第64話 魔力の枯渇
公園を出て、また城門へ行き、城壁の外の街道を歩いている2人。
「ここからちょっと入った辺りなら往来の邪魔にならないかな」
「そうですね、あまり奥に行くとまたブラックボアのテリトリーに入ってしまうでしょうから」
「稼げるからそれでもいいんだけど、でも万が一を考えるとちょっとね」
街道から数分入った辺りで足を止める二人。
「よし、この辺ならいいだろう。そういえば、俺まだ火球を飛ばすようなことやったことないから、いっちょやってみるかな」
伊織はマールに教えたこととほぼ同じ手順でやってみることにする。
手のひらに火球を展開、これは出来るようだ。
それを圧縮し、針状にする。
温度を上げ、適当なところで制御を抑え、投げ苦無のように木へ投げた。
ボッ!
空気を斬り割くような、それとも焦がして進むような音がする。
ズン!
着弾し、木の幹に二センチ程の穴が開いた。
マールは唖然と見ているだけ。
「イオリさん、簡単にやっちゃうんですね……」
「そうかな、とりあえず出来たっぽい。初めてだから加減が難しいね」
木の裏を見ると、一〇センチ程の穴が開いている。
「ありゃー、やりすぎたわ。火じゃだめかもね」
今度は手のひらに空気中の水分を集め、それを冷やして氷の礫を作ってみる。
「これならどうだ」
伊織は投げるような感じに射出する。
シュッ! ……カンッ!
木に刺さり、先ほどのような大穴は開いていないようだ。
「うん、これは使える。じゃ、マール……マール?」
「あ、はい、凄い、としか言えませんよ…」
「ほら、マールもやってみようか。ほんの小さなものでいいから」
「はい、やってみます」
「じゃ、空気中の水分を集めるイメージで少しだけ手のひらに。……そうそう、次は小指の爪の先くらいの大きさで熱を反転させてみて」
「はい」
徐々に集まってくる水滴を冷却していくマール。
すると爪より少し小さい氷の結晶が出来上がった。
「出来ました」
「じゃ、それを飛ばしてみて」
「はい、えいっ…えいっ…飛びません。あ、溶けちゃった…冷たくて気持ちいい……」
伊織はとりあえず原因を考えようと、一度部屋に戻ることを提案した。
2人は街道へ戻り、城門を抜け、伊織の部屋へ戻ってきた。
グラスを用意して、氷を入れ、冷やしておいた果実のジュースを入れる。
「はい、マール」
「ありがと。んくんく、ぷは、あ、イオリさんが作ってくれるお酒と同じ味がする」
「うん、そのジュースなんだ。ところで、魔法陣で火球を飛ばすのって、どういう概念で出来てるのかな」
「えっと、確か、射出する記号が含まれていると思います。誘導まではないと思いましたけど、なので避けられることもありますね」
「そか、その射出する部分って何の魔法なんだろう」
「そういえば、その辺りは疑問に思わないで勉強しましたね。そういうものなんだと。ですが、多分なんですけど、無属性の基本的な魔法の応用なのかなと」
「無属性って?」
「そうですね、勇者様が開発した生活魔法と呼ばれているものの、簡単な魔法陣にも含まれています。例えば、火魔法は使えなくても、火を起こすために必要なもの。その原理、空気の中の摩擦等で…あ、そうか」
マールは空気中の水分を集め、手のひらに小さな水の玉を作り出す。
「炎を飛ばすときは、炎自体に重さはほぼありません。なので、魔力同士性質の違うものをぶつけることによって反発が起こり、飛ばすことが出来ます。炎を作る前に自分から出した魔力は無属性なんです。炎を作ったあと、それは火属性になり、属性の違う魔法は混ざる事はなく、反発すると言います。その原理を利用して射出する部分が作られているのかと」
マールは水の玉と手のひらの間に魔力を発生させ、軽く手のひらで水の玉を弾いてみた。
「こうして、こう……よっと、おぉ、出来た、出来ましたよ」
すると、水の玉は軽く跳ね上がり、重力に逆らわず落ちてくる。
「そうか、俺はそれを無意識にやってたって事なんだね」
「はい、やっと射出する原理が分かりました」
楽しそうに、まるでお手玉で遊んでいるかのように、水の玉を操作しているマール。
ただ、目はあまり笑っていないようにも見える、かなり集中しているのだろう。
そうしながら、少し経っただろうか。
マールに異変が現れた。
「痛っ……」
ピシャッ……
水の玉はマールの太腿へと落ち、マールは伊織の方に倒れてしまう。
鼻血を出し、胸元を血で汚して、そのままマールは気を失った。
伊織はマールを抱き上げ、ベッドに寝かせる。
風呂へ行き、容器にお湯を溜め、手ぬぐいを濡らして軽く絞り、マールの顔を拭う。
血の汚れが落ちたら、今度は容器に冷凍庫の氷と水を入れ、新しい手ぬぐいを濡らして絞り、マールの目の上にかけてあげた。
魔力操作を長くやりすぎた結果なのだろう。
そもそも、マールと伊織は基本スペックが違うのだ。
その辺を気付き、何故もっと早く止められなかったのかと伊織は悔やんだ。
魔法陣は今伊織達が行っている方法と違い、身体への負担等がかからないのかもしれない。
「ん……」
マールが気付いた。
「あ、イオリさん、私……」
「気が付いたみたいだね、マール。身体の調子はどう?」
「うん、ちょっとだるいかも」
「ちょっと気になることがあるからさ、ステータス見てくれる?」
「うん、ステータスオープン……」
「魔力数、MPって書いてあるところどうなってる?」
「あれ、一です」
伊織が心配していたことが起きたようだった。
魔力が枯渇して、気を失ったのだろう。
「あのさ、元はいくつ?」
「えっと、五八かな、あれ、分母が増えて六〇になってる…」
「なるほどね、マール」
「はい」
「ごめん、魔力が枯渇したらどうなる?」
「確か、意識を失い……あ……」
「そう、もっと早く止めるべきだった。本当に済まない」
魔力を操作しながら、水を操作して球状にし続けたのだから、枯渇もするだろう。
伊織は使ったその場から回復していく、だから気が付かなかったのだ。
伊織でも、前に倒れたときは、やりすぎて枯渇したということなんだろう。
「前にね、先生から、魔力の残量は常に把握しておきなさいって、怒られたときがあるの。さっきはね、あんまり楽しくて、それを忘れてたのよ。だから、私も悪いの、イオリさんだけの責任じゃないのよ」
「うん、それでも俺が悪いんだ」
「じゃ、おあいこって事にして欲しいな」
「ありがとう、マール……」
「えへへ」
伊織は手ぬぐいをまた氷水で冷やして絞り、マールの額にかけてあげる。
「あ、冷たくて気持ちいい……」
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