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第28話 結婚の約束の約束?

 伊織と初めて会ったその日の王城での出来事。

 パームヒルド王国第一王女、カレルナはとてもご機嫌だった。

「フレスコット、送ってくれてありがとうねー」

「はい、ではこれにて失礼いたします。ごきげんよう、姫様」

 門をくぐり、王城までの道を進んでいく。

 すれ違う王城勤めの人々からの挨拶を笑顔で応えながら。

「お帰りなさいませ、カレルナ姫様」

 王城へ着くと、出迎えてくれるカレルナ付きのメイド。

「ただいまトルテ。お父さま、謁見の間にいた?」

「いいえ、もう私室へ戻っていらっしゃいます」

「そっか。じゃ、そっちいこっ」

「はい。お供します」

 本当に機嫌がいいのだろう。

 大きく手を振って歩いていくカレルナ。

「カレルナ姫様、ご機嫌ですね?」

「そうよぉ。だって、お兄ちゃんから指輪もらっちゃったんだもの」

 そう言って右手の薬指に光る指輪をトルテに見せる。

「あら、それはおめでとうございます。これで王家も安泰ですね」

「でもね、あまりおめでたくないの。お兄ちゃんから課題を出されちゃったのよねー」

「それはどのような?」

「あのね、あと三年以内にね。炊事洗濯掃除を完璧にできるようになるのが条件だって」

 トルテの眉間に少し皺が寄る。

 眉間を軽く指先で撫でると、すぐに笑顔に戻った。

「大丈夫です。私がついてますから。三年と言わず二年で完璧にできるようにしてみせますよ」

「うん。期待してるね、トルテ」

 コンコン

 トルテは国王、カシミリアの私室のドアを叩いた。

「カレルナ姫様がお戻りになりました。お通ししてもよろしいでしょうか?」

「いや、ちょっとまって。開けちゃ駄目だから。ヘレネ、だからまだ夜じゃないんだから。離れ──」

「パパ、入るよー!」

 バタン!

 カレルナは気にしないで一気にドアを開けた。

 その光景が目に入るか入らないかの瞬間、トルテはカレルナの両目を塞いでこう言った。

「国王様と王妃様は組手の鍛錬をされていました。少々散らかっていますので、カレルナ姫様、お外でお待ちしましょうね」

 物凄く冷たい目でジロリと二人を睨んだトルテ。

「んー? わかったよトルテ」

 素早い行動でカレルナを抱き上げて回れ右をする。

 抱き上げられた状態で、ドアの外へ連れていかれるカレルナ。

 その様子を見た人は驚くだろう。

 カレルナより五センチほど小さいトルテが、カレルナを軽々と抱き上げてしまったのだから。


 数分待ってトルテは再度ノックをして、ドア越しに小声で囁いた。

「もう大丈夫でしょうか? 今度は助けませんからね」

「あ、はい。もう大丈夫です……」

「じゃ、カレルナ、入りまーす」

 改めてドアを開けて入ると、カシミリアの髪は乱れていて、ヘレネは反対を向いて膨れていた。

「ど、どうしたんだい? カレルナ」

「あのね、これもらって来たの」

 カシミリアの前にででーんと右手をかざすカレルナ。

 その手のひらから見える薬指には、可愛らしい意匠の指輪があった。

「お、それはもしかして」

「うん。結婚の約束の約束をしてもらったの」

「ちょっとまて、結婚の約束といったら婚約だろう? その約束?」

 カレルナから一歩下がった位置からトルテが説明する。

「はい。イオリ様はカレルナ姫様に炊事洗濯掃除を一八歳までには完ぺきにこなすことを条件にご婚約されたそうです」

「それは難しい条件じゃないのかな?」

「いいえ。私の真ん中の妹は置いておきまして、末の妹はすでにイオリ様の胃袋を掴んでいるという話でございます」

 そう、トルテの本名はトルテレット・クレイヒルド。

 クレイヒルド家の長女でマールの姉だった。

 次女のパルテルール・クレイヒルドは既に嫁いでいるのだが、トルテは独身のままカレルナ付きのメイドとして王城に来ているのだった。

 あくまでもメイドとして、侍女ではない。

 王城にいる侍女の教育係であり、カレルナのメイドだった。

「いやでも、そこまで無理難題を言ってくるのはおかしい。ここは彼を呼び寄せて一つ言ってあげないと──」

「パパ!」

「はい」

「イオリお兄ちゃんにそんなことしちゃ駄目。イオリお兄ちゃんをイジメるなら、私が相手にってあげる。さっき組手をしていたんでしょ。私ともやって欲しいな」

 カレルナは肩幅に足を広げ、軽くステップを踏みながら拳を構えた。

 楽しそうな笑みを浮かべたカレルナは徐々に間合いを詰めていく。

「と、トルテ。カレルナに何を教えたんだ?」

「健康と美容のために体術を少々」

「少々って、ここまで殺気が漂ってきてるんですが。いや本当に怖いからやめてください。カレルナちゃん」

「パパ」

「はいっ」

「イオリお兄ちゃんの敵に回るなら、パパと喧嘩するつもりで出ていくからね?」

「そんなわけないじゃないか。パパもイオリ君は好きだから大丈夫だよ」

「うん。そんなパパ私も大好き」

 構えを解いて走り込むとカシミリアのお腹にダイブするのだった。

 ドン!

「ぐぇ……」

 いつの間にか元気に育った娘に喜びながらも、複雑な気持ちの父、カシミリアだった。

「姫様、報告が終わったのですから、戻ってお料理の勉強をしましょうね」

「うん、トルテ。パパ、ママまたね」

 カシミリアから離れると、伊織に見せたようにくるっと回ってお辞儀をしてトルテと一緒に出て行った。


 たまたまクレイヒルドの屋敷に来ていたマールが、久しぶりに姉トルテと会ったときに聞いた話だった。

「それでね、姫様のやる気がすごいの。飲み込みも悪くないから教えるのが楽しくて仕方ないのよ」

「まさかカレルナちゃんが王家の抑止力になるなんて思わないでしょうね。先生もすごい味方を付けちゃったんだなー」

「でもマールちゃんもうかうかしてると、第一夫人の座が危ないかもしれないわよ?」

「それは日々鍛錬してるから負けないわ。料理だって頑張ってるんだもの。あとはどうにかしてセリーヌちゃんの技を盗むだけだから」


 鍛錬が終わるとマールはセリーヌの部屋へ行って土下座をする。

 これが最近の習慣になっていた。

「セリーヌちゃん、お願い。あの方法教えてちょうだい!」

「駄目よ。前にも言ったじゃない。女の子なんだから自分で気づかないとね」

「えーっ。どんな方法試しても駄目なのよぉ……」

 そのあと葉月の部屋へ行くと、葉月に抱き着いて泣き言を言う。

 これも毎日同じだった。

「ハヅキ姉さん。セリーヌちゃんが教えてくれないんですよ……」

「はいはい。女の子なんだから頑張らないと駄目ですよ。私は応援してますからね」

 葉月は伊織と同じようにマールを胸に抱いて背中を擦り続ける。

「あぁ、ホント落ち着くわぁ。体中の力が抜けていくようで、とても気持ちいい……」

 マールは気付いていなかった、この方法が伊織の攻略方法だということを。

 セリーヌは自分でこの方法に行きついたのだろう。

 マールが気付くのはいつのことだろうか。


沢山のブックマーク、ご評価ありがとうございます。

これからも頑張りますので、よろしくお願いします。


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