ジャックと豆の木(もうひとつの昔話8)
ある村に、ジャックという男の子が母さんと二人で暮らしていました。
その日。
「この牛を町で売って、お金にしておいで」
お母さんの言いつけで、町の市場に向かっている途中、ジャックは見知らぬ男に声をかけられました。
男が手にあるものを見せて言います。
「その牛と、この豆を交換せんかね?」
「この牛は市場で売るんだ。そんなことをしたら、母さんにしかられてしまうよ」
ジャックはダメだと首をふりました。
「いや、母さんは喜ぶぞ。なんたってこの豆は、ニワトリの卵を何万とつける不思議な豆なんだ。牛を売るより、ずっとお金になるぞ」
男の甘い言葉に……。
ジャックは大切な牛を、一粒の豆と取り換えてしまったのでした。
家に帰り、母さんに豆を見せますと、
「なんてバカなことを。そんな夢のような話をまに受けるなんて」
ジャックはひどくしかられました。
「ああ、やっぱり血は争えないねえ。オマエの父さんも、夢ばかり追ってたものよ」
母さんはブツブツ言って、裏の畑に豆を投げ捨てたのでした。
翌朝のこと。
捨てられた豆は一晩のうちに、天にも届かんばかりに大きくなっていました。その枝には数え切れないほどの白いものがついています。
――あれが卵だな。
ジャックはカゴを背おい、卵を集めに豆の木を登っていきました。
ですが、それはどれもがまだ花でした。
ついに雲の上までやってきました。
そこには一軒の屋敷があり、豆をくれた男が窓から顔をのぞかせていました。
「おお、ここまで来たのか。いいものを見せてやるから、こっちにおいで」
男が手招きをします。
ジャックが招かれて屋敷に入ると、なにやら研究室のような部屋に通されました。
「こいつはな、ワシが長年かけて作った、金の卵を産むニワトリなんだ。連れて帰るがいい」
「そんな大事なものを、どうしてボクに?」
「なに、オマエの将来のことを思ってな」
男は苦笑いをして答えました。
ジャックは地上に降りると、男にもらったニワトリを母さんに見せました。
「このニワトリ、金の卵を産むんだって」
「また、そんな話を信じたのかい。なんてなさけない子なんだろうね」
母さんは深いため息をつきました。
ニワトリは金の卵を産みませんでした。
豆の木も卵をつけないまま枯れました。
「あたしにはわかってたよ。あの豆もニワトリも、バイオだかクローンだか知らないけど、オマエの父さんが道楽で作ったものだってね」
「だったらあの人、ボクの父さんだったの?」
ジャックはおどろきました。
「そうさ。わたしらをほっといて、夢のような研究をしてるのさ。あの牛も、研究費用になっちまったんだろうね」
母さんはそう言って、枯れた豆の木のてっぺんをあおぎ見ました。