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第43話 最初の村へ

 馬車で出発すると、それはなんとも順調な旅だった。

 目的の村までおおよそ五日。

 途中の街で三泊しての予定だった。

 遠回りにはなるだろうが、その方が野営よりは安全だと言う事。

 旅に出て今日は四日目になる。

 ここまでこれといった問題はなく、日が落ちる前には街へ着き、宿屋に泊まると言う感じで過ごせていた。

 これ以降は近隣に村や街はなく、目的地までぎりぎり一日。

 現地で野営をすることになるだろう。

 馬車の性能、そして魔石のおかげもあって、魔獣が寄って来ることはなかった。

 行先は領主の管轄してあった村なので、街道の整備はある程度されている。

 この日も特に問題はなく、まもなく日が落ちる時間帯になった。

「あともう少しで例の村が見えてくるはずだよね」

「うん、その予定なんだけど」

 この馬車はクッション性がいいのか、あまり揺れたりしない。

 流石は貴族で作らせただけはある。

 この世界の地図は凡その距離感でしか書かれていない。

 方向さえ間違っていなければ、それで事が足りる。

 日本にいた頃と違い、そこまで街や村が多いわけではないからだろう。

「あれ、そうじゃないの?」

「何か見えてきたね」

 それから僅かな時間で、視界に入って来るかつて村であった場所。

「これは…」

「えぇ、ここまでとは思わなかったわ」

 伊織とマールは驚いた。

 その村は、瓦礫が端に寄せられ、家も基礎の枠組みしか残っていない。

 伊織たちは村の中心に馬車を止める。

 基礎の数だけで言うと、約三〇世帯くらい。

 九〇人はいたのだろう。

 伊織は組み上げてあったテントを広めの基礎の中心に出した。

 テントの中に入り、必要なテーブル、椅子、魔石式のランタン、簡易式のベッドを出していく。

「ほんと、ストレージって便利よね」

「そうだね、こういう時は特にね」

 伊織が出したものをマールが並べていく。

 メルリードは弓をストレージから出し、矢筒を背負って準備している。

「じゃ、あたしは周りを見回ってくるわね」

「お願いします」

「俺は何したらいいんだ?」

「では、共同墓地の様子を見てきてもらえますか。荒らされているかどうかを」

「わかった、行ってくる」

 テントを出ていくガゼット。

「私は何をしましょうか?」

 手持ち無沙汰にしていたファリルが聞いてくる。

「はい、では二人が戻りましたら夕食にしますので、マールさんと一緒に準備をお願いします」

 ストレージから大皿数枚、小皿を一〇枚くらい出してマールへ渡す。

 その他、グラスや水の入った樽も出していく。

 マールと楽しそうに準備をしているファリル。

「イオリさん、ここ安全なの?」

「そだね、半径五〇〇メートルだっけ、魔石の有効範囲」

「うん」

「そうしたら、弓であっても、熟練者でなければ二〇〇メートル程度しか当てることはできないはず。ならば、その倍以上あるから多分安全なんじゃないかな」

「そこまで考えてたのね」

「そりゃ、マールさんがいるからね」

「ありがとう……」

「あらあら、マールちゃんたら照れちゃって」

「先生!」

 追いかけまわすというより、組手状態になっている2人。

 マールが捕まえようとしている手を、軽く弾いてしまうファリル。

「魔法使いに体術ってホントに必要なんですね」

「…そうですよ、目の前に急に敵が現れて何も出来ないのでは怖いですからね」

「そう…だ、から、私も、結構、鍛えられているのよ、ねっと。あぁ、無理よまだ、先生に触れることすら難しい…」

「まだまだですね、マールちゃんも」

 余裕のファリルに対して、息切れを起こしているマール。

「ほら、そろそろ──」

「ただいま、半径一キロくらいは私たち以外動きはないわね」

 メルリードが帰ってきたようだ。

「そうですか、ありがとうございます」

「メルリードさん。そろそろ夕食にするそうですから、座っててくださいね」

「はい、わかったわ」

 メルリードはストレージに弓と矢筒を格納し、椅子に座る。

「おう、戻ったぜ。遺体は火葬されたらしいから、荒らされた形跡はなかったな」

「はい、ありがとうございます」

「ほらほら、ガゼットさんも座って、ごはんにするよ」

「おう」

「じゃ、マールさん、大皿一枚づつ持っててくれるかな?」

「うん、いいよ」

 マールはテーブルから大皿を持って伊織の前に来る。

 伊織はストレージからちまきを始め、複数の料理を出していく。

「おー、ホカホカだね、まだ」

「そうだね、ストレージって便利なんだよ、こういう時は」

 ストレージに格納されているものは、内部で時間が止まるようなので、こういうことが出来たのであった。

 最後に伊織は水の入った樽に触り、温度を下げていく。

「よし、水も冷えたところで、ごはんにしましょうか」

 伊織とマールも座り、晩餐が始まった。

「いただきます」

「「「「いただきます」」」」

「お、これ美味いな、こりゃ酒が欲しくなる」

「ガゼットったら駄目ですよ、帰ってからにしなさいね」

 ガゼットを(たしな)めるファリル。

「このもちもちした食感、美味しい……こんな使い方あったんですね、気付きませんでした。あたしもやってみようかな……」

 メルリードもゆっくり出来ているように見える。

 しかし、イオリはマールから聞いている。

 一度オークに負けている、そしてそれは辛い記憶として残っているのだろう、と。

 食事が終わり、マールがお茶を淹れてくれる。

「マールって何でも出来るんだね」

「作法として小さいころから教わっていましたからね。勿論、料理も得意なんですよ」

「凄いな」

 伊織は良家の子女であっても、ここまで教え込むのかと感心する。

「誉めても何も出ませんよ」

 照れるマール。

「さて、ここから南に徒歩で一時間程の場所に、ここより前に襲撃に遭った村があります。ヨールさんの情報では、そこかその先にある村が怪しいのではないかという事でした。なので、俺は夜が明ける前に一人で偵察に出ようと思っています」

「往復二時間位かかるのか」

「いえ、俺なら往復二〇分、調査に一〇分で三〇分くらいで帰って来れます」

「嘘でしょう、あたしだって、その距離では…」

 メルリードが驚く。

 しかし今の伊織であれば、それくらいの距離は休まずに走り切れるのだ。

「マールさん、確か、オークは武器を使う。知能は人間と同等、魔法を使う個体がいる場合がある。でしたよね」

「はい、そう聞いていますし、私も一度先生と一体ですが、倒したことがあります」

「なるほど、であれば、ただ闇雲に突っ込むよりも調査をした方が安全という事になりますね。ヨールさんから聞いた当時の話なんですが。男性は攫われることがなく殺され、亡くなった女性を攫うことがなかった。オークは人を捕食するのではく、物資の強奪が目的、そして繁殖のために女性を攫って行く。俺は、そう予想しているんです」

 四人は伊織の話を黙って聞いている。

「マールさん」

「はい」

「この二年で、他に村や街が襲われたという報告は入っていますか?」

「いいえ」

 伊織は深呼吸をして、怒りで自分を見失わないよう、心を落ち着ける。

 ヨールからもらった地図を広げ指で現在位置を指す。

「この地図では、ここから西、東、南東、南西には村や街がありません。そろそろ、ここより北の場所が狙われる可能性が高いと予想します。マールさん、オークの繁殖能力はどう言われてますか?」

「高い、と聞いています」

「人里を襲う、ということは、狩猟の習慣はあっても、農耕の習慣はないと思います。物資が足りなくなるくらいに、繁殖していたとしたら。雌の出生の数が極端に少ない種族が、増えた分の足りない雌の調達をどうするのか。今まで大人しくしてたのが不気味なくらいなんですよ」

「確かにそうかもしれないな」

 腕を組みながら伊織の考えに肯定的な意見を言うガゼット。

「俺は元から、この地域に生息するオークを根絶やしにしにきたんです。今叩かないと、また被害が増える、それが我慢ならないんです。撃ち漏らし、そして、失敗は出来ません。ですから、今日は皆さん、明日へ疲れを残さないよう、休んでいてください」

「わかりました、そうさせて頂きますね」

「そうね、目の疲れはあたしにとって生命線だから、休ませてもらうわ」

 ファリルと、メルリードは簡易ベッドへ。

「俺も休ませてもらうぜ」

「えぇ、そうしてください」

「イオリさんは?」

「俺は準備があるから、マールさんは寝ててくれるかな」

「はい……」

「おやすみ」

 伊織はそう言ってテントの外へ出て行った。


読んでいただきまして、ありがとうございます。


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