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新たなる認定

http://seiga.nicovideo.jp/comic/34701


ニコニコ静画にてコミカライズ公開中です!

漫画版単行本1巻は6月13日発売です!


 感涙にむせぶのはまだ早い。未だピンチは続いている。

 しかし、行ける気がした。

 なにしろこの翼の原動力となっているのは精霊さん――ひいては、そこに貯蔵されたレーコの魔力なのである。


「ライオット。一点突破でいくからの。わしは一気にあの亀裂を目指す。亀裂まで着いたら、お主のその剣で一気に出口をこじ開けてくれるかの」

「分かった」


 卵を内側から雛が破るような要領だ。

 今回はレーコが外から補助的にヒビ割れまで入れてくれている。素のわしらなら難しかったろうが、精霊さんと呪いの剣の力があればこじ開けるのは不可能ではない。


「聞こえたよ……レーヴェンディア。アタシから逃げるつもり?」


 ゴーレムの頭上で操々が不気味な声を発する。


「……うん。お主には悪いけど、レーコが外で待っているでな。でも、お主の作ってくれた料理は本当に美味しかったよ。もしよければ、また作ってはくれんかの」

「舐めるな」


 わなわなと震えながら操々は即答した。

 赤い月の光から注ぐ光がぬいぐるみの頬に陰影を生み、まるで血の涙を流しているようにも見える。


「アタシがそんな都合のいいチョロ女だと思った……? 許さない。好きなときだけアタシのご飯を食べたいだなんてそんな虫のいい話は絶対に許さない。一年も十年も百年も……ずっとずっと毎日じゃないと作ってあげないんだから」

「そうじゃのう。本音をいえばわしも、お主の料理を食べながら千年だって引きこもりたいよ」

「だったらいいじゃない? 何の問題があるの……?」

「孫を放り出したままにはできんからの」


 以前、レーコが暴走したときにわしは言ったのだ。

「レーコのことを孫のように思っている」と。

 あの言葉に嘘はない。だから、危なっかしい孫を放り出して、自分だけぬくぬくしようとは思わない。


 と、ここでライオットがわしの角をコツコツと叩く。


「なあレーヴェンディア。なんか話の内容が痴話喧嘩みたいに聞こえるんだけど、あの兎のぬいぐるみとお前ってどういう関係なんだ……? いや、趣味は人それぞれだと思うから尊重するけどな……」


 その顔は明らかに当惑している。

 わしに対して誤解がかけられるのはもはや日常茶飯事だが、今回のこの誤解はちょっと看過できないタイプだった。


「違うんじゃよ。あの兎さんはわしのことをライバル視しておって、それが捻くれてあんな感じになっておるんじゃよ。決して色恋沙汰とかそういうのではないから」

「ああ……よかったぜ。お前に対するイメージが根本から覆るところだった……。孫とかいうから親権問題で揉めてるのかと」

「近頃の若者は想像力が豊かじゃなあ」


 拭ったはずの涙が再び目に浮かぶ。そこまで邪推されるとは思わなかった。

 ライオットが剣を片手に下げ、もう片手でわしの角を強く握る。


「さあ、行こうぜレーヴェンディア。お前の孫っていうのがどんな奴かは知らないけど……お前にも大切な奴がいるんだな? なら早く外に出なきゃな」

「うん、そうなのよ。わしは決してお主が思ってるような冷酷な邪竜とかではないのよ」

「頼む。その感情を、どうかレーコにも向けてやってくれないか。あいつにだって帰りを待ってる人間はいる。あいつは優しくて――とても争いごとなんてできる子じゃないんだ」

「果たして本当にそうかのう」


 間違いなくゴリゴリの戦闘気質である。

 そんなわしの本音がポロリと出た形だったが、この一言が急速に和解ムードを曇らせた。


「本当にそうか……!? どういう意味だレーヴェンディア? レーコがあんな力を好きで振るってるっていうのか?」

「どうしようわし肯定しかできない」

「くそっ。やっぱり邪竜は邪竜ってわけか……。一瞬でもいい奴だと思ったのが間違いだった」


 どう足掻いても、わしが汚名を被る流れは変わらないらしい。

 そもそも、「その感情を向けてくれ」も何も――孫と言っているのもレーコのことである。


「でも、約束は守るよ。絶対にレーコは元の普通の子に戻してみせるでな」

「……ちっ。それだけは守れよ。絶対だぞ」


 まだ「いつまで」という期限は切れない。

 しかし、本来わしの所に集うはずだった「邪竜への恐怖」が魔力となってレーコに流れ込んだなら、その魔力の道筋を正せば自ずとレーコは元に戻るはずである。

 聖女様とのワル作戦は失敗した。しかしまだ道が閉ざされたわけではない。これからいくらでも方法を見つけていけばいい。


 ――だから、まずはわしが器に相応しいだけの相応の勇気を持たねば。


 と、ここで違和感に気付いた。

 うっかりライオットと話し込んでいたのに、操々からの動きがなかったのだ。

 ゴーレムの頭上に浮かぶ操々に視線を戻すと、


「孫……? レーヴェンディア、あんたって妻帯者だったの……? よくも、よくもアタシを弄んでくれたね……」


 わなわなと怒りに震えていた。

 わしの背中で明らかにライオットが引いた気配がする。こうなってもはや、弁明のしようもない誤解をされたと思う。


「ライオット。あれはわしらの動揺を誘うまやかしの言動じゃからね。決して真に受けてはいかんよ」

「お、おう。大丈夫だ。誰にも言わねえから」


 完全に動揺している。邪竜認定以外にも変な認定をされてしまった。


 もはやどうとでもなれだ。

 涙も枯れたわしは、レーコから散々に飛び回された過去を思い浮かべる。

 そして精霊さんの力を頼りに、翼の動きを再現する。


「それじゃあ、行こうかの!」


 わしの身が一気に高速で飛翔し――危うく気絶しかけた。

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