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第12話 伊織、気絶する

 伊織は諦めて店の中へ入っていく。

 この世界に来て、まだ二日目。

 今が何月なのか解らない。

 昨日も初夏のような陽気だったので、あのような薄手の恰好をするのは自然なのかもしれない。

 しかし、伊織の目には毒だった。

 さっきの記憶を飛ばすように伊織は頭を振った。

「よし、気を取り直して」

 昨夜話をしたセレンの執務室の前に着き、ドアをノックする。

 コンコン

「伊織です、寄らせてもらったんですが」

「はい、どうぞお入り下さい」

 セレンは机ではなく、ソファに座って書類を眺めていた。

「はぁあ……よかった。セレンさんは普通の恰好で……」

 タイトスカートだったが、カーキ色のビジネススーツの様な服を着ていたセレン。

「どうぞお座りくださいな。もしかして、ミルラの服装のことでしょうか? 公爵家の子女なんだから、はしたない格好はやめなさいと言ってはいるんですが。もう初夏じゃないですか、無理を言えなくて困ってるんですよ……」

 伊織はセレンの向かいに座る。

 コンコン……

「お姉ちゃん、お茶持ってきたよ」

 ミルラはトレーにお茶を2つ乗せて部屋へ入ってくる。

(やばい、この低い位置はかなりやばい……)

 ミルラのスカートの裾の位置が伊織の目線よりちょっと高い位置にある。

 鼻の奥がツンとしてきた伊織は、口元を押さえて、反対側を向く。

「ミルラ、あなたもう十八になったんだからもう少し女性らしくできないの?」

「なんで? こんなに可愛い服なのにどこが女性らしくないのかな。ねぇ、お兄ちゃん」

「いや、俺に同意を求められてもだな」

「ダメでしょ、人が話をしてるんだから目を見て話さなきゃ」

 ミルラは伊織の顔を両手で挟み、無理やり自分の方を向かせる。

 そのとき伊織の目に入ったのは、重力に逆らえず襟元の少し開いたミルラの胸元だった。

 たわわに膨らんだ胸のその先にあるものまで見えてしまっている。

「ちょっと、いいから離して。駄目だって、ワザとやってんじゃないのか?」

 伊織は股間を押さえて力ずくで反対側を向く。

「ミルラ!」

「ごめんね、お兄ちゃん。反応が楽しかったからつい……ね」

 たたたた……

 走って逃げて行ったのだろう。

「全く困った妹だわ……」

 ミルラがいなくなったのを確認できると、伊織はセレンの方を向いた。

「いえ、大丈夫……ですから」

 伊織の正面に向き直ると、困ったような表情をするセレン。

「ごめんなさいね。駄目な妹で、はぁ……」

 セレンは一つため息をつくと、困ったような顔をした。

 そして、そのとき見えた光景で伊織は限界を迎える。

 セレンが足をゆっくりと組み替えたのだ。

 伊織の視界に入った、セレンの組み替えた太腿の奥に見える白い布地が。

「セレン……さん、駄目でしょ……その、白いのが。男が目の前にいるとき足、組み換えちゃ……」

 伊織の鼻の奥に鉄臭い匂いが充満し、鼻を押さえたが間に合わなかった。

 そして、伊織はそのままソファの背もたれに脱力してもたれ掛かり意識が遠くなる。

「えっ、白いって……イオリさん。その、鼻血でてます……ミルラ、ちょっとミルラ!」


 伊織は目を覚ました。

 やけに目の辺りが冷たい。

 伊織は体を起こすと、タオルらしきものが目にかかっていたようだ。

 周りを見回すと、知らない部屋。

 モダンな造りの洋風の部屋だった。

 調度品も良いものが揃っているように思える。

「何処だここ、見覚えのないとこだな……」

 そこで初めて、ベッドに寝ていたことに気付く伊織。

 カチャッ

 ドアの開く音が聞こえてくる。

「あ、お兄ちゃん、気が付いたんだね。お姉ちゃん、お兄ちゃんが気が付いたよーっ」

「ミルラちゃん、俺どうして寝てたんだ? それにここは何処なんだ?」

 たたたた……

 誰かが走ってくる足音がした。

「はぁはぁ、イオリさん気が付かれたんですね……」

「セレンさん、そんなに慌ててどうしたんですか?」

 セレンは深呼吸をし、腰を折って謝罪を始める。

「この度は本当に申し訳ございませんでした。ほら、ミルラも謝りなさい」

 ミルラも伊織に謝ってくる。

「ごめんなさい、お兄ちゃん」

「えっ、どうしたんですか? 俺、謝られる憶えないんですけど」

 伊織は表情を読もうとする。

 セレンは申し訳なさそうな、ミルラはかなりバツが悪そうな表情をしてた。

 目を見ると、嘘ではないようにも思える。

「あのですねミルラが悪乗りしすぎて、そして私も……」

「お姉ちゃんがトドメを刺しちゃったんです」

「ミルラ……あとで憶えてらっしゃい」

 ミルラをじっと睨むセレン。

 伊織は状況が掴めていないのか、困った表情をしている。

「どういうことでしょう?」

「あの、ですね…ミルラが悪乗りしてしまい、イオリさんのその……」

「あそこが大きくなっちゃったんだよね?」

「ミルラ!」

「ふぇぇ……それでね、わたしが外に逃げた後にね」

「はい、私がちょっとはしたない恰好をしてしまって。その、ショーツが見えてしまったみたいなんです」

 セレンの顔は真っ赤だった、そしてしゃがみ込んでしまっている。

「それで、お兄ちゃんが鼻血を出して気絶しちゃったみたいなんだよね……」

 ミルラは苦笑いしている。

「……そんなことがあったんですか」

(そんなに溜まってるかよ。なるほど、思い出したわ。あれは眼福だった……今でも脳裏に焼き付いてるよ。でもそれで気絶とか、情けないったらありゃしない)

 立ち直った様に見えるセレン、まだ顔はかなり赤い。

「それでですねお詫びのしるしと言ってはなんですが、この服を選ばせてもらいました。イオリさんが着ていたものに近いものを選んだつもりなんですが……それで、お代は結構で──」

「いえ、買わせてもらいます。ミルラちゃん、同じものをもう一着用意してくれるかな? それで、金額を出してくれる?」

「はい、下着とその二着で銀貨三枚になりますけど」

「じゃ、これで精算してくれるかな」

 伊織はギルドカードをミルラに渡す。

「じゃ、精算してくる。ちょっと待っててね」

「あの、それでは私が……」

「いいんです」

 伊織は考えた、ここで貸しを作っておいた方が後々気持ち的にも楽になるのではないかと。

 セレンには悪いが、そうさせてもらおうと思った伊織。

「金銭的なものは後々へ響く場合がありますし、そのような理由で受け取ることは出来ませんので」

「確かにそうなんですが」

「ここは俺の顔を立ててそうしてください。お願いします」

「はい、イオリさんが良いのであれば……」

 たたたた……

「はい、お兄ちゃん終わったよ。それとこれ、二着入ってるからね」

 ミルラは伊織にカードを返した。

「ありがとう。すみませんけど、ちょっと着替えたいのでいいですか?」

「すみません、私下の私室で待ってます」

「ミルラちゃんはちょっと外で待っててくれるかな? 迷子になるのも……ね」

「うん、待ってるね」

 セレンとミルラは部屋の外へ出ていく。

 一応、伊織の思った通りになったようだ。

 まずは、ズボンを履いてみる。

 黒い無地のカーゴパンツみたいなシルエット。

 腿の横にも小物入れのようなポケットがついている。

 そしてシャツはミリタリーシャツのような感じのデザイン。

 これは伊織の好みにも合うものだった。

 前をボタンで留めるタイプで、素材も麻だろうか。

 上下黒で夏場は暑苦しいかもしれないが、これも伊織の好む配色。

「これでジャングルブーツもあったら完璧なんだよね」

 鏡に映して、満足げな伊織だった。

 袋にもう一着入ってるところに、スエット地の上下も畳んで入れる。

 靴を履いてドアを開ける。

「あれ? なんで開いてる……ミルラちゃん、何してるのかな?」

「えへへへ、似合ってるかなーと思って」

 顔を真っ赤にしながらも、誤魔化そうとするミルラ。

「全く、セレンさんに知られたらまた怒られるよ。俺の裸なんて別に減るようなものじゃないから、別にいいんだけどね」

「うん、綺麗だった。なんかこう、筋肉も締まっていてかっこよかった……」

 赤い顔のまま、ぼーっとしてるミルラ。

「はいはい、ありがとうね。どうやって行ったらいいのかな、ここは」

「あはい、こっちだよ」


読んでいただきまして、ありがとうございます。

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