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第70話 説明と謝罪と相談と

 ミルラがお茶を入れ替えて戻ってきた。

 お茶出しが終わるとセレンの隣に座るミルラ。

「では、お話をうかがってもよろしいですか?」

「はい、あのですね」

「何でしょう」

 伊織は一呼吸ゆっくりとすると。

「今からお話しすることは、俺の素性に関することなんです」

 セレンとミルラは少し驚いた表情をしたが、すぐに姿勢を正し、真剣な眼差しをしてきた。

「ですので、これからお話しすることを口外しない約束をしてほしいんです」

「はい、お約束します」

「わたしもです」

 即答する姉妹。

「そうですか。助かります」

 伊織はセレン、ミルラに向かって頭を下げた。

 マールも伊織にならって頭を下げる。

 頭を上げた伊織とマール。

「もうご存知かと思いますが、俺は先代の勇者と同じ国から来ました」

「はい」

「驚かれないんですね。ミルラちゃんは固まっちゃったみたいだけど」

 セレンは笑顔になったが、ミルラは口をパクパクとして驚いている。

「えぇ、ミルラは知らなかったと思います。私と母だけがその可能性について話をしていましたので」

 硬直状態から戻った感じのミルラが顔色を変えて姉に聞いてくる。

「お、お姉ちゃん、勇者様と同じって…」

 喋り方が素の状態に戻ってしまったミルラ。

 仕方ないのだろう、セレンと違って前情報がなかったようなのだから。

「はいはい、落ち着いてねミルラ。ほらお茶飲んでね」

 伊織はミルラが落ち着いたのを確認すると話を続ける。

「そして、俺のステータスの称号には勇者という文字が刻まれています」

「やはりそうでしたか。マールさんはもう知っていたのですね」

「はい、先日聞いていました。セレン姉さん」

 今日のマールは、セレンのことを上位貴族の子女としてではなく従姉妹として対応しているようだ。

「そして、セレンさんとミルラちゃんには謝らないといけないことがあります」

「どのようなことでしょう?」

 伊織はその日のことを思い出すかのようにゆっくりと話し始めた。

「俺はあの日。フレイヤード王国の王女に召喚されてこの世界に来ました」

「そうですか、あの王女だったんですね……」

 城でのやりとりを全て話した伊織。

 真剣に聞いているセレンとミルラ。

「逃げてきた俺は、街で見つけた貴女がたの馬車に潜り込みました。そして、休憩しているときに行き倒れのふりをして二人を騙しました。申し訳ないと思っています」

 顔を左右に振り、伊織を見て微笑むセレン。

「いいえ、イオリさんにも事情があったのでしょう。それに私は騙されたと思っていませんよ。貴方と出会えたことに感謝しているくらいですから」

「そうだよね、一目惚れだったもんね」

「ミルラ、茶化さないの」

 セレンはミルラの頭をぐりぐりと押さえつける。

 ミルラは笑ってやり過ごしていた。

「野営をしてもらっていたときの、たき火を眺めていた伊織さんの寂し気な表情。何か事情があったのは分かっていましたよ」

「わたし、お姉ちゃんがイオリさんにね。口移しで水を飲ませようとしたことしか憶えてないのよね」

「ミールーラ…」

「ごめんなさい」

 本当に仲のいい姉妹なんだと伊織は羨ましそうに見ていた。

「ありがとうございます。それとですね、俺はこれからも勇者であることを公言するつもりはありません。ですから、この話はセレンさんとミルラちゃんの胸だけに止めておいてほしいんです」

「わかりました、約束します」

「わたしも」

 伊織は話してよかったと思った。

 マールも少し安心しているようだ。

 セレンが口を開く。

「少しよろしいですか?」

「はい」

「私がもし、家族にこの話を漏らしたとしたらどうなりますか?」

 伊織は少し考えたふりをする。

「そうですね。それが原因で他の人から勇者かと尋ねられたら漏れたと思うでしょう。そうしたらこの国から出ていきますね」

「そうですか。それと何故今なんですか?」

「俺が追われる身になっているフレイヤード王国へ、近いうちお2人が行く可能性があると思いました。なので、今のうちに話しておいた方がいいと思いまして。確か定期的に行かれているのでは?」

「はい、来週辺りに行く予定でしたね」

「出来たらしばらくは待ってほしいんです。俺が先に行ってくるつもりでしたので」

 セレンは困った表情をする。

 ミルラも同じように思ったのだろう。

「お兄ちゃん、でもさ。その黒髪どうするの? バレちゃうよすぐに」

「そこなんだよね。髪の色を脱色するような薬品ってないかな?」

「そうですね。ブラウンの髪の女性が金髪に近いようになるために、そういう薬品があるって聞いたことがありあります。確か先代の勇者様が錬金術師に作らせたとか……」

「なんでもありですね、先代の勇者って」

「でも、せっかくの綺麗な黒髪なのに、もったいないよお兄ちゃん」

 セレンもマールもそれは同意だった。

 素人がブリーチすると頭皮も髪も傷んでしまうと伊織は知識では知っていた。

 その辺は回復してしまうだろうからそれほど困ることはないだろう。

「まぁ、伸びたら元に戻るからそれでいってみようかな」

「わかりました。確か在庫があったと思いますので、ミルラ探してきてちょうだい」

「はい、お姉ちゃん」

 ミルラは一階に戻っていく。

 セレンは改めてマールの右手に光る指輪を見て、少し落胆したような表情になる。

「そういえば、マールちゃん」

 さっきまでのセレンとは違う声色。

 まるで小さい時、悪戯したマールやミルラを叱っていたときの感じになるセレン。

 マールちゃん(・・・・・)と呼んでいたセレン。

「は、はい」

 マールはびくっと身体をこわばらせた。

「イオリさんと婚約、したんですってぇ?」

 目が笑っていない。

「はい、ごめんなさい……」

 伊織の腕につかまってぶるぶる震えているマール。

 セレンはひとつため息をついて。

「はぁ……別に怒ってないわよ。お母さんから聞いたのよ。羨ましいだけ」

「ご、ごめんなさい!」

 何らかの幼少の頃のトラウマでも残っているのだろうか。

 伊織は事のあらましをセレンに説明した。

「そんなところにまで伏兵が、いえ、恋敵がいたなんて……」

 そこにミルラが戻ってくる。

「お姉ちゃんあったよ…ってどうかしたの? あ、マールちゃんとセリーヌちゃんが伊織さんと婚約してたこと?」

「なんでそれを……」

 セレンは驚いた。

「だってギルドに納品したときにね、受付で聞いちゃったんだ。お姉ちゃん、出遅れちゃったなーって思っちゃった」

「ミルラ、あなただってイオリさんのことを」

「うん、大好きだよ。でも、お兄ちゃんとしてだけどね」

「「「えっ」」」

「いやだなー。お姉ちゃんと争うつもりないし、マールちゃんとセリーヌちゃんともそうだよ。それにわたし、お兄ちゃんいないじゃない。嬉しいんだ、お兄ちゃんみたいな人が出来て」

 カラカラと笑うミルラだった。


 その後、伊織の髪と眉に脱色用の薬剤を使い、金髪までにはならなかったが、栗色に近い毛色にすることが出来た。

「これだけでも、イメージがかなり変わりましたね」

「うん、このお兄ちゃんもかっこいいな」

「イオリさん、前の黒髪もいいけど、こっちもいいわ……」

「うわ、すごい違和感が…俺じゃないみたいだ」

 手鏡で自分の姿を見た伊織も驚いていた。

 髪の毛の毛根近くは若干黒かったが、ほぼ前とは違っていた。

「はい、お兄ちゃん。これかけてみて」

 ミルラから手渡された細い楕円のメガネ。

 それをかけるとまた、違ったイメージになる伊織。

 もし街中ですれ違っても伊織だとは簡単にわからないだろう。


読んでいただいてありがとうございます。

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