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第77話 フレイヤード王国に入って

 陽が落ちて辺りは暗くなってきていた。

 街道沿いの林が開けた部分を見つけると馬車を停める。

 伊織はストレージから前に使った大型テントを出す。

「便利なものなのですね、ストレージというものは……」

 その様子を離れた位置から見ていたセレンは少し羨ましそうにしていた。

 それもそうだろう、ストレージは商人には憧れの能力である。

 伊織もセレンに教えたいとは思っているが、魔法の素養がないとと自ら言っていたセレン。

 もしかしたら基本くらいならば伊織の方法であれば可能かもしれない。

 いつかセレンに時間をかけて教えてみようと思った伊織。

 伊織は一度馬車の荷物を全て格納して水の入った樽を出す。

「マール」

「はい」

「これお湯にしてみてくれる?」

「やってみますね」

 最初の宿屋で魔素切れを起こして倒れたとき以外、毎晩魔力操作の訓練を欠かしていないマール。

 樽の水面に手をつけてお湯になるよう、加熱するイメージを浮かべる。

 瞬時に水面から湯気が立ち上がってくる。

「あつっ……失敗したかも」

「大丈夫。上の部分だけだろうから混ぜてごらん」

 マールはお湯に手を入れずに水を制御して混ぜていく。

「はい、これくらいかな……あ、丁度良くなってきました」

 マールの頭を撫でる伊織。

「うん、よく出来たと思うよ。俺はテントに戻って食事の準備しとくからセレンさんと身体を拭いたらいいよ」

 目を細めて嬉しそうなマール。

「はい、ありがとうございます。シノ先生」

「あははは、先生か。ちょっとくすぐったいね」

「えへへ」

 伊織はテントに戻るとセレンにお湯の準備が出来たことを伝える。

「お湯が準備できました。マールがテントで待ってますから行ってきてください」

「はい、ありがとうございます」

 セレンはテントを出て、馬車へ戻っていく。

 伊織はテーブルに皿を並べて準備をしてった。

 あとは料理を盛り付けるだけになると、伊織は表に出た。

 テントの裏手に行くと上半身裸になり、空気中から水をかき集めると腰から下だけに風を集めて層を作る。

 大き目の水球が出来上がると、頭の上から落とした。

 ザバーッ

 案の定、腰から下は濡れていない。

 石鹸をストレージから取り出し、頭だけ泡立てていく。

 ある程度洗えたら、また水球を頭上から落として簡易的なシャワーとして使う。

 ザバーッ

 腰下の魔力を解除すると伊織は周りを見渡し、誰もいないことを確認する。

 靴とズボンとパンツを脱ぎ、さっきよりも大きい水球を頭上からもう一度落した。

 ザバーッ

(うはー、外で全裸とかやばいわ)

 ストレージからタオルを出して全身拭きあげ、洗ってある着替えをだして着替えた。

 汚れものを袋に詰めてストレージへ格納する。

(ふぅ、さっぱりした)

 伊織は後ろを振り向き、戻ろうとしたときテントの陰から2人が覗いているのに気付いた。

「綺麗な身体でしたね……マールちゃんずるいですよ」

「セレン姉さん駄目ですって。声出したら気付かれちゃいますよ」

 伊織は苦笑しながら二人に近づいていく。

「あの、男の裸なんて見て面白いですか?」

「いえ、そうでは……あ」

「ほら、見つかっちゃったじゃないですか。あのですね、テントにいなかったので多分外で水浴びをしているんじゃないかと。そしたらセレン姉さんがどうしても見たいって」

「ば、馬鹿なこと言わないでくださいよ!」

「セレン姉さん。意外とむっつりだったんですね……」

「やめてー!!」

 真っ赤になった顔を両手で塞いで走ってテントへ行ってしまったセレン。

「まぁ、見られて減るもんじゃないからいいんだけど。あまりいじめちゃ駄目だよ?」

「ミルラちゃんがいないからつい」

 そう言って下をペロっと出すマール。

「ほら、晩ごはんにしちゃおうよ。セレンさんにあとで謝っておくんだよ」

「はぁい」

 伊織とマールはテントに戻った。

 テントにあるベッドにうつ伏せになって足をバタつかせているセレン。

「もう、なんでイオリさんに失態ばかり見せてしまうのよ……」

 伊織はちょっと苦笑しながらもセレンを呼んだ。

「すみませんセレンさん。ごはんにしちゃいましょう。こっちの椅子に座ってくださいね」

 セレンは拗ねたような表情のまま伊織に言われた椅子に座る。

「ごめんなさい。変なことばかりしてしまって……」

「いいですから。気にしないでください。マールフォークとナイフあるよね? 出してくれるかな?」

「はい、今すぐ」

 マールは三人分のナイフとフォークを出して皆の席に置いていく。

「あの、お皿しか見当たらないのですが?」

「今用意しますので、ちょっと待ってくださいね」

 伊織はそう言うと、皿の上に手をかざす。

 瞬時に料理を出していく。

「……えっ」

 出された料理はまだアツアツの状態で、セレンには今作ったばかりに見えていた。

 伊織は飲み物もグラスに注ぎ皆の分を置いていく。

 全ての皿に出し終わった伊織は席に着き、手を合わせる。

「いただきます」

「はい、いただきます」

「……いただきます」

 マールはセレンの皿に料理を取り分ける。

「あの、これどうなっているんですか?」

 セレンは素直に聞いてくる。

 マールは伊織の代わりに説明をする。

「ストレージに入れておくと、作りたてに近い状態で保存されるみたいです。前の討伐にもこのように料理を用意しましたので。セレン姉さん、気にしたら負けです。食べましょう、美味しいですよ」

「は、はい」

 セレンは串焼きをフォークで口に運んだ。

「……あら美味しい」

「でしょう。ファリル先生もそう言ってましたよ」

 セレンはちまきを少し食べてみる。

「これ、シノさんが言っていたお米なんですね。モチモチしててとても美味しいです」

「ありがとうございます。先代勇者も好んで通ったという店で作ってるからですかね」

「まぁ、そうなんですね」

 このように、談笑を交えながら食事は進んでいった。

 食事を終えると、マールは食器を洗っている。

 このテントには簡易的なシンクも用意されている。

「セレン姉さん。お茶お願いできますか?」

「はい、いいわよ」

 セレンは慣れた手つきで紅茶をいれていく。

 お湯はマールが加熱したものを使っている。

 マールは皿を洗い終わると席に着いた。

 セレンは茶器から皆のカップにお茶をいれていく。

「いい香りですね」

 伊織がそう言うと、セレンは少し得意顔になった。

「私が好きで毎月仕入れている茶葉なんですよ。どうぞ、シノさん、マールちゃん」

「はい」

「いただきまーす」

 この辺りはまだ夜になると結構涼しくなる。

 ここから先は山道を下りていくような感じに標高が下がっていく。

 だから温かいお茶が美味しく飲めるのであった。

 伊織はお茶を飲み終わると席を立ち、テントを出ていこうとする。

「俺はこの後馬車の近くで警戒にあたります。魔獣は寄ってきませんから楽だと思います。ゆっくり休んでくださいね」

「すみません、シノさん」

「シノ先生、おやすみなさい」

「はい、ふたりとも、おやすみなさい」

 

読んでいただいてありがとうございます。

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