2章エピローグ:眷属のポジション
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「邪竜様。次の行き先は決まっているのですか?」
「うん。少し寄りたいところがあるのよ。ええかの?」
「邪竜様が必要と判断なさるなら、魔王討伐にもきっと不可欠なことなのでしょう。是非もありません」
レーコを背に乗せて、わしは平原を進んでいた。
目指す先はシェイナから教わったある国である。
――魔物とか神様、精霊の性質について研究が進んでる国があるんだ。そこなら、レーコちゃんの魔力の封じ方とかが分かるかも。
レーコに宿る魔力は通常の人間の限界を遥かに凌駕している。
むしろ「恐怖心を根源とする」という発生過程からすれば、魔物に近い存在といっていい。
その道の研究が進んだ国ならば、有用な手掛かりがつかめるかもしれない。
「欲を言えば、精霊さんを連れて来られたらよかったけどのう……」
そういうお国柄だから、もし精霊さんを一緒に連れて行けば諸手で歓迎されたはずである。
人の姿となり、しかもある程度は指示に従う精霊というのは本当に貴重らしいのだ。
が、精霊さんはもともとシェイナの国の金山だ。
勝手に国外に持ち出しては「邪竜が金山を奪って逃げた!」という事態になりかねない。
精霊さんがいれば飛行可能になるという点で、逃げ足要員としてもぜひ一緒に来てもらいたいところだったが、泣く泣く断念した。
「あの精霊がどうかしたのですか邪竜様?」
「いやね。これから先に行く国で、精霊さんがいたらいろいろと話がしやすかったかなあと思って」
「今から連れてきましょうか?」
「ええのええの。精霊さんも元いた場所の方が住みやすいじゃろうし」
一言命令すれば金山の姿に戻るのは分かったが、まだ精霊さんは人型のままである。
シェイナは「この姿の方が、万が一のときに邪竜様を助けてあげられるでしょ?」と笑っていたが、おそらくはまだ手懐けようとしているのだろう。
まあ、わしもその方がありがたい。
本当に困ったら、レーコに一っ飛びしてもらって精霊さんをこっそり借りるという選択肢も残ることだし。
「では、僭越ながら私が交渉役として頑張りましょう。精霊がなくとも、この私の話術で敵を篭絡してみせます」
「お主……まだお遣いの件を引きずっておるの?」
ぎくり、とレーコがわしの背で身を固くする。
「申し訳ありません。汚名返上しようとつい張り切り過ぎてしまいました……」
「汚名だなんて言わないの。お主が頑張ったことは十分分かっておるから。それに、あのお遣いの途中では魔王軍の幹部が二人も出てきたんじゃよ? そんなハプニングがあってもみんなが無事で済んだんじゃから、大成功といってもいいくらいじゃよ」
レーコはまだ落ち込んだ様子だったが、わしが明るく励ますとようやく少し微笑んだ。
「そうですね……まだ未熟なのは伸びしろがあるということですからね。ポジティブにいきたいと思います」
「まだ伸びるつもりなのお主?」
これ以上伸びられてはわしが参ってしまう。
けれど、落ち込んだままでいられるよりはいいかなあ――とわしもヘラヘラと笑って同調する。
どうせ何を言おうと、これからも勝手に覚醒していくのだろうし。
レーコは気合を入れるかのように、己の頬をぺしんと両手で叩いた。
「ええ、いつまでも落ち込んでいるわけにはいきません。クヨクヨしていて精進を怠っては、すぐ追いつかれてしまいます」
「追いつかれる? 誰に?」
まさかあの自称眷属のことだろうか。レーコのことだから、次は絶対に倒すとか考えていそうだけれど。
「ライオットです」
しかしレーコの口から放たれたのは予想外の名前だった。
「ええと、なんでライオットの名前が?」
「私は奴を見くびっていました。生贄に選ばれなかった八つ当たりに、村では邪竜様に投石の無礼まで働くなど……。なぜ俺じゃなかったんだ、という醜い嫉妬があの石には込められていたのです」
「お主の中ではあの投石はそういう風に解釈されておるの?」
なぜそう拗らせた解釈をするのだろう。もっと単純な動機がいくらでも読み取れるだろうに。
「あの落伍者根性からして、ライオットはあのまま村で『どうせ俺は邪竜様の生贄になれませんでしたよ』と酒浸りの荒れた一生を送るものだと確信しておりました」
「確信の内容が異様に辛辣じゃね」
「しかし、奴は私の予想に反して、諦めずに邪竜様を追って来た――これは見上げた生贄根性です。……邪竜様? なぜ涙を流しているのですか?」
「この世のどこかにいる不憫な人のことを思っての」
すまないライオット。わしはもうこの子を止められない。そもそも止められたことロクにないけど。
と、レーコは晴れやかな表情でまっすぐに平原の先を見た。
「ですから、私も初心に戻って頑張ろうと思ったのです。一番大事なのは、失敗をしてもめげずに再チャレンジする心です。ライオットのことは忌々しい敗北者とばかり思っていましたが、この一件で大事なことを教わりました。あの不屈の根性は、私の生贄ライバルにふさわしいといえるでしょう」
「ううん、評価が好転したということは喜ばしいのかの……?」
どうリアクションしたらよいか迷っていると、レーコはがしりとわしの角を握ってきた。
とても嬉しそうな表情で。
「しかし、私はどんな強敵が相手だろうと邪竜様の眷属の地位を譲るつもりはありません。もちろん、あの魔王軍幹部の不届き者が相手でもです。さあ邪竜様――先を急ぎましょう!」
上昇するレーコのテンションとともに、ばさりとわしの背中に翼が生える。
しかしわしはもう焦らない。飛行は既にわしの得意分野といって過言ではない。自信たっぷりの笑みを浮かべて、わしは背のレーコに頷く。
「そうじゃね! じゃあ、目一杯飛ばしていこうかの!」
「了解です!」
レーコもこれに満面の笑みで答える。
そして短剣を針路に振りかざし、かつてない速度でわしの身を一気に空中へと弾きだす。。
――わしの意識と記憶は、そこで早々に途絶えた。
これにて2章完結です。
3章開始まで数日の期間を挟みますが、その間はif短編を何本か投稿したいと思っています。
ifネタはフリーダム路線なので「こんなネタが見たい!」というのがあれば、お気軽に感想欄に書いていただけると嬉しいです。




