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幕間:ライオットの修行 ~今日も俺は(半強制的に)元気です~


「街中のガレキが片付くまでお前はひたすら車牽きだ。城壁の中に一片のガレキもなくなるまで休憩は許さん」


 師匠のアリアンテからそう命じられて以降、ライオットに安息の時は消えた。

 しかも、そんな無茶を言うだけ言って本人は「他の冒険者にも稽古を付けねばならん」さっさと道場に戻ってしまった。

 とんだ放任主義である。


 そして今、人力車の後ろで檄を飛ばしてくるのは――


「はぁ~い。ライオットく~ん。そろそろお薬の時間ですよぉ♡ なんと! これを少~しだけ飲めば、向こう三日はご飯も食べなくていいし眠らなくてもいい優れモノ!」


 紫色のマントに身に包み、怪しげな腕輪やら首飾りをじゃらじゃらと鳴らす錬金術師の女性である。

 アリアンテの知己らしく、この手の輩が何人も交代で見張りに付いている。


 ちなみに昨日は乗席から気まぐれに怪光線を飛ばしてくる白魔導士の少女だった。身体に光線に当たるたび、疲れが嘘のように吹き飛んで元気が出るのだが、その効果が解けると倍以上の疲労が襲い掛かってくる。しかも倍以上の疲労に苦しんでいるときは光線を追加してくれない。振り返ったときにニヤニヤしていたのでたぶん嫌がらせのつもりだ。


 ガレキ拾いに車を止めるや、錬金術師の女性は素早くライオットを羽交い締めにして口元に緑色の液体の入ったフラスコを近づけてきた。

 周りは常温のはずなのに、ぐつぐつと溶岩のような粘度を持って液体は沸騰している。


「いいって! 俺、まだ全然疲れてないから! そんな薬まだ全然いらねえから!」

「無理はいけませんよぉ~。ほ~ら、お薬怖くありませんからね~」

 禍々しい緑色の何かが一気にこちらの口に突っ込まれる。

「う……んごっ! ぐんぁっ!」


 味はとても言葉にならなかった。

 苦くも甘くも酸っぱくも辛くもない。強いて表現するなら「無慈悲かつ残酷な味」がした。しかも粘り気のせいで吐くこともできない。

 拘束を解かれたライオットが顔を青くして四つん這いになっている間、錬金術師は羊皮紙に筆書きで何かをメモしていた。

 人体実験のいい材料にされている気がする。


 さらに、休む間もなく肩に手が乗せられた。


「来たか少年。ちょうどいい。今から半壊した家の解体作業をやるところでな。まとまったガレキが出るから、全部城壁の外まで運べ」


 両腕に包帯を巻いた武闘家の男性だった。上半身はその包帯以外何も身に着けていない。筋肉を見せつけたいだけの露出狂とライオットは睨んでいる。


「なあ、せめて俺も解体作業の方をやらせてくれ……もう走るのは飽きた……」

「ダメだ。お前のような子供には危険だ。ほら来い、すぐそこの通りだ」


 少しばかり車を牽くと、焼け焦げた廃墟寸前の家があった。

 武闘家の男はにぃっと笑うや、廃墟に飛びかかってひたすら殴る蹴るを繰り返していく。みるみるうちに廃墟がガレキと崩れていく。

 男は実にきらびやかな汗を流しつつ、


「ああ! この拳と脚に伝わる純粋な破壊の感触! これこそ武道の真髄!」


 武道への侮辱だ。

 武に対して何の嗜みもないライオットだが、それだけは確信できた。


「さぁさぁライオットく~ん。ぼぉっと見てないで早くガレキ拾わないと。それとも疲れちゃった? またお姉さんがお薬飲ませてあげよっかなぁ~?」

「うわっ! 元気元気! 拾う拾う!」


 実際、えらく機敏に身体は動いた。ガレキを拾っていても、まるで倍速で動いているように感じる。

 恐ろしいのは、その様子を錬金術師が逐一記録していることだ。間違いなくさっきの薬の作用だろう。

 今から既にどんな副作用が来るかぞっとする。


 あっという間に家一軒をバラバラにした武闘家(変態)は、汗臭さを漂わせつつ語り掛けてきた。


「君は幸運だ少年。アリアンテ殿の用意した無制限修行コースを受けられるのだからな。このコースを修了した者はいかに才能がなかろうと、一流の戦士になっている。早くも君の将来が楽しみだ。一流の腕となったときにはぜひ手合わせを頼む」

「……手合わせはともかく、本当かよ? こんな投げやりな修行で強くなれんのか?」

「理論上、負荷を与えて回復させることを続ければ人体は強化され続ける。無論、そこまで過酷な修行をすれば途中で死ぬ危険性はあるが、そこは彼女たちがフォローしてくれる」


 ぐっと錬金術師が親指を立てた。

 こいつらの薬とか魔法のせいで死なない? という疑問はひとまず置いておく。


「まあ、たまにきつすぎて心の方が死ぬことはあるが――」


 さらに続いた死刑宣告じみた言葉に、ライオットはあらゆる表情を顔から消した。


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