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第42話 爆発!(09:10加筆済)

拳で語る執事さんの復讐です。

レーベル公式サイトでの、発表記念としてストックから放出します。

12/23 09:10 戦闘シーンを加筆しました。とりあえずこれくらいで見逃してください(´・ω・`)


 伊織たちはクァールから与えられた隠匿の力を使って町中を進んでいく。

 他の人には伊織たちの姿を認識することはできないらしい。

 兵士とすれ違う度に兵士の肩に触り、魔力を吸収して昏倒させていく。

 武装解除させた後、もう一つ外に作ってある建物に転移させていく。

 壁の厚さを五メートルほどにしてあるため、魔法でもなかなか外には出られないだろう。

 出入り口は作ってあるが、厚さ数センチの鋼で出来た扉が数重につけられている。

「先生。容赦ないですね」

「まだ優しい対応だと思うんだけどね」

 町をぐるりと一周したあたりで兵士の姿は見えなくなっていた。

 それはそうだろう、数十人は排除してしまったのだから。

「これで大丈夫でしょ。さ、館に行きますか。ドルフさん案内お願い」

「かしこまりました、旦那様。これで悲願が達成できます。嬉しくて涙が……」

「ドルフさん、ほら泣かないの」

 メルリードは苦笑しながら、ハンカチを渡した。

「すみませぬ、メルリード姫様」

「あら嫌だ、姫様だなんて……」


「ここでございます」

「そっか。よし、ちょっとまだ入っちゃ駄目だよ」

 隠匿の力を使い、衛兵の側に寄るとそのまま転移させた。

「よし、行こうか」

 屋敷の中に入ると、伊織は屋敷全体に風の防音壁と障壁を張り巡らせる。

「うん、これで音は漏れないし、外にはでられないから大丈夫」

 隠匿の力を開放する伊織。

 屋敷の内側に沿って埃が舞っているので、流れる渦のようなものが皆にも見えた。

「先生、相変わらずの化け物っぷりですね……」

「そう? 褒めても何も出ないよ」

 いい加減言われ慣れてしまった伊織。

「一応不殺でお願いね。俺は手を出さないから」

「殺さなければいいんですよね? 先生」

「そうね、死なない程度ならいいのね?」

「一応手加減いたしますが、失敗したら申しわけありませぬ」

「あの、ほんとに殺しちゃだめよ?」

 マールの目もメルリードの目も、まだ見えない相手を睨んでいるかのように見える。

「マール、メルさん、綺麗な顔が歪んだりしたら、嫌いになっちゃうからね?」

「あ、はい。先生」

「そ、そんなぁ……」

 少しだけ落ち着きを取り戻した二人。

 アウレアとレーリアのことが頭に過ったのだろう。

 伊織は解らなくもないのだ。

 でも伊織は冷静でいることにした。

 ドルフは玄関ホールの中央へ歩いて行くと、足を止めて深呼吸をする。


「──我が名はドルフ!」


 肺の中の全てを爆発させるようにドルフが名乗りを上げる。

 屋敷の空気がびりびりと震えるほどの大きな声が響いた。


「覇王、イオリ様の許しを得て家臣となり、我は再び生きることを許されっ!」


「覇王伊織はやめてよ……」

『先生、話の腰を折ってはいけませんよ』

『はい、すみません』


「今は亡きシルドラ・メルディウス閣下、アミレーヌ・メルディウス夫人、そして家人たちの無念を背負い、参上仕った!」


 屋敷の奥からざわざわとした声、そして鎧で武装した兵士たちが姿を現していく。


「クソ公爵、オッジ・ノルーセンよ、姿を現すがいい。臆するならば出てこなくても構わん。勝手に探させてもらおう。見つけ次第、お主に正義の鉄槌が下るだろう。さぁ、安心してこの拳に散るがいい!」


 お約束のように奥から現れた太った頭の禿げあがった初老の男。

 趣味の悪い指輪を全ての指にはめ、高価な衣装をまとい、嫌味なほどに見下ろした目でドルフに応える。

「まーだ生きておったか、ドルフ。たかだか四人で何ができる。皆の者、殺してしまっても構わん。さっさと片付けてしまえ」

 伊織はその場で胡坐をかき、傍観を決め込むことにした。

「さて、俺は手出ししないから、ドルフさん。存分にやっちゃってくださいな」

「御意っ!」

 兵士の数はおおよそ三十。

 広い玄関ホールの奥から湧いてくること湧いてくること。

 先に動いたのはやはりドルフだった。

「おぉおおおおおお!」

 獣のような咆哮と共に剣を持った兵士の奥、オッジに向かって走り始めたのだ。

 さすがにこの数を蹴散らしていくのは難しい。

 ゴスッ

 足を止めたドルフは近い兵士の前で、足を強く踏み込むと腹に拳をめり込ませる。

「ぐぅううう……」

 兵士の兜の奥からうめき声が聞こえる。

 九の字に折れ曲がった兵士と、その鎧に手首までめり込んだドルフの拳。

 その兵士は既に気を失っているようだった。

 鋼でできていると思われる鎧に亀裂が入り、そこから引き抜かれたドルフの拳には皮膚が裂けて滲んだ血が浸みてきていた。

 ドルフの気迫に臆したか、兵士たちは足を止めてしまう。

 それはそうだろう、素手で鋼であるはずの鎧を貫通させてしまったのだから。

 伊織はストレージからシーツを取り出すと、ドルフに投げる。

「ほい、ドルフさん」

「かたじけない」

 ドルフはシーツを引き裂くと、両の拳に巻き付ける。

 その隙にドルフを剣で切りつけてくる兵士がいた。

 シュッ、カンッ

 その振り上げた剣を持つ肩口に、一本の矢が刺さった。

 肩口の鎧の隙間から血が流れ、足元にぽとりと垂れてくる。

 ドルフを斬りつけようとした兵士の顔は驚愕の色を帯びている。

 それはそうだろう、鋼鉄製の鎧を矢で貫くことができるとは思っていないからだ。

「邪魔しちゃだめよ。無粋な男ねぇ……」

 新たな矢を番えて狙いをつけているメルリードの姿があった。

 一瞬怯んだように見えた兵士は、肩の痛みを堪えながら矢を引き抜こうとする。

 だが、どうやっても抜けない。

「無理しない方がいいわ。その矢はね、あたしの愛しい人が作った返しの付いてる特別製なのよ」「メルリード姫様、かたじけのうございまする」

 メルリードに感謝をしつつ、その兵士にバックブローの要領で弾き飛ばす。

 地面に顔から突っ込んだ兵士は身体を痙攣させながら身動きが取れなくなっていた。

「あら嫌だ、姫様だなんて……」

 案外緊張感のないメルリード。

 ゴスッ、ガスッ

 倒れた兵士の両側の二人に、人の頭くらいの大きさもある氷の塊がぶつけられると、綺麗に左右に吹っ飛んだ。

 もちろんそれは、マールが放った氷の塊だった。

 マールの術で壁際まで吹き飛ばされた兵士の鎧は醜く歪み、壁を背にして座り込むように気を失っている。

「ドルフさん、周りの兵士は私たちでなんとかするわ。ドルフさんはあの禿を」

「申し訳ござらん、マールお嬢様」

「褒めても何も出ないわよ、ねぇ先生?」

 マールの周りには氷の塊が六つほど浮遊している。

 ドルフの行く手を阻もうとしている兵士の手足に、メルリードの放つ矢が矢継ぎ早に刺さっていく。

 その矢は鎧を貫通して矢が刺さっているのだ。

 両手両足に矢が貫通して、うつ伏せに倒れてまで痛みに悶え苦しんでいる姿を見た周りの兵士は、徐々に尻ごみを始めていた。

「オークに比べたら怖くもなんともないわね」

「先生、手加減大変なんですけど。燃やしちゃ駄目ですか?」

 残った氷の塊を投げ続け、一人、また一人と兵士を吹き飛ばしまくるマール。

「駄目」

「そんな、むー、仕方ないですね」

 マールは自分の周りに火球を複数出していき、その火球を徐々に針のような形状に変化させていく。

「マール、それやばくないか?」

「大丈夫です。殺さなきゃいいんですよね?」

 マールは恍惚とした表情になっていく。

「イオリ、あたしの出番、もうないかも……」

 メルリードは番えた矢を外し、伊織の横にちょこんと座り込んだ。

「まぁ、そうだろうねぇ……」

 十数本になった炎の針は、マールが頭上から前に手を下した瞬間。

 ボボボボボッ

 射出した本数だけ、正確に兵士の太腿を貫いた。

 その兵士たちの太腿には後ろを見通せてしまうような、焼け焦げた風穴が開いてしまっている。

「──っつ!」

 声も出せない程の焼けるような痛みが兵士たちを襲った。

 皆、地面に這いつくばって痛みを堪えているようだ。

「大丈夫、死なないわよ。死ぬほど痛いかもしれないけどね」

 にやっと笑いながら、また自分の周りに火球を出現させるマール。

 そのマールを見た残りの兵士は、建物の奥に散り散りに逃げ始めた。

「あら、駄目でしょう。男らしくないわね。逃がさないってばっ」

 針状にした炎で追い打ちをかけながら、マールは逃げた兵士を追い詰めていく。

「あー、程ほどにするんだよー。いやしかし、俺の婚約者さんたちは強いねー」

 胡坐をかいたまま、気楽に観戦している伊織だった。

「まったくです、私も霞んでしまいますぞ」

「あたしを一緒にしないでよ。マールは十分化け物だってば……」


「こら、お前ら、儂を置いてにげ──」

「さぁ、あとはお前だけだ。オッジ」

 するとオッジは土下座をして謝り始める。

「す、済まなかった。儂が悪かった。この通り、謝るから許してはもらえないだろうか?」

 ドルフは相手を蔑むような目でオッジを見下ろした。

「情けない。それでも公爵かっ! こんなやつにシルドラ閣下とアミレーヌ様は……」

 悲しくなって顔を背けるドルフ。

 ドスッ

 その瞬間をついて、オッジは隠し持っていた短めの剣で、ドルフの腹を刺してしまった。

 ぱたぱたと床に落ちる、ドルフから流れる血。

「ふっ、油断したなドルフよ。甘すぎるのだ。死ぬがいい、ドル……、あっ」

 ドルフの腹から剣を抜いて更に斬りつけようとしたのだが、剣が抜けない。

「甘い、な。筋肉を締めたのだ。お主程度の力で、抜けるわけがなかろう」

 パンッ

 乾いた破裂音がしたかと思うと、舜速の拳がオッジの顎を捕らえた。

 見事なライトアッパーだった。

 重そうなオッジの身体が宙を舞う。

 ズンッ

 その場にはオッジの数本の前歯が転がっていた。

 大の字に泡を吹いて伸びているオッジの姿。

「やっと敵がうてまし、た……」

 どすんと、その場に尻もちをつくドルフ。

 満足そうな顔をして戻ってきたマールに。

「マール、手当てを」

「はい、先生。ドルフさん剣を抜きますよ」

「かたじけない、……うっ」

 痛みに歪んだドルフの顔。

「まったく、わざと受けたんでしょ」

「はい、力の差を見せつけて、心を折ってやろうと思いまして」

 マールの治癒魔法で徐々に傷口が塞がっていった。

「はい、もう大丈夫ですよ。無理し過ぎですよ、ドルフさん」

「申し訳ありませぬ、マールお嬢様」

「いやだ、お嬢様だなんて……」


 床に伸びてる兵士を治療した後、オッジ含めて片っ端から転送してしまう伊織。

 あの建物はある意味牢屋になってしまっている。

「あとはおそらく使用人と奥方しか残っておらぬでしょう。捕らえられている人を助けてしまいましょうか」

「そうですね」

 こうしてノールセン公爵家は終焉を迎えることになった。


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