表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/187

第40話 助け出してみたら、誰かにそっくり

 偽装を使い、見た目を以前酒場で誤魔化した感じにする。

 詰所に近づくと、一人の男がこちらへやってくる。

 現場監督か、それとも鉱山の管理をしているのだろうか。

「おい、お前。ここで何をしている。ここは関係者以外た──」

 伊織は面倒臭くなる前に、男の目を見て魅了の力を使った。

「──この度はどのようなご用件でしょうか?」

 態度が豹変したような対応になる。

 魅了されている間は、伊織には逆らわない。

 ただ、クイラムで解ったことだが、魅了している間の記憶は残っている。

 ということは、解いてしまうとまずいということだ。

「ここにドルフという人がいると思うんだけど」

「はい、ご案内しましょうか?」

「いや、その前に詰所に案内してくれるかな」

「わかりました。こちらへどうぞ」

 詰所に案内された伊織。

 そこにはもう一人の男がいた。

「どうしたクロウド、まだ交代の時間じゃ……。お前誰だ? ここで何をし──」

 伊織は同じようにその男の目を見て魅了の力を使う。

「お疲れさまです。どうされましたか?」

「いや、ドルフという人がここにいると思うんだけど、連れてきてくれるかな?」

「はい、クロウド連れて来てくれないか?」

「わかりました。バッジ主任」

 最初の男がクロウド、ここにいたのはバッジというらしい。

「クロウドさん、建物の前に連れてきてくれますか?」

「はい、今すぐに」


 それから十分ほどだろうか、ドアの表から鎖を引きずる音が聞こえてくる。

 チャリッ、カチャリッ

 鎖の擦れる音が止まるとドアが開いた。

「お待たせしました。ドルフを連れてまいりました」

「お疲れ様。二人ともいいかな?」

「はい」

「何でしょう?」

「ドルフは今日、事故で死んでしまった。いいね?」

「はい。そう記録しておきます」

 早速日報のようなものに記録を始めたようだ。

「わかりました」

「通常業務に戻ってもいいよ。俺が来たことは起きたら忘れること。いいね?」

「「はい。お疲れさまでした」」

 二人並んで敬礼をする。

 その二人の肩を叩きながら。

「お疲れさん」

 クロウド、バッジの順に魔力を吸い尽くして昏倒させていく。

 地面に倒れた二人を確認すると、伊織は偽装を解いてドアの外に出た。

「どんな人なんだろうね、っと。うぁ、でっか……」

 伊織は見上げることしかできないほど、ドルフは大きかった。

 伊織よりも二十センチは大きい身長。

 ボロボロの服の間から見える体は、筋骨隆々で浅黒く汚れていた。

 年のころ四〇前後、ガゼットと並べても見劣りしないくらいの見事な体格だった。

「初対面から失礼な御仁ですな。さて、私が死んだと言われていましたがどういうことなのでしょうか?」

「あ、うん。あとで説明するよ。それよりその動きにくそうな足かせと鎖をどうにかしようか」

 伊織はドルフの足元にしゃがむと、足枷に触って詰所の脇に転移させた。

 ヒュッ

 微かな音がしたかと思うと、ドルフの足が開放された。

「……は? これはどういうことでしょう?」

「細かいことは後々ということで。さぁ、戻ろうか。中の二人は魔力切れで寝てるだけだし、放っておいても問題はないからね」

「御仁は、私をここから連れ出してくれるというのですかな?」

「いいから、さっさと帰ろうか」

 伊織の不思議な力を見て何かを悟ったのだろう。

「承知いたしました。一度は死んだような身でございます。私、ドルフと申します」

「うん。俺はシノ。よろしくね」


 ドルフを連れて戻ってきた伊織。

「先生。お帰りなさい。この方が……。げっ、叔父さん、じゃないですよね?」

「イオリ、おか……。えっ? ガゼットそっくり」

「だよね。俺も最初びっくりしたんだ」

「はて、イオリ様でございますか? 先ほどはシノ様と?」

「あぁ俺は、イオリ・シノザキ。外ではシノって名乗ってるんだ」

「それではどのようにお呼びいたしましょうか?」

「伊織でいいよ」

「では改めまして、私、こちらのイオリ様に助け出していただきました。ドルフと申します。綺麗なお嬢様方、よろしくお願いいたします」

 流石は家令、見事な礼の仕方だった。

「そんな、あたしがお嬢様だなんて……」

「先生、こうですよ。紳士はこうじゃなきゃいけませんって。それにしても、お嬢様なんて呼ばれたの久しぶりだわ」

「はい。俺が悪いんです、ごめんなさい。それはさておき、さっさと戻りますかね」

「はい、先生」

「イオリ、たまにはさ……」

「はいはい、戻ったら聞きますからね。ドルフさん、馬車に乗ってくれる?」

「よろしいのですか?」

「うん。時間もったいないからさっさとお願い」

「では、失礼いたします」

 ドルフが馬車に乗り込んだあと。

「じゃ、一気に戻っちゃうね」

「はい、先生」

「うん、いいよ」

「一気にともうしま──」

 ヴンッ


 目の前にいきなり現れた文明的な街。

 さすがにドルフも驚いたのだろう。

「えっ? ここは?」

「はいはい、メルさんとにかくこっち入ってもらって。マール悪いけどミルラを連れてサイズ測ってもらったら、そうだね執事の服を用意してもらってくれる? このままじゃちょっとね」

 伊織はドルフの服を指さした。

「はい、このままではさすがに驚くでしょうからね」

「うん。俺は葉月姉さんのとこ行ってくるわ。着替えてもらって準備できたら連絡してね」

「はい」

「イオリ、風呂に入ってもらった方がいいんじゃ?」

「うん、お願いできる?」

「いいよ、いってらっしゃい。はいはい、ドルフさんはこっちね」

 ドルフは呆然としていたが、メルリードに背中を押されながら不思議そうな顔をして伊織の工房に入っていった。


 コンコン

「はい」

「葉月姉さん、俺」

「伊織ちゃんね、入っても大丈夫よ」

「じゃ、失礼します。……って、アウレアさんの服、駄目でしょ」

 アウレアのブラウスの胸元が空いていて、診察の真っ最中だったのだろう。

 伊織は慌てて後ろを向いた。

「あら、ごめんなさい。アウレアさん、ごめんなさいね」

「いえ、お世話になってますので、これくらい……」

 そう言いながら、伊織の方を見て顔を赤くする。

「いや、違うでしょ。頼むからそういうイジメ方やめてってば」

「うふふ。イオリさんって可愛いですね」

「そうよ、私の弟ですもの。伊織ちゃんは可愛いんだから」

「イオリさん、もうこちらを向いても大丈夫ですよ」

「まったく、変なこと教えないでよね、姉さん」

「先生、仕事中なのですから、イオリさんを可愛がるのは控えてくださいね」

「あら、メリーナ。伊織ちゃんのこと嫌い?」

「いえ、好きなのは好きですけど……。って何言わせるんですか!」

「あのさ、重要な報告があってきたんだけど」

「あら、それはごめんなさいね」

「うん。あのね、アウレアさん」

「はい」

「ちょっと一緒に来てくれる? 姉さん、連れていってもいいよね?」

『アウレアさんの、家令だったドルフさんを助けだしてきたんだ』

『伊織ちゃん、偉いわ。それは喜ぶでしょうね。わかったわ、診察は済んでるから大丈夫よ』

「は、はい」

 葉月の病院である部屋を出ようとしたとき。

『先生。少し待っててもらえますか? まだお風呂から上がってないので。サイズは叔父さんのがあるから大丈夫ってミルラちゃんが』

『うん。少し経ったらそっちいくね』

「あ、そういえば姉さん。レーリアの足の調子はどうなの?」

「そうね、あと一週間くらいすれば一人で歩けるようになると思うわ。酷い状態だったのだけれど、頑張り屋さんですからね。無理しないようにさせるのが大変だったのよ」

「そっか。とにかくよかったよ。今は?」

「セリーヌちゃんが面倒を見てくれているわ。あれから時間を作れるようになったみたいなのね。それでセリーヌちゃんが、妹のように可愛がっているのよ」

「あー、なんとなくわかるな……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ