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第5話 ジータの街

 門を抜けると、フレイヤード王国の街より人の往来が多かった。

 馬車専用の中央寄りの上り下りに区切られた片側二車線の道。

 その外側には、人が歩くために作られたと思われる歩道まであった。

 何かの動力で動いているのだろうか、横断歩道に警告と許可を示す札が入れ替わる信号まである。

 まるで元いた日本のような街並みをイメージしてしまうほどの発展の違い。

 ただ違うのが、石造りの建物くらいだろうか。

 道の表面も、フレイヤード王国ほど凹凸が激しくない。

 通り際にある街並みを見ると商店なども多く、人々の笑顔もよく見られる。

 フレイヤード王国の城下町のような荒んだ感じは全くない。

 こちらが王国ならば、フレイヤードは小国と言ってもおかしくない発展の違い。

 そのまま馬車に揺られること暫く経つと、セレンは歩道側に寄せて馬車を停めた。

「ここが私の商会、ネード商会です」

「私の?」

「えぇ、私が経営してるんです」

 ぽかーんと口を開けたまま固まる伊織。

 三階建ての石造りの建物。

 間口は十メートル程あり、かなり大きな商会だった。

 使用人だろうか、セレンを迎える男性が出てくる。

「セレネード様、お帰りなさいませ。ミルドレット様もお疲れさまでした」

 セレン、ミルラは愛称なのだろう。

 二人の本名が違うこと、そして妹ミルラまでも様付けで呼ばれていることに気付く。

「はい、馬車をお願いしますね。イオリさん、この道を真っ直ぐ行きますと右手に冒険者ギルドが見えてきます。ご案内しましょうか?」

「いえ、大丈夫です。ここまでありがとうございました。いずれまた寄らせてもらいますね」

「では、私は仕事がありますので失礼いたします」

「またねー、お兄ちゃん」

 二人に見送られながら聞いた通り、真っ直ぐ進んでいく伊織。

 こんなことで面をくらっている暇はない。

 しかし、何だろうか。

 伊織の服装が違和感どころか地味に見えてしまう程、往来を歩いている人々は綺麗な恰好をしている。

 ここまで国の差があったのだろうか。

 間違いなくここは富める国なんだろう。

 生活水準もフレイヤード王国の街とではあまりにも違い過ぎる印象がある。

 とても懐かしいような感じのする街並み。

 昭和初期の頃の写真で見た風景に似ているからだろう。

 もしかしたら先代勇者が暮らしたという国はここだったのではないか?

 そう思った伊織だった。


 真っ直ぐ歩いていくとそれらしい建物が見えてくる。

 いかにも冒険者然とした人々がそこに出入りしてる。

 玄関を抜けて広くなったホールへと出る。

 壁に貼ってあるのは依頼書だろうか、それを眺めている人もいるようだ。

 カウンターへ近づくと、そこにいた女性が話しかけてくる。

「冒険者ギルドへようこそ。どのようなご用件でしょうか?」

 ここまでは伊織の中の知識と似通っていた。

「登録をお願いしたいんですけど、どうすればいいんでしょう?」

「では、こちらにある申込書に記入をお願いします」

 伊織は何故か読み書きが出来るようだったが、慣れない場所で長居をしたくないと思ったためこう話すことにした。

「あの俺、田舎から出てきたんです。なので何が書いてあるかはなんとなく読めるんですが、書くことができないんです……」

「では私が代筆しますので、今からの質問に答えてもらえますか?」

「はい、お願いします」

「では、お名前とお歳をお願いします」

「はい、名前は伊織。年齢は二十歳です」

 そうして聞かれたのが、名前、年齢、得意な武器など。

 最後に緊急連絡先を聞かれた。

 流石に困った伊織は、つい、ネード商会の名前を出してしまった。

「あら、セレネード様とお知合いなんですね。ではこの後資格審査がありますので、その間に確認を取ってきます。地下の練習場へどうぞ」

 案内された場所は、広さが学校の教室くらいある場所。

 地面が砂地になっている。

「お前さんが新入りだな? 俺はここの試験官を任されているレッドと言うものだ。そこに置いてある武器の中から好きなものを選んで持ってくるといい。準備が出来たら言ってくれ」

 資格審査とは戦闘によるものだった。

 木剣木槍など多彩な木製の武器の中から、伊織が選んだのは木刀に似た片刃の木剣だった。

 それを腰のベルトを少し緩め、左側に差して準備を終えた。

「準備出来ました」

「そうか、これから俺に一撃でいい当ててみるんだ。俺は一応、武器で避ける。いいか?」

 そんな簡単なことでいいのか、と伊織は思う。

「はい、では行きます」

「おう」

 伊織はレッドへ一瞬で走り寄り、右側を抜ける瞬間に腰から木剣を抜き真横に斬った。

 スパーン!

 軽く当てて腰にまたゆっくりと差した。

「これでいいんでしょうか?」

「えっ、今何をやったんだ……」

「普通に剣を抜いて、横に斬っただけですけど?」

「全く見えなかったぞ……確かに腹に衝撃が加わったのは感じられたが」

「どうです? 合格ですか?」

「あぁ、文句なしで合格だ……」

「では、カウンターに戻っていますね」

 未だ唖然としているレッドをよそに、伊織は軽い足取りで階段を上がっていく。

「何だったんだ……今のは」

 レッドがそう呟いたときはまだ気付いていなかった、革製の鎧の腹の部分が真横に切れていたことを。


 伊織がカウンターへ戻ると、先ほどの受付の女性がこちらを見て笑顔で手を振っていた。

「イオリさん、こちらです。ネード商会からの確認が取れました。推薦状も頂きましたので、今すぐ登録をしますね。レッドさんからも合格ということでしたので、安心しました。では、こちらのカードの右隅の部分へこの針で指先で構いません。血を一滴垂らしてもらえますか?」

 伊織は針を借りると、指先へ刺す。

 鈍痛と共に血が一滴垂れる。

 カードに吸い込まれていく一滴の血。

 どのような技術で出来ているのかわからないが、ここで疑問に思っても仕方ないだろう。

 さも痛そうに指先を(くわ)えたが、もう傷は治っていた。

「はい、これで登録は完了しました。こちらがカードになります。このカードはイオリさんの身分を証明するものになります、無くしたりしないようお願いします。ギルドでの報酬は、基本、こちらのカードの口座に振り込まれる形になります。このカードで買い物から、宿屋の支払いまで出来るようになっています。もし無くされましたら、再発行に手数料がかかってしまいますのでご注意くださいね」

 伊織はカードを受け取る。

「はい、わかりました」

「それでは簡単でありますがギルドの説明をさせて頂きますので、こちらへどうぞ」


読んでいただきまして、ありがとうございます。

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