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第6話 とにかくお金を稼がないと その1

 依頼掲示板の見えるテーブルへ案内され、座って待っていると彼女はお茶を持って来てくれた。

「改めまして、私、受付のマールと申します」

「はい、伊織と申します」

「それは先ほど知りましたよ」

 そう言って口元に手をあててくすりと笑うマール。

「どうぞ、お茶を召し上がってくださいね」

「はい、いただきます」

 お茶を一口含む。

 刺激もなく変な味もしない。

 安心して二口目を飲む伊織。

 紅茶のようなお茶でなかなか美味しい。

「では、よろしいでしょうか。ギルドにはランクというものが存在しています。Gから始まって、SSS(スリーエス)ランクまであります。依頼成功の内容や件数でランクが上がっていきまして、Cランクからは昇級の為の試験があります。ここまではよろしいですか?」

「はい」

「ギルドでは初期装備を整えていらっしゃらない方への貸付をすることができます。銀貨5枚までカードで買い物ができますね。それを越すと買い物は出来なくなりますのでご注意してくださいね。依頼内容ですが、同ランクより一つ上のランクの依頼まで受けることが出来ます。先ほどのレッドさんの試験結果とレッドさん自身の推薦がありました。イオリさんはEランクからの開始となります」

 意外な展開に少し驚く伊織。

「えっ、Gからではないんですか? それにお金まで貸してもらえるとか……」

「はい、そのために人柄やある程度の実力を審査してから登録を行っているんですよ。Eランク以上の実力ありとの報告もありました。しかし、初回はE以上からの開始にはならないんです。イオリさんはDランクの依頼から受けることができるようになります。Fからは討伐依頼もございますので、討伐系の依頼の方が報酬は割高になっていますね」

「そうですか、なるほど」

 これは都合がいいと思う伊織。

(少しでも手持ちが稼げるんだったら助かるな)

「ですが、失敗されますと違約金が発生しますのでご注意くださいね。以上で説明は終わります。もし何かわからないことがありましたら、その都度聞いて頂いて構いませんので」

「はい、ありがとうございます。それでですね、お願いがあるのですが」

「はい、何でしょうか?」

「武器を売っている店を紹介してもらいたいのです。それと近場で討伐が出来るもので、比較的割のいいものを選んでもらえないですかね」

「よろしいですよ。武器のお店でしたら、この先五軒目にあります。戻ってくるまでに良さそうな依頼を選んでおきますので、カウンターまでお越しください」

 伊織は出されたお茶をぐいっと一気に飲む。

「助かります。お茶、ご馳走さまでした。では行ってきます」

「はい、お待ちしてますね」

 伊織は一礼してギルドの建物を出る。


 五軒先と言われた場所に、武骨ながら整然とした店舗があった。

 中に入るとがっちりとした年配のおかみさんがいた。

「いらっしゃい、何を探しているんだい?」

「ギルドから紹介してもらいました。俺、伊織と言います。出来れば片刃で刀身に反りのあるものがあれば……」

 おかみさんは呆れた顔をする。

「おや、珍しいものを欲しがるんだね。ちょっと待っておいで」

 そう言うと奥の部屋へ引っ込み、袋に入った長物を持ってくる。

「これかい?」

 紐を解いて中身が出てくる。

 それは紛れもなく日本刀に似た(こしら)えだった。

 それを受け取り、鯉口を切り、刀身を抜いてみる。

 ちょっと荒いが綺麗に浮かんだ波紋。

 鞘へ戻し、腰のベルトに差して抜刀してみる。

 チキッ……シュッ……チンッ

(いい重さだな。重心もそんなに悪くない……)

「こりゃ驚いた。初めてだよ、そこまでその武器に慣れていそうな人を見たのはね。恰好だけで買おうとする人は結構いるんだけど、その度に断ってるんだよ」

「そうですか、まさかあるとは思ってませんでしたよ」

「あんた、東の果てあたりの出身だね? 言わなくてもわかるよ。これは昔旅をしていたときに、そこで教わったんだよ。それで自分であれこれ試行錯誤しながら打って、やっと出来上がったものなんだよね」

「では、売り物ではないと?」

「そうなんだけどね。どうだい、この刀のテストをしちゃくれないかい?」

「テストですか?」

「最悪折ってしまっても構わないよ。まぁ、あんたなら多分大事に使ってくれるだろうね。どれだけ斬って、どれだけ疲労するか見てみたいんだよ」

「なぜ俺なんかを信用するんですか?」

「これまた性格の悪い子だ。……そうだね、目かな。それとこれは信用じゃない、損得勘定だよ。私は刀の行く末を見たい。あんたはこの刀が欲しい。だから私はあんたを、あんたは私を利用するだけ。それでいいじゃないか?」

 伊織はおかみさんの表情をずっと読んでいた。

 確かに嘘は言っていないようだが、今一何を考えているのか掴めない。

 損得勘定というのであれば、乗ってもいいのかもしれないと思った。

「多分、今日あたりで斬れなくなるかと思いますけど。それでもいいなら…」

「あぁ、構わないよ。そんなやわな作りはしてないはずさ。さ、ギルドカードを出しておくれ」

 伊織がギルドカードを出すと、読み取り装置のようなものに乗せて、返される。

「よし、これで大丈夫。最悪、ネード商会が後ろ盾みたいだからそっちにでも請求するつもりさ」

 後ろ盾、そこまでは知らなかった。

「どういう意味です? それ」

「ギルド登録するときにね、紹介状があるとそれは紹介元が保証するって意味なんだよ。セレネード様が気に入るとか珍しいからね」

「皆、セレネード様って呼んでますけど何故なんです?」

「知らないのかい、あれまぁ。セレネード様は、この国の公爵家のご令嬢なんだよ。それも自分で国一番の商会まで立ち上げたやり手でね」

「貴族か、知らなかった……」

「あの子を貴族扱いすると凄く怒るから、気を付けるんだね。あんた、いい後ろ盾を持ったよ」

「はい、頑張ってみます」

「斬れなくなったらすぐ持ってくるんだよ」

 武器屋を出て、少し考えた伊織。

 後ろ盾をもらえるほど、姉妹の役にたったのだろうか。

 貴族という名称は知っているが、この国ではどういうものかを伊織は知らない。

 どれだけ家柄の高い姉妹だったのだろうか。


 そんなことを考えながらギルドへ戻る伊織。

 伊織を見つけたマールが手招きをしている。

「今戻りました」

「その腰の。へぇ、気に入られたんですね。あの偏屈なナタリアさんがねぇ……あ、これが依頼になります。コボルトが一番やりやすいかと思いまして、用意させてもらいました。犬のような耳と体毛に覆われた、二足歩行をすることがある魔獣です。討伐部位は右耳になります。向かって左の耳ですね。一体につき銅貨五十枚、二体で銀貨一枚ですね。城壁入口を出て、街道の右側の林の奥辺りで出没を確認されています。期間はありませんので、随時お持ちください。あまり深追いはしないでくださいね。ではいってらっしゃいませ」

「はい、いってきます」


読んでいただきまして、ありがとうございます。

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