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第43話 やっぱり化け物だったのね

 一度拠点に戻った四人。

「お帰りなさいませ、シノ様」

「うん。公爵家は終わったよ」

「本当ですか!」

 ノールセン公爵夫人はオッジと同じ場所へ転移させておいた。

 罪がないと思われる使用人たちはこっちへ連れてきたのだ。

 使用人たちは、囚われていた人々をケアする手伝いをしてもらっている。

「あとは王家だけだね。それは一瞬で終わるから」

「どのような方法でなされるのですか、旦那様」

「見てればわかるよ。一休みしたら終わらせようか」

「はい、どこまでもお伴いたします」


 伊織たちは今、ミデンホルム王家の王城を見上げることができる場所にいる。

「いや、でっかいねー。どんだけ立派な城なんだか」

「……先生、もしかしてあの方法で?」

「うん、そのつもりだよ。あれの方が精神的にもきついだろうからね」

「話には聞いてるけど、楽しみだわ」

「はて? 予想もつきませぬが……」

「見てたらわかるよ。この辺でいいかな? 巻き込まれないように下がっててね」

 伊織は石畳に手をつくと、頭の中でイメージする。

「うん。じゃ、始めるから」

 伊織は魔力を開放する。

 解放された魔力は見えるわけではないが、伊織以外の三人の肌はピリピリとしたものを感じることができた。

 ザザァ

 その瞬間、王城伊織のいる側から徐々に、石壁が砂山が崩れていくように物凄い速度で削れていく。

 伊織は城の床や壁だけを石材から砂に変わるようにイメージしたのだ。

 一分もしないうちに目の前は数メートルはある砂山だけになっていった。

 あの砂山の中には沢山の人が埋まっているのだろう。

 クァールが二日に一度とはいえ吸い尽くし続けたから、最近伊織の魔力量は人の枠を超えて莫大な量になっていた。

 そんな伊織だから可能にしたのか、どんな攻城兵器よりもえげつないやり方だった。

 伊織は立ち上がると、周りを見渡す。

「これで国王は、ただのお山の大将、っと」

「……旦那様、これは?」

 ドルフは巨体に見合った大口を開けてぽかーんとしていた。

「うん。地魔法の応用だよ。よし、あとは砂をこう、下の方へ下の方へ潜り込ませて平らにならして……。下か人を持ち上げるように砂場のようにっと。うん、多分怪我人はいないんじゃないかな? 砂がクッションになって死んだりはしてないだろうね。うん大丈夫っぽいな」

 そこには砂の上に座り込んだり、寝そべったりしてぽかーんとしている多数の人々。

 そこには旧フレイヤードの元公爵など、見覚えのある顔もあり、国王と思われる者もいた。

 伊織の服の裾をつんつんと引っ張るメルリード。

「……イオリ、あんた、やっぱり化け物だったのね」

「メルさん、今更なにを……」

「先生、今度私にも教えてくださいね」

「んー、マールならできるんじゃないかな? よし、今度は人以外を砂ごと一度格納してっと」

 砂が一瞬で消えた。

 足場が消えて若干落差を感じた目の前の人々は若干だが、我に返って騒ぎ始める。

「もう一回今の砂だけだして、これをを外側を囲うように城壁して、っと」

 更に魔力を流すと、ファリルが一番最初に見せてくれた地魔法の壁づくりを再現する。

 砂が外側に流れるように逃げていき、城壁へと姿を変える。

「あ、ファリル叔母さんがやってたあれですか」

「うん、これで逃げ場はないよ、っと」

 人々の間を歩きながら、伊織は声を大きく、降伏を勧めていった。

「あーあー。聞こえますか? この城は俺がいま解体しました。この力を見て反抗する人は名乗り出てください。いますか? いませんよね? いるなら俺、ちょっと怒ってますから、手加減しませんよ? いなければ武器を捨てて両手を上げてくれますか?」

 囲まれた城壁に伊織の声は跳ね返り、周りの喧騒は止まった。

 一人、また一人と立ち上がり、両手を上げていく。

「先生、それ、イジメですって……」

「うん、イジメだ」

「旦那様、大人げないですぞ……」

「酷い言われようだよ。俺だってそれなりに怒ってたんだからさ。はい、無血開城は終わりっと」


 ドルフに指示してもらいながら王族や貴族などを一人一人転移していく。

 さして抵抗があるわけではなかったからか、数十分ほどでその作業は終わった。

 王城のあった場所は、広場になってしまい、使用人や文官などは一か所に集まってもらって今後の説明をすることになった。

「あー、俺はイオリ・シノザキ。このミデンホルムを解体した本人です」

「「「「「「おぉおおおお!」」」」」」

 どよめきが起こった。

「この地は放置するのも面倒なので、俺がもらうことにします。みんな面倒見ちゃいますから、安心してください。ここはパームヒルドの一部になりますので、皆さんは今日からパームヒルドの国民になってもらいます。嫌だという人は出ていってもらっても構いません」

「先生。やっと領主になられる覚悟を?」

「いや? 名義は俺にするけど、セレン姉さんに見てもらうよ、もちろん」

「セレン姉さんを殺す気ですかっ!」

「やっぱりだめ?」

「駄目です!」

「マールやってくれない?」

「えーっ」

「お願いします。俺、国をどうこうする方法しらないからさ」

「し、仕方ないですね。暫定的にですからねっ」

 ちゅっ

 伊織に抱き着いて頬にキスをするマール。

 流石に衆人環視の中、唇にするのはまずいと思ったのだろう。

「大変だね、マールも」

「あ、メルさんも補佐についてね」

「えーっ」

「お願いしますよ」

「しょ、しょうがないわね。この貸しは大きいんだからねっ」

 メルリードも伊織の頬にキスをする。

「こほん。近いうちにここに領主の館を建築します。そのときに使用人、文官として面接しますので、ご希望の方はそのときに。それまでは家で待機しててくださいね。長期休暇だと思って、ゆっくりしててください」

「「「「「「おぉおおおお!」」」」」」

「ドルフさん、そんなにあの国王って評判悪かったの?」

「はい、それはもう……、最悪でございました」

「ありゃま」


 拠点に戻ってきた伊織たち。

「お帰りなさいませ」

 深々と頭を下げ、伊織を出迎えるクイラム。

「あ、クイラムさん。あの国俺がもらったから」

「えっ?」

「正確にはパームヒルドの一部になって、俺の土地としてもらうことにするって意味ね」

「では領主様に?」

「うんにゃ、俺は国を治める方法をしらないから、暫くはこのマールがやってくれるんだ」

「んもう、落ち着くまでですからねっ」

「んで、補佐がこのメルさん」

「イオリ、ご褒美ちょうだいね……」

 伊織は両側から腕を抱かれていた。

 娼館を長い間営んでいたからか、これくらいでは動じないクイラム。

「それでも実質はシノ様が領主なのですね」

「そういうことになるかな。伊織でいいよ、そっちが本名、シノは家名の篠崎の略称だから」

「わかりました、イオリ様」

 伊織は助け出した人々へ視線を移す。

「あー、皆さん。あの国は俺のものになりました。あの場で安全に暮らしていただいても構いません。国元に帰りたいのであればご相談に乗ります。とにかく、身体を休めてください。あなたたちはもう自由なのですから」

 ぱらぱらと拍手が起きた。

 その拍手は徐々に増えていき、すすり泣く声や、換気の声も混ざってくる。

「……ふぅ。これでやっと一仕事終えたって感じかな」

「先生。お疲れさまでした」

「イオリ、大変だったわね」

「うん、あ。ドルフさん」

「はい、旦那様」

 伊織の後ろで控えていたドルフ。

「クイラムさんと話し合って、元国王たちの処遇は決めちゃっていいよ。処刑はなしね。死なない程度ならなにやってもいいからね」

「はい、かしこまりました。クイラム殿、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします。ドルフ殿」

「これで一件落着かな?」

「あの、イオリ様」

 クイラムが伊織の前に片膝をつく。

「ん?」

「私もイオリ様の家臣として、末席に加えてはいただけないでしょうか?」

「あー、いいよ。元からそのつもりだったし」

「ありがたき幸せ」

 片膝をついて伊織に頭を下げるクイラムの目には涙が見えた。

「そんな大げさにしなくてもいいよ。これからしっかり働いてもらうからね」

「はい、かしこまりました」

 照れを隠すように、伊織はその場の床に手をかざし。

「えっと、砂の中にあった貴金属その他?」

 どさどさと宝石から装飾品、工芸品の数々が積まれていく。

「こんなにあったんだ。これ、あの国王たちが隠し持ってたやつだと思う。これを処分して、皆世話をしてあげて。それと、これからの生活の支度金を持たせてあげてね。かなりの金額になるだろうし」

「はい、しかし、凄い数ですね」

「そうだね。じゃ、あと頼んだから」

「はい、お疲れさまでした」

 ヴンッ


 その場の対応をクイラムに任せて、工房に戻ってきた。

「お帰りなさいませ、旦那様」

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「ただいま。アウレアさんとレーリアちゃんはドルフさんの怪我の具合を葉月姉さんに診てもらってきて。マールとメルさんは、セレン姉さんに報告お願いね。俺、疲れたから寝るわ」

「はい、先生」

「仕方ないわね、ゆっくり休んでね、イオリ」

 マールとメルリードは隣の領主の館へ。

「「お休みなさいませ。旦那(ご主人)様」」

「旦那様、お疲れさまでございました」

 アウレアとレーリアに連れられて、ドルフは葉月の病院へ。

「じゃ、寝る」

 伊織は寝室へ戻ってベッドに身体を投げた。

 そのとき、指先からクァールが姿を現した。

「……寝るのか?」

「うん、疲れたからね」

「……なら食べる」

「えっ? ちょ、あっ」

 クァールは伊織の指を咥えると深呼吸をするかのように。

 じゅるるるるる

「……満腹、おやすみなさい」

 クァールは満足そうにお腹を擦りながら、指輪に戻っていった。

「昼からこれか、よ」

 そしていつものように、伊織は意識を失っていった。


今年中にあと1話更新したいなとは思っています。

もしできなかったらごめんなさい。

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