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第49話 あの国どうしようか?

 次の日早朝からマールの実家とセレンの実家に魔石板を置きに行った。

 今持っている魔石板は、まだ各一対づつ用意しないと転移できない。

 転移元をセレンの領主の館の一室にし、転移先と転移元が一般の人々に知れ渡ってはまずいということから、クレイヒルド家とアールヒルド家に置くことにしたのだ。

 ロゼッタもコゼットも、姉妹なので双方とも我が強い。

 喧嘩になってはいけないからと話し合った結果だった。

 

 なぜ王城に置かないのかと問われるかもしれないが、各所に国王や王妃が現れると混乱を招きかねないという意見があり、中止になったということになる。。

 仕方なく残りの一対は、パームヒルドの中では遠方になるガゼット伯領の屋敷に置くことにした。

 これでパームヒルド城下のジータとガゼット伯領がアールグレイに繋がったことになるのだ。

 伊織の治めることになった旧ミデンホルム地区には、屋敷を建ててから置くことにした。

 セレンとマールを連れてジータへ飛び、各家に設置が終わった。

 この世界の人々には生活に必要な魔法を使う程度にはの魔力を持っている。

 今回、魔石板の間を転移するのに必要な魔力程度であれば、枯渇して倒れる事はないと踏んでいたのだ。

 この時点で、伊織とマールの功績は近年では一番だったりするのだ。

 これだけの功績を残している伊織が、未だ騎士爵という事実は後々問題になるかもしれない。


 転移魔石板を設置して、一番最初にアールグレイに転移してきたのは、意外な人物、ロゼッタだった。

「あら? ここがアールグレイなのですね。セリーヌも久しぶりです」

「はい、お母さま。ご機嫌麗しゅうごじゃいま、あっ……」

「いいのですよ。無理に慣れない言葉遣いなんてしなくても。貴女はもう私の娘なのですから」

 ふかっとセリーヌを抱きしめるロゼッタ。

「はい、ありがとうございましゅ……、あっ」

 セレンとミルラも嬉しそうに二人を見ていた。

「うふふ。可愛いわね。ミルラもこれだけ可愛げがあれば、ねぇ?」

「あ、わたし、ギルドの仕事があるから」

 ロゼッタの姿を確認したミルラは、藪蛇になる前にそそくさと逃げてしまった。

「セレン、あなたが当主になるための手続きは、来月終わると思うのです。そうすれば、私もあの人も少し楽ができますね」

「はい。そうすれば、イオリさんを夫として迎えることができるんです」

 ぽわーっとした表情をしてその光景を想像するセレン。

「そうね。いくら建前上とはいえ、誰も何も言えなくなると思いますよ。何故早く気付かなかったのかしら……。あ、それでも、気楽になったあの人との間に、あっさり男の子ができてしまったりしてね。こうして遠方にも足を延ばせるようになったのだから、旅行するのもいいわね……」

 くすっと笑うロゼッタだった。


 一方その頃、早朝からの一仕事を終えた伊織は遅い朝ごはんを食べていた。

「ご主人様、今朝のお献立はいかがでしたか?」

 レーリアは急須に似た茶器からお茶を淹れて伊織に出していた。

 それを受け取った伊織は火傷をしないように、旨そうに飲み始める。

「ふーっ、ふーっ。ずずず……、ふぅ。うん、凄いよ。ここまで俺の好みを把握してるなんてね。毎朝楽しみで仕方ないよ」

 日本風の朝ごはんに満足して、どこから見つけてきたのか、緑茶そっくりのお茶を淹れてもらい、それを啜って人心地ついていたのだった。

 コンコン

「旦那様、皆様がお着きですが」

「はいはい、開いてるから入ってもらって」

 アウレアがドアを開けて、三人を招き入れる。

「おはようございます。旦那様」

「先生、さっきはお疲れさまでした」

「イオリ、おはよー」

 ドルフとマール、メルリードだった。


 ドルフは片膝をつき、深々と伊織に頭を下げる。

「改めまして、亡き主人たちの無念を晴らさせて頂きまして、ありがとうございました」

「うん。よかったと思うよ」

「この身は旦那様に生涯お仕えさせて頂く所存でございます。これからも粉骨砕身──」

「いや、もう堅苦しいのはいいからさ。これからのことの打ち合わせしないとね」

「はっ。ありがたき幸せ」

「ほんと、ドルフさんは大袈裟なんだよ」

「そうですよ、ドルフ。慌てなくても旦那様は逃げないのですから」

「アウレアさん、それはどういう意味……、まぁいいか」

 ドルフは執事然と伊織の後ろに立っている。

 その辺はドルフの自由にさせてやるつもりだった。

「それにしても、先生」

「ん?」

「ドルフさんと叔父さん、どっちが強いんでしょうね?」

「あー、いい勝負だろうね。素手対大剣。普通ならありえないかもしれないけど、俺が見た感じ、甲乙つけ難い実力差だと思うよ」

「イオリがそこまで言うんだ……。でも、確かに凄かったね。素手で鋼の鎧を叩き割るんだからね」

「そうね、あれは見事だったわ……」

「パームヒルド王国のガゼット殿ですね。お噂は耳にしたことがございます。一度手合わせしてみたいとも思っております」

 凄く遠い目をして語っていた。

『イオリ』

『ん? どうしたのメルさん』

『セレンのこと抱いてあげたんでしょ?』

「ぶっ……」

 伊織は文字通りお茶を吹いてしまう。

「先生。大丈夫ですか?」

「あぁ、ごめん……」

『今度はあたしだからね、いつまでも処女は嫌なんだから』

『はい、前向きに検討させていただきます……』

「旦那様。どうかされたのですか? 何やら落ち着かない様子ですが」

 ドルフは流石現役の執事だ。

 あっさりと伊織の様子の変化を見抜いてしまっていた。

「いや、その。大丈夫だから、あははは……」


 ドルフは伊織の左後ろに立っている話を聞いている。

 マールとメルリードは伊織の向いでお茶を楽しみながら、伊織の話を聞いていた。

「移動については、さっき話した通り、俺がいなくても転移できるようになったというわけなんだ。ある程度の荷物も大丈夫みたいだし、ストレージに入れた状態なら尚更だね」

「マールが新呪文を発明したんだって?」

 メルリードも興味があったのだろう、身を乗り出してマールに確認している。

「そうですね。魔力を節約する補助の呪文みたいなものです。でも転移魔法は魔力の消費が洒落にならないほどなので、先生が作った魔石板でないと難しいんですよ。それに補助する呪文自体はすぐに効果が消えてしまうので……」

「それでも、マールはこの国の歴史に残ってもおかしくないほどの功績を立てたことには違いないからね。ファリルさんもさっきそう言ってたよ」

「あー、叔母さまはそのまま『おめでとう、マール』と一言言って、葉月姉さんのところへ行ってしまいましたね」

「なるほど、少しでも楽になって地魔法研究に集中したいって言ってたんだっけ?」

「はい。そうですね」

 医療系魔法の全般を葉月に引き継ぐ予定になっていたが、距離が遠かったため今まで伸びてしまっていたそうだ。

 今回、距離が縮まったおかげで葉月とファリルの顔合わせができることになったというわけだ。

「それでね、この間セレン姉さんとミルラとでちょっと散歩してきたんだけど、ミデンの城下町には変わったところはなかったっぽいね。そうだ、ドルフさん」

「はい。何でございますか? 旦那様」

「あの町には暗部があったよね。その件はどうなりそう?」

「はい。なるべく早く、この手で抑えつけて来るつもりでございます」

 拳を握ってそう応えるドルフ。

『自分でやるんだ……』とドルフ以外は皆苦笑いしているのは言うまでもなかった。

 アウレア一人だけは、当たり前のように頷いていたのは皆見なかったことにしている。

 いくら伊織の家臣とはいえ、この二人の家はどうなっていたんだ、と皆疑問に思っていただろう。

「実際、あんな大きさの館は必要ないんだよね。俺、王様じゃないし」

「そうですね。でも最低叔父さんと同じ程度の大きさは必要ですよ」

 ガゼット伯の屋敷のことを言っているのだろう。

「それでも王城じゃないのさ。まぁ、二日もあればできると思うから、仕上がったところからマールとメルさんで家具とかを入れちゃってくれるかな?」

「はい、先生」

「あの、イオリ」

「何?」

「あたしの部屋も、そこに貰ってもいい?」

「いいよ。どっちにしても部屋は余るんだから。それに行き来はもう俺がいなくてもいつでもできるようになるからね」

「やった。これであたしも……」

「メル姉さん。邪まなことは顔に出るわよ」

「えっ、嘘っ?」

 にやにやしていたマールと伊織の顔を交互に見ていたメルリード。

「先生、私も部屋貰っていいですか?」

「いいよ。マールはしばらくあっちに留まってやってもらうことがあるんだし、実質的なことはドルフとクイラムに任せておけばいいかな。館が出来上がったら一度、レーリアを連れてメルさんと三人で魔族領に行ってみるつもりだから」

「あ、先生。私は?」

「マールは伊織との約束があるでしょ?」

 メルリードがすかさずツッコミを入れた。

「あー、はい。そうでした……」

 しょぼんとして落ち込んだふりをするマール。

「大丈夫、すぐに戻ってこれるんだからさ」

「はい。でも、そんなに時間かからないと思いますよ。文官さんたちの面接もクイラムさんに手伝ってもらいますし。ドルフさんに聞きながら人選を決めていけば」

「得意そうだからね、あの人は」

「そうでございますね」

「じゃ、明日から館の建築開始ということで、今日の打ち合わせは終わりにしようか」

「はい、先生」

「えぇ、わかったわ」

「かしこまりました」


 コンコン

「どなたかいらっしゃいましたね。はい、……あ、嘘? 何でドルフがもう一人?」

「イオリ、さん。こっちにいたのか」

「あー、気持ち悪いから呼び捨てでいいって言ったじゃないですか」

「いや、それでもだ、な?」

「おや?」

 確かに似ていた。

 年齢と、髪の色と、多少顔のつくりが違う程度。

 体格なんかはそっくりだった。

「旦那様。この御仁がガゼット伯爵様でございまずか?」

「あー、紹介するよ。この人がガゼットさんといって、旧フレイヤード地区で伯爵をしている人。マールやセレン、ミルラ、セリーヌの従兄妹にあたるひと。こっちが俺の家臣で執事をしてもらってる、ドルフさん」

「あー、どうも。ガゼットと言います」

「はい。ドルフと申します」

 二人とも、どう対処したらいいのか迷っているようだった。

「叔父さん、ドルフさんとギルドの地下で手合わせをしてもらったら? このドルフさんもかなりやるみたいよ?」

「そ、そうか。ドルフ殿と言われましたね。是非手合わせを願えないでしょうか?」

「いえ、こちらこそ。あの高名なガゼット・アールヒルド殿と手合わせができるだなんて、思ってもいませんでした」

 ドルフとガゼットの視線は火花が散るエフェクトが出ていてもおかしくないほどのものだ。

 既に、丁寧ではあるが舌戦が始まっていたようだ。

「ここでやっちゃ駄目よ。叔父さん」

「お、おう」

「ドルフ、旦那様に迷惑をかけてはいけませんよ?」

「心得てございます」

 仲良く隣のギルド会館へ足を運ぶ姿はちょっと滑稽でもあった。

「壊れないかな、地下室」

「大丈夫でしょう、多分……」

「夕方、イオリが修理することになりそうだね」

「やめてよ、メルさん……」


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