精霊さんと呪いの剣
9月1日にスニーカー文庫から書籍版第2巻が発売予定です!
ほぼ完全書き下ろしの内容となっておりますので、ぜひご覧ください!
(一部、2章で特に好評をいただいたシーンは改稿の上で残してあります)
コミカライズ第1巻も6月13日に発売予定です!
書籍・コミカライズともに特典情報などの詳細は今後活動報告でお知らせしていきますので、どうぞよろしくお願いします。
「よしレーヴェンディア。俺がこの剣を使って周りのマネキンを一気に片付ける、その隙に結界の脱出路を探してくれ」
「あ、話まとまったのね。でも大丈夫? いくら剣が強くても、お主はまともに剣術なんか習っておらんのじゃろ?」
「舐メルな」
呪いの剣がわしに向けて凄む。
「オレが身体ダケ操っテやれバ、コの小僧を達人ノ腕前にするナド造作モなイ。後で身体ニ反動はアルだろウが」
「おう。どうせ毎日修行で心停止ギリギリまで行ってるし、ちょっと反動あるくらいならもうどうでもいい。命だけは残してくれよ、そうじゃないとドラゴンの血を渡せないから」
「いイだロう……」
呪いの剣から赤黒い錆じみた色の光がライオットの腕に伸び、イバラのように絡みついていく。
乗っ取られたのかと一瞬思うが、今回は目の色までは変わっていない。
「いくぞ!」
「おウ」
なんと、そう言ったライオットは果敢にもわしの背から飛び降りた。
地上までは結構な高さである。この高さを迷いもなく踏み切るとは、剣で強化されているといえどかなりの度胸――
「うぉぉああっ!! 落ちっ! 落ちっ!」
「黙っテロ。ウルさい」
落ちていくライオットの悲鳴が聞こえたので前言撤回する。
どうやら今のライオットの動きはすべて呪いの剣にコントロールされているようだ。不憫である。
しかし効果は絶大なようだ。
着地とともにマネキンの群れがライオットに向かって殺到してきたが、呪いの剣が一薙ぎされるだけで、すべてのマネキンが胴体で一刀両断にされたのだ。
「おお! これは頼りになるのう!」
喜んだ瞬間、わしの身体がぐらりと傾いた。
何事かと思ってよく眼下を見ると、今のライオットの一撃で、わしの身体を支えていた黒爪の柱も一緒に一刀両断されていた。
そのまま、ダメージの許容を越えた柱は粉々に砕け散る。
「いか――ん!!」
支えを失ったわしの身が地面に落下していく。
そうだ。早く黒爪をクッションに変形させねば。しかし慌て過ぎてイメージがまとまらない。
「山柔し」
が、わしの頭上から声がした。角の間でぺたんと座り込む精霊さんである。
その呟きとともにわしの爪が膨らみ、地面に激突する瞬間にわしの身を優しく包んだ。
ほっと一息つくわしだったが、しかしここは敵のマネキンの群中だということを瞬時に思い出す。
案の定、剣や斧を構えたマネキンたちが怒涛の勢いでわしに群がって来る。
「せ、精霊さん全力疾走して! あとわしの身も守って!」
「了」
わしの足が一気に加速する。
正面には黒爪で作った風防のような盾が作られ、進路に構えられた斧や剣を弾き飛ばしていく。
勢いそのままに包囲を脱出――しなかった。
正確には、脱出したものの精霊さんが勝手にわしの身をターンさせ、再突入させようとしていた。
「あ、あの? 精霊さん?」
「無事帰る」
「なんでまたマネキンたちに飛び込もうとしてるの? わしは怖いのはもう嫌じゃよ?」
「山不動なれば恐るることなし」
「めっちゃ動いとるしめっちゃ怖いんじゃけどなあ」
わしの涙の訴えは精霊さんに届かない。
しかし、精霊さんの思惑は分かった。事態が好転した今、逃げ回るよりもマネキンを掃討した方がいいという判断だ。
――無事に帰るためにも。
「でもやっぱこれはちょっとわし精神的に無理ぃ――っ!」
「山撥ねる」
盾を前方に備えた全力疾走で、わし(正確には精霊さん)はマネキンたちを撥ね飛ばしていく。
ガシャガシャと音を立ててマネキンたちは破壊されていくが、窮地のプレッシャーがわしの心もじわじわと破壊していく。
「ヒャーハは! 雑魚ドもがァっ! こノオレを倒せルかァッ!!」
一方、視界の隅に移るライオットの状況も似たようなものだった。
明らかに人間離れした動作で機敏に動き回り、マネキンを翻弄しては斬り伏せているが、当のライオットは数分前に見たときよりも明らかにゲッソリしていた。
あまりのスピードで意識も朦朧としているのか、口から半分くらい魂が出ている気もする。
「やべえ……意識が……」
「知ルか我慢しロ小僧!」
「精霊さん。わしも、わしももう無理……」
「無事帰る」
マネキンたちはみるみるうちに数を減らしていき、地面には残骸が積もっていく。
ただ、この戦績はわしとライオットによるものではなく、どう考えても精霊さんと呪いの剣によるものである。
「ふぅん……やっぱり普通の人形遊びじゃ手も足も出ないか」
マネキンがほぼ全滅した頃、上空で赤い月を背後に佇む操々が苛立たしげに呟いた。
「じゃあ、もう少し楽しくしてあげるレーヴェンディア。こんな人形ならどう?」
操々の手から魔力の糸が無数に伸び、偽王都全体に降り注いだ。
それらは建物の瓦礫を吊り上げていき、巧みに組み合わせては一つの形に縫い合わせ始める。
――出現したのは、瓦礫で形作られた巨人の姿だった。
「さあどうするレーヴェンディア? このゴーレムは、今までみたいな小手調べの力じゃちょっときついんじゃない?」
小手調べ。
「精霊さんの全力疾走による突進」という今のわしができる最大限の攻撃が、向こうにとってはその程度の認識でしかないらしい。いいや、それでも過大評価してくれた方か。
「の、呪いの剣さん。お主はこの相手をどうにかできるかの――?」
「無茶いウな。デかスぎル」
「ですよね」
「待ってくれレーヴェンディア。俺に策がある」
ここでライオットが疲労に息を切らしながらも提言した。
「え、何々? どんなアイデアかの?」
「まず、俺とこの剣で時間を稼ぐ。挑発して逃げ回れば囮にくらいはなるはずだ」
「うん。それで?」
「その隙にお前は力を溜めて――真の力を取り戻してくれ。お前が本来の邪竜レーヴェンディアの姿になれば、あんな巨人くらいどうってことないだろ?」
「まずその作戦は大前提に重大な欠陥があると思うなあ」
いくら力を溜めてもわしは現状のままである。
むしろ「真の力」というなら、精霊さんの助力がある今よりもずっと弱い。
「さあ! 第二ラウンドだよレーヴェンディア!」
しかし無情にも、操々の駆るゴーレムがわしらに向けて迫ってきた。
あまりにも巨大。一度攻撃が来れば、その攻撃範囲からわしらが逃れる術はない。
無論、防御などする手立てもない。
「これはもうダメかの……」
ゴーレムが拳を振りかぶった瞬間。
突如として結界全体が地震のごとく激しく振動した。
そして、夜闇に黒く染まっていた結界の空に一筋の巨大な亀裂が走る。
――その亀裂は、まるで爪のような形をしていた。
「くっ……! いいところで邪魔を!」
上空の操々の声に焦りが浮かんだ。
みるみるうちに結界の亀裂は修復されていくが、その間ゴーレムの動きは止まり、手足の先に至ってはじわじわと崩れていた。
間違いない。
外からレーコも――たぶん、この結界をこじ開けようとしている。




