニコ静画にて試し読みできます!


 レーコを背に乗せて歩む旅は、当然のように陸路である。

 決して調子に乗ってはいけない――旅立ち早々にそんな教訓を得たわしは、レーコを説得して地道に目的地へと進んでいた。


「せっかくいろんな場所を旅するんじゃからね、一気に飛んでしまうよりゆっくり歩き回った方がお主の見聞も広まってよいと思うのよ」

「世界のどこであろうと、いつでも千里眼で見ようと思えば見られるのですが」

「そう言わないの。直接見た方が感動するじゃろ」


 そう言いつつ、わしは立ち止まって軽く息を整える。

 正面を向けば、見渡す限りどこまでも続く砂と岩ばかりの荒野である。


「まあ……このあたりはちょっと殺風景じゃけどな」


 わしが人間に飼われていた大昔は、世界の大部分は触れられぬままの未開の地だった。

 現在は冒険者による探索が進み、ほとんどの陸地は地図に網羅されたということらしいが――かといって、隅々まで人の手が行き届いているわけではない。


 その最大の理由は魔物の存在である。

 新たな土地を拓こうとするとき、魔物の襲撃は何よりの障害となる。少しでも防備を怠れば、あっという間に開拓民が全滅してしまう。


 そういう開拓のリスクの高さから、人が住むのに適した一部の土地以外は手つかずのままのことが多い――というのは、シェイナからの受け売りである。


「なんか、何千年も経ってもそこまで変わり映えしないのはそういうせいかのう」


 もちろん、ペリュドーナなどの街並みはわしの若い頃よりもずっと洗練されていた。

 しかし、本質的な人々の暮らしはそこまで変化していないように思う。


 魔物の邪魔がなければ、もっといろいろと発展していたのだろうか。


「邪竜様。変わり映えしないというのは?」

「うんとね。わしが若かった頃からそこまで世界が変わっておらんなあと思って」

「やはり邪竜様が旧人類を滅ぼして文明をリセットしたのが効いているのではないでしょうか」

「わしは何の目的があってそんな酷いことをしたの?」

「眷属に過ぎぬ私ごときが邪竜様の大いなる意志を語ることは憚られます……」

「物騒な実績だけ語っておいて動機を投げっぱなしにしないで」


 言うまでもないがもちろん濡れ衣である。

 わしのようなトカゲごときにリセットされる文明などあり得ない。


 ――しかし。


「そういえば、今からわしは本物の邪竜になるかもしれんのじゃったな……」


 レーコに聞こえないようにこっそりと呟く。

 今のレーコを眷属たらしめている膨大な邪竜の魔力。これをどう封じるかはまだ分からないが、聖女様が提案した「本来の所有者に戻す」という方法――つまりわしに戻すという方法は、一番あり得そうだと思う。


 それが果たされれば、わしはレーコのように凄まじい力を持つ本物の邪竜になってしまうのだ。


「ま、そうなっても使わないでおけばええもんの。ああでも、飛んだら高い木の葉っぱが食べられるし捨てがたいのう……それだけは解禁しようかのう。頑張ったわしへのご褒美に」

「なんだかとても楽しそうですね邪竜様。魔王の断末魔を想像されているのですか?」

「うんそうじゃね魔王を……魔王?」


 わしは正気に戻って「はっ!」と息を呑んだ。

 そうだった。最近浮かれ気味ですっかり忘れていたが、魔王が人類の脅威になっているのだった。そもそもわしが洞窟暮らしから決別するハメになったのはそのせいだった。


 そして魔王に対抗できるのは――『邪竜』レーヴェンディアしかいないのだ。


 つまり、レーコの力をわしに移したが最後。わしの双肩に人類の運命が乗ってくるということである。

 俄かにわしの胃が痛み始める。


「あ、あのなレーコ。前、お主の千里眼で魔王を探してみたことがあったよね?」

「はい。残念ながら見つかりませんでしたが」

「あれは本当に見つからなかったんじゃろうか? 魔王なんて実在せんという可能性はないかの?」


 幹部の操々ですら、直接魔王に会ったことはないようだった。

 わしが邪竜と勘違いされているように、魔王という名前が空回りして魔王軍が組織されているだけではないのか。


「強大な魔力の気配は感じましたが……、申し訳ありません。私の力では断言しかねます」

「ああ、気にせんでええのよ。ちょっと言ってみただけじゃから」


 たぶん、魔王がいないというのは希望的観測もいいところだろう。

 とりあえず魔王は実在すると推測して、真の邪竜となった場合のわしのすべきことを考えねばならない。

 レーコに代わって、わしが魔王を倒し……


「邪竜様? 震えていますがどうかしたのですか?」

「ま、魔王との戦いを考えたらちょっとね。怯えているわけではないのよ。武者震いが」

「決戦が待ちきれぬということですね、さすがは邪竜様。頼もしいです」


 ダメだ。仮に邪竜パワーがあっても、単なるトカゲのメンタリティのわしに勝機はない。

 レーコ主導の現状のまま特攻した方が遥かに勝ち目があるだろう。


「……まあ、うん。細かいことは具体的な道筋が見えてからでええかの」


 もしかしたら、邪竜パワーをそのままアリアンテあたりに譲ることもできるかもしれない。

 それだったら万事解決。わしもレーコも平穏な暮らしに戻れる。レーコはごねるだろうが、時間をかけて説得しよう。


 そんな風にして、わしは問題を棚上げすることにした。


 そのまましばらく歩いているうちに、わしの鼻がある匂いを捉える。

 少し生臭いようでいながら、しかし爽やかな気配も含んだその匂いは、わしにとってひどく懐かしい。


「レーコ。お主の鼻なら、空気の匂いが変わったのが分かるかの?」

「はい。南の風から変な香りがしますが、これは?」


 やはり、レーコは今まで嗅いだことがなかったようだ。

 わしは人生の先輩ぶって、威風をもって自信たっぷりに答える。


「海の匂いじゃよ。そろそろ、港が近いようじゃな」


 シェイナが教えてくれた国に行くには、海を渡る必要がある。

 レーコにとっては初めての、そしてわしにとっても数百年ぶりの海が、間近に迫っていた。

今回から新章となります!

なるべく毎日更新を予定していますので、よろしくお願いします!

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