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第41話 感動の再会?

ストックがちょっとだけできたので、放出します。


 準備が整ったとマールから連絡が入った。

 伊織はその場から転移せず、歩いてアウレアを連れて工房に向かっていく。

 アウレアにはドルフのことを告げていないので、驚く顔を予想していたのだ。

 伊織は自室のドアを開けると迎えてくれる大柄な男性執事。

「お帰りなさいませ、イオリ様」

 アウレアは、伊織の背中越しにはみ出るドルフの姿を確認する。

「えっ? ドルフ……、なの?」

「そのお声は、お嬢様ですかっ?」

 アウレアは涙ぐみながら、ドルフへ歩み寄った。

 そのアウレアの姿を見て、ドルフは身を低くして立膝になり、右手を胸にあてた。

 誰もが感動の再会、と思っていたのだが。

 パァンッ

 アウレアはドルフの頬を右手張った。

「「「「えっ?」」」」

「馬鹿っ。なんで、なんで生きてるって言わないのよ……」

 パァンッ

 何度も平手打ちをしながら、涙を流しているアウレア。

 ドルフも両頬で受けながら姿勢を崩さず張り手を受けながら男泣きをしていた。

「申し訳ございません。あのクソ公爵から、私が暴れたらお嬢様の身の安全を保証できないと言われまして……」

 パァンッ

「私はイオリ様に助けられました。幸い、汚されることなく生きることができています」

 パァンッ

「そうですか、そうでしたかぁっ」

 パァンッ

「もう家もありません。ですから、我慢しなくてもいいです」

 パァンッ

「かしこまりました。このドルフ、あのクソ公爵を叩き潰して御覧に入れます。もちろんあの腐れ国王にも地獄を見せてあげましょう」

 あまりの光景に皆は唖然とした。

 唯一腹を抱えて笑っていた伊織は、吹きだしそうになるのを堪えつつ。

「ド、ドルフさん、感動の再会のところ、申し訳ないのですが。……すぅ、はぁ。俺はね、可能な限り奴隷として売られてしまった人々を助け出そうと思っています。それからあの王家、貴族も含めて、場合によっては丸ごと潰すつもりです。あぁもちろん、一般の人には影響のない方法でね」

 伊織の方を向き、深々と頭を下げる。

「はっ。微弱ながらこのドルフ、お手伝いさせていただきます。お嬢様、このドルフ、イオリ様に生涯お仕えすることをお許し願えますか?」

「かまいません。私もイオリ様の家臣としてお仕えするつもりでしたので」

 アウレアもスカートの裾を持ち上げ、伊織に一礼をする。

「えっ?」

「あの国に未練などございません。私、レーリアちゃんのあの一途な気持ちに心うたれまして、私もイオリ様の一家臣としてお仕えしたいと思ったのです。どうか家臣の末席に置いて頂けないでしょうか?」

「あー、うん。駄目って言っても気かなそうだから……」

「先生」

「はい」

「お嫁さんは駄目ですよ」

「いいえ、滅相もありません。私など、メイドで構わないのです」

「お嬢様、私はこのお嬢様方から聞いたのです。イオリ様はこのパームヒルドの筆頭両貴族のお嬢様方、そしてこの国の王女様。果てはエルフの国の姫君。お嬢様を診ていただいたお医者様まで娶られるとのことです。そして、私を開放していただいたときの、あの心震えるような面妖なお力。このお方に仕えたならば、覇道を進むお姿を見ることが叶うかもしれないのです」

 伊織の太腿程もある腕を目の前に出し、拳を壊れんばかりに握りしめ、力説するドルフ。

「覇道って、メルさん。変なこと吹き込んだりしてない?」

「えー? 覇王になるかもしれないとしか、いってないよ」

 アウレアがキラキラした目をして伊織をうっとりと見つめていた。

「イオリ様が覇王……、素晴らしい響きですね……」

「はいそこ、勘違いしないでくださいよ。俺は表に出るつもりはないんだし」

「先生。謙遜しすぎるとバレたときみっともないですよ」

「……やっぱり?」

「はい、最近やりすぎですから」

「と、とにかく、俺は謀反を起こすつもりもないし、納得いかないことを納得いくようにするだけなんだ。ほら、ドルフさんもさっさと立つ。アウレアさんもね」

「「では、家臣としてお認め頂けるのですね?」」

「あー、わかったから」

「折れた」

「折れましたね」

「折れちゃったね」


 アウレアは葉月に体調管理をしてもらいながら、伊織の工房の店番をすることになった。

「いいの? 伯爵のお嬢様だったのに、こんな店番なんかで?」

「この凄く綺麗な髪飾り、可愛らしい指輪。それにこのまねきん、でしたっけ? 素晴らしい芸術品ですよ。これを旦那様が作られていたなんて、感動です。それに私は旦那様の家臣なのです。お気になさらないでください」

 そう言いながら、伊織の作ったものをうっとりと眺めている。

「そうですにゃ。ご主人様はもっと自信を持ってくださいにゃ」

 リハビリを兼ねて、レーリアも伊織の工房に出入りするようになっていた。

「ドルフさん。さっさと解決して戻って来ないとまずいですかね?」

「そうですね。解放される人々のこともありますし、その後の城下の人々のことも。問題は山積みでございますね。旦那様」

「あーもう。行くよ、マール、メルさん」

「はい、先生」

「久しぶりに暴れさせてね、イオリ」


 ミデンホルムに転移してきた伊織たち四人。

「しかし、旦那様のお力には驚いてばかりですな。あっという間にミデンに移動してしまうとは……」

「その辺は気にしないで。じゃ、打ち合わせするよ。この資料の上から順番に片付けて。最後はここ。長丁場になるから、体力は温存すること。ドルフさん案内お願いできる」

「はっ、かしこまりました。この商家、なるほどあの狸でございますね……」


 伊織たちの開放の仕方は実に簡単だった。

 伊織がまず、魔石商として商家や貴族の家などに話を持ちかける。

 魔石は希少性がこの国でも高く、商人も貴族も欲しがらない者はいなかったのだ。

 特に伊織の合成した魔石は粒が大きく、食いつきが良かった。

 話の最中に伊織と目を合わせてしまえば後は楽な仕事だ。

 その建物の中にいる人々を片っ端から魅了していく。

 奴隷として働かされている男性を見つけると、あらかじめミデンホルムの外に建てておいた、簡易的な屋敷に転移させる。

 あとは【ここには奴隷は最初からいなかった】と思い込ませると、片っ端から伊織が魔力を吸い尽くして昏倒させる。

 クイラムと娼館に勤める女性たちに奴隷だった人々のケアを任せる。

 夜になると、人々の首にある隷属の首輪を外して終わり。


 ミデンホルムに戻って三日ほどで、ほぼ九割方開放が終わっていた。

 そろそろあちこちで騒ぎになっていて、町中も慌ただしく兵士が徘徊するようになっている。

「シノ様、本当にありがとうございました」

「いえ、当たり前のことをしてるだけですから。それより、いいんですか?」

「はい、私の娘たちも頑張ってくれています。こんなことで私の罪が消えるとは思えませんが、今は一生懸命この方たちに尽すだけです」

「とりあえず城下の人々は物々しい感じがしているでしょうけど、危険はないでしょうからこのまま残りを片付けようと思います」

「はい、あとは公爵と王家でございますね」

 伊織の後ろに控えていたドルフが、クイラムに深く礼をする。

「クイラム殿、長年ご心労をかけて申し訳ございませんでした」

「ドルフ殿、お顔を上げてください。私こそ何も出来なくて申し訳ございませんでした」

「話の腰を折ってごめんね。ほら、さっさと公爵の館にいくよ。ドルフ、関係ない人は手出ししたら駄目だからね。それ以外は好きにやっていいから」

「はい、恐悦至極にございます。このドルフ、この拳にかけて、亡き伯爵様、奥様たちの敵を取ることを……」

「……終わってから泣こうね。ほんと、見た目からは考えられないくらい涙もろいんだから」


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