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はじめての魔法

http://seiga.nicovideo.jp/comic/34701

ニコニコ静画にてコミカライズ公開中です!


スニーカー文庫版2巻は9月1日、漫画版単行本1巻は6月13日発売です!


 真っ白な光に目が眩んだ次の瞬間、わしの身は平原に放り出されていた。

 落ちた感触は地面よりも妙に柔らかい。見れば、まるでクッションのように下敷きになっている人がいる。伏した長髪にはどこか見覚えがあった。


 ――が、今はそんなことに構っていられない。


「い、いかん! 自爆! じっ、自爆してしまう!」


 わしはその場で半ばパニックになり、飛び跳ねながら警告を叫んだ。

 同じく長髪の誰かさんの上で転がっているライオットと精霊さん、そして外で待ってくれていたであろうレーコとシェイナと……アリアンテと銀色のドラゴンと黒いマントの人?


「えっ。何かのこの状況。いろんな人がおるけど。ねえライオット、アリアンテってお主と一緒にここまで来たりしたの?」

「ヒャッハァ――! アの銀色が報酬ノドラゴンだナァ!?」

「あ、ごめんね。また乗っ取られておったかの」


 テンションの上がった呪いの剣さんが、再びライオットの意識を奪っていた。

 わしは辺りを見渡して状況把握を試みるが――駄目だ情報量が多すぎる。そうこうしているうちに、


「レーヴェンディア……うふふ。アタシはずっと心の中で生き続けるからね……!」


 兎のぬいぐるみが不穏な言葉を発し、真っ白な閃光を放ち始めた。

 間違いない。今にもはち切れんばかりに膨れ上がった魔力は、あと数秒で爆発しそうな気配を漂わせている。


 ここにきて、わしの下敷きになっていた人が這い出してきた。そのボロボロの顔を見て、操々の部下のイケメンさんだと思い出す。


「馬鹿な、主よ! こんなところで自爆するというのですか! だからあなたはダメなのです! 対人関係で押せ押せばかりで引くということをまるで知らない……! たまには一歩引いて相手を焦らすのも肝要。そんな風に余裕のない粘着質でいては、周りはドン引きせざるを得ませ――」

「うるさいっ!」


 操々の怒りのツボに触れたのか、イケメンさんはパンチ一発でふっ飛ばされた。おかげで一瞬だけ自爆に猶予が生まれる。

 しかし無理だ。ここから数秒のうちに、全員が退避するなど不可能である。


「お願いじゃ操々さん! どうか思いとどまってくれんかの!」

「ふふ。ダーメ、やめてあーげない。だって、もうこれしかアタシが残せるお土産なんてないから……」


 カッ! と操々から放たれる閃光が平原を一面の白色に染め上げる。

 ダメだ。この距離で魔王軍幹部に最高威力の自爆などされては、無事なのはレーコくらいしか――


 びたーん、と。


 間抜けな効果音と同時に、周囲を覆っていた閃光が消える。

 恐る恐る目を開けたわしの視界に飛び込んできたのは、操々のうさぎ耳を掴んで地面に叩きつけているレーコの姿だった。


「こんなところで爆発するな。迷惑だ」


 どことなくデジャヴ。

 まったく同じように、以前イケメンさんも地面に叩きつけられて自爆を解除させられたことがあった。


「ばっ、馬鹿な! アタシの自爆が止められた……?」

「私はそこにいる長髪の木偶人形の自爆を解除したことがある。こんなことは容易い」

「あり得ない! 確かにあの木偶は、自爆用の魔石を壊せば阻止できる。だけどアタシは魔石なんて必要ない。自分の魔力だけで自爆できる! なのに何故!?」

「ああ、かつての私なら貴様の自爆を止めることはできなかったかもしれない」


 そう言ったレーコは、唐突にシェイナを振り向いた。


「シェイナ、感謝する。お前のおかげだ」

「え? あたし? 何かしたっけ?」


 言われたシェイナも当惑顔である。というか、この場で当惑していないのはレーコくらいかもしれない。


「以前、お前のいた駐屯地で邪竜様が酒をお召しになった晩があったろう。あの日、私はお前から人間の魔導士の修練法を聞いた。新たなる技を開発するためにな……」

「あ、そんなこともあったっけ。でも正直あたしがレーコちゃんに何か教えられたとは思わないけど」


 わしもすっかり忘れていた。

 あの後レーコは、洗脳用の新技を開発するだの何だのと物騒なことを言っていたが、結局うやむやになっていた。


「魔法の基礎。基礎を組み合わせた発展形。熟達者のみが編み出せる独自魔法。非常に興味深い理論の数々だったが……すべてに共通する核心はこうだろう――『やれると思えば何とかなる』と」

「んー。ちょっとあたしの指導意図とは違うけど、レーコちゃんがそう思うならそれでいいや」

「やはり」


 呆然とする操々を睨みながら、レーコは世にも恐ろしい顔で笑う。


「私は以前あの木偶人形の魔石を破壊して自爆を止めた。つまり『相手を地面に叩きつけることで自爆を阻止する』という体験を一度得た。こうなればもう簡単だ。この『地面に叩きつける=自爆が止まる』という構図を、絶対法則としてこの世界に再現するだけでいい。すなわち新たなる魔法の発明――これこそが人間の魔導士のいう魔法の真髄というやつだろう。ふふ、見ていますか邪竜様。私もとうとうオリジナルの技を開発してしまいました……これぞ名付けて『眷属式自爆封じ』」


 そのまんまのネーミングをしながら、レーコは自身の成長にうっとりと酔いしれている。

 わしはスタスタとアリアンテのそばまで歩き、


「のうアリアンテ、レーコのこの理屈は正しいの?」

「世のすべての魔導士に対する侮辱といっても過言じゃないな」

「怒らないであげての。悪気はないんじゃから」

「大丈夫だ。今、私の怒りはどちらかというとこの小僧に向いている」


 いつのまにか、アリアンテの片手にはタンコブを作って気絶したライオットがぶら下げられていた。呪いの剣は「血っ! 血ヲよコセ!」と叫びつつ、地面に刺さっている。


「このクソ忙しい中、馬鹿みたいに操られてドラドラの奴に斬りかかっていったからな。穏便に止めるのは面倒だから気絶させた」

「仕方のないことじゃね」


 荒事を好まないわしではあるが、これ以上この場の状況が複雑になると理解力がパンクしてしまう。ライオットには眠ってもらうほかない。


 自爆も止まり、ここにいる人物はだいたい把握できた。あと、素性の分からない最後の一人は――


 パチパチ、と軽い拍手の音がした。


「見事です。レーヴェンディア様からいただいた技だけでなく、自分でも技を編み出しましたか。その向上心には同じ眷属の先達として感服しますよ」

「えっ、眷属?」


 少し離れたところで転がっていた人が立ち上がり、こちらに拍手を送っている。

 黒布に包まれて仮面をかぶった装いは、どう見ても不審者のそれである。


 ――その不審者が、なんかわしのことを「レーヴェンディア様」とか呼んで、眷属の先達とか言い始めている。


 わしはアリアンテの後ろに回り込んで震えながら縮こまった。


「のうアリアンテ。あの人は何かの? また新しくレーコみたいな人が来てしまったのかの? わしは違うから、レーヴェンディアとかじゃなくてただのトカゲじゃから。じゃからあの人には帰ってもらうよう伝えてくれない?」

「お前……仔犬みたいに怯えるな。あまりにもみっともないぞ」


 アリアンテは半ば軽蔑するような視線でわしを見下ろす。


「だってもうわし面倒見るのはレーコ一人で限界じゃもん。二人目とか無理じゃよ」

「心配するな。見たところ、あいつはお前に心から忠誠を誓っているようではない。何らかの打算があって眷属を自称しているだけのようだ」

「あ、そうなの。よかったぁ」

「ちなみに魔王軍幹部らしい」

「ええのええの。レーコが一人増えるよりも魔王軍幹部さんが襲ってくる方がまだええって」

「お前もだいぶ壊れてきてるな」


 そうかもしれない。むしろ、多少は壊れないとやっていられない。

 自称眷属は、拍手をしながら一歩一歩レーコににじり寄っている。


「しかし、所詮我らは眷属です。枝葉のようにつまらない技を編み出すよりも、レーヴェンディア様からいただいた邪竜としての技を磨く方が先決では? いかに多芸であろうと、肝心の爪と牙が鈍くては話になりません。先輩として言わせてもらいますと、あなたの爪にはまだ磨く余地が多いように思います」

「そうだな」


 レーコは何気ない口調で頷いたが、その声には強い怒りが漲っていた。わしには分かる。

 案の定、次の瞬間には地が震撼するほどの魔力を放ち、短剣を高々と掲げた。


「ならば、私の全力の爪撃を放ってやろう。ライオットが出てきた今、もはや加減してやる必要もない。この世に塵すら残ると思うな」


 ぽいっ、とレーコの手から放り投げられた操々はイケメンさんに拾われる。

 地面に打ち付けられたときに残りの体力をすべて削られたらしく、もはや暴れる気はなさそうだ。


「あれ? というか、なんでレーコは前みたいに邪竜っぽい格好になっておるの? 暴走はしてないようじゃけど……」

「それだけあの自称眷属が強いということだ。さっきまで、眷属の娘と私とドラドラの三人がかりでも押し切れなかったからな」


 えっ、とわしは狼狽する。

 あの状態のレーコに、さらに二人の援護があっても勝てない相手?


「それはまずいんじゃないかの?」

「得体が知れない相手であることは確かだ。だが、さっきまではぬいぐるみに閉じ込められていたお前らを気遣って全力が出せていなかったからな。今ならやれるかもしれん」

「そうじゃとええけど……」


 掲げられた短剣からレーコの魔力が迸り、切っ先の向けられた天からは雷鳴が轟き始める。

 だが、自称眷属はレーコの膨大な力を目の前にしてなお、一歩も引こうとしていない。


 そして唐突に、自称眷属がわしに首だけを回し向けた。


「レーヴェンディア様。一つお許しをいただきたい。眷属同士で争うつもりはありませんが――」


 仮面の下で笑ったような気配を、わしは確かに感じた。


「――少しばかりの指導をしたいと思います」

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