第37話 出発前日 その1
眩しい、窓から入ってくる朝日に目を覚ます。
伊織の隣には、セリーヌが抱き着いて寝ている。
「ん……イオリさん、おはよ」
「あ、起こしちゃったかな」
「ん、だいじょぶ」
伊織が身体を起こすと、セリーヌも一緒に起こしたが。
「あぅ……これ恥ずかしい……」
流石に恥ずかしかったのだろう、薄い上掛けを身体に巻いてしまう。
そのせいで、伊織は素っ裸だった。
「あの、俺、もっと恥ずかしいんだけど……」
「あ、ごめんね」
伊織はその笑顔に文句は言えなかった。
その後交代で風呂に入る、その間、伊織は素っ裸で待つことになってしまう。
「なんか俺、間抜けだな……」
着替え終り、朝ごはんを食べ、お茶を飲みながら寛いでいたとき、伊織は思い出した。
「ごちそうさま。セリーヌ、あのさ。これ、お願いできるかな?」
伊織は着替えの入った布袋を渡す。
「あ、洗濯ものね。すんすん……イオリさんの匂い……」
「嗅がないの!」
「えーっ、いい匂いなのに」
セレンといい、セリーヌといい、ホントにそう思っているのか不安になった伊織。
でも、伊織も、セリーヌの匂いに包まれていたいと思ったことはないとは言えない。
「今日中に乾くかな?」
「うん、大丈夫」
「じゃ、俺、今日は明日の物資の受け取りあるから、そろそろ出るね。今日はなるべく早く、こっち来るから」
「うん、勝手口まで見送るね」
「ありがと」
手を繋ぎ、勝手口まででる2人。
「ここ業者用の納入口なんだね」
「そうよ」
「イオリ様、いってらっしゃいませ」
「ありがと、いってきます」
ヨールが私室に戻ったのを確認するとセリーヌは伊織の首に手を回す。
「んー、んっ、ぷは、イオリさん、いってらっしゃい」
「……行きたくなくなっちゃった」
「駄目、いってらっしゃい、あ・な・た……うふふ、言ってみたかったの」
「……はい、いってきます、セリーヌ」
見送られながら、表に出て先に宿へ向かう。
後ろを見ると、まだセリーヌが手を振っている。
伊織も手を振ってそれに応えた。
(しかし、いつまでもセリーヌの部屋に居候もまずいよな。討伐から帰ってきたら、部屋借りる方がいいかもな)
伊織はそれとなく死亡フラグを立てるようなことをしている。
(はっ、これ小説で読んだ死亡フラグって言わないか? 危ねぇ……)
やっと気づいたようだ。
宿屋へ着き、受付で礼を言う。
「明日からちょっと旅に出ます、これまでありがとうございました」
「いえいえ、またのご利用お待ちしてますね、イオリさん」
「えぇ、では」
宿屋のチェックアウトが終わり、ネード商会へ向かう。
見慣れた街並みだが、明日には明日には離れることになる。
商会が見えてくると、相変わらず店先で準備を始めるミルラの姿があった。
「あー!」
走り寄ってくるミルラ、伊織の近くて跳び上がり、そのまま抱き着いてくる。
「おはよ、お兄ちゃん」
伊織はその勢いを逃がし、軽く一回転させて受け止める。
「おいおい、朝から元気過ぎるな」
ミルラも伊織より頭一つ低い身長だ。
「だって、昨日言っちゃったんだもん、だから遠慮するのやめたの」
「あー、はいはい」
今日のミルラは手を繋ぐのではなく、腕に抱き着いて伊織を引っ張って行く。
「荷物準備出来てるよ、こっちにあるからね」
裏の搬入口だろう、少し開けた場所に山積みになっている、注文した物資。
「うは、これは多いな」
そう言いつつも、片っ端からストレージに格納していく。
「ほい、ほいっと、これで全部かな」
「…お兄ちゃん、ストレージ持ってたのね。どうやってこれだけの荷物持っていくのかって思ってたけど。馬車もないし…なるほど、そうだったんだ」
「ま、別に隠してた訳じゃないけど、たまたま使ってるのを見てなかっただけだろうね」
「そだね、でも凄いね。それがあれば近隣の国に行商行くとき、手ぶらでいけるし」
「ミルラちゃんとセレンさんは持ってないの?」
「それね、偶然使えるようになるみたいなの。訓練とかで使えるようになる訳じゃないって聞いてるよ」
「まじか」
「まじです」
伊織は兄弟姉妹がいないため、妹がいたらこんなやり取りをしているんだろうな、と思うのだった。
「おはようございます、あれ? 荷物は?」
セレンさんの登場、積んであったはずの荷物が消えていて驚いてる。
「あ、俺、ストレージ持ってるから」
「そうだったんですか、次はイオリさんに護衛の依頼を受けてもらって、荷物も……」
「あの、別にいいんだけどね」
「お姉ちゃん、商売の事になるとこれだから。あ、そうだお兄ちゃん、これ似合ってる?」
伊織から見て左の耳の上に着けていた髪留め。
「うん、可愛いね、良く似合ってるよ」
「えへー、でしょ、でしょ? お姉ちゃん、着けないで大切に仕舞ってるみたいなんだよね」
伊織はセレンの方を見る。
「あの、私、結構抜けてるところあるから、無くすと怖いので…」
それはそれで嬉しく思った伊織。
「確かに今のセレンさんの服装では、ちょっと似合わないかも。もう少し考えて決めたらよかったかも」
今日のセレンはビジネススーツに似た服装をしている。
「いえ、とても嬉しかったです。大切にしますので」
耳まで真っ赤に染まったセレン。
「お姉ちゃん、真っ赤ー」
「ミルラ!」
伊織はその姉妹のじゃれ合いを見ていて、何とも言えない嬉しさを感じている。
警戒せずに話が出来る、数少ない友人、それも女の子。
伊織が日本にいた頃では、考えられない交友関係を構築出来ているのだ。
「ミルラちゃん、ちょっとお願いあるんだけど」
「なーに?」
「ギルドに一緒に行ってさ、マールさんを呼んできて欲しいんだ。騒ぎになるのも嫌だからさ。明日は多分避けられないと思うけどね」
「うん、いいよ。いこっ、お兄ちゃん」
伊織の腕に自分の腕を絡ませるミルラ。
それを見て、セレンは羨ましそうにしていた。
「あの、イオリさん、明日、こちらに寄られないで行かれるんですよね?」
「そうだね、朝早いうちに出るだろうから」
「ミルラ、イオリさんを捕まえて置いてね」
「うん、お姉ちゃん」
「えっ、それ、どういう?」
セレンは伊織に近づき、もう一方の腕を取ると、背伸びをする。
ミルラもタイミングを見計らって、背伸びをし。
「「んっ」」
伊織は姉妹に挟まれるようにして、頬にキスをされる。
「気を付けて行ってきてくださいね」
「お兄ちゃん、わたしとお姉ちゃん、香水の匂いしないでしょ?」
「あぁ、そういえば」
「マールちゃんから聞いてたんだよ。嫌いだってね」
「私も知っていれば、気を付けていたんですけどね」
姉妹に気づかいをされるということに、くすぐったい感じを覚える伊織。
「うん、ありがと。凄くいい匂いだよ」
「えへ」
「あら」
それより伊織が気になったのは、両側から押し付けられる柔らかい感触だった。
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