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第27話 ワァルは探しに来たらしい

 お腹をぷっくりと膨らませて寝ているワァル。

 幸せそうに眠るワァルは明らかに無防備だ。

「でも、なぜ今になって姿を現したんでしょうね」

「んー、俺に聞かれてもわかんないよ」

「それもそうですよね……」

 このままにしていても夜になってしまう。

 ワァルを抱えて立ち上がると、ブラックボアをストレージにしまう。

「とにかく帰りますかね」

「そうね。遅くなるとマールがうるさいからね」

 メルリードは弓と矢をストレージにしまうと、伊織の腕に抱き着いた。

 その場から伊織の工房へ転移する二人。

 ヴンッ

 工房に移動すると、そこには葉月がソファに座って眠っていた。

「あれ? 葉月姉さん」

「……ん、あっ。伊織ちゃん酷いわよ」

「えっ?」

「今日、野草の採取を手伝ってくれるって言ってたじゃないの」

「あっ、すっかり忘れてた」

 コンパウンドボウを再現できた喜びから伊織は忘れていたのだ。

「ごめんなさい、ハヅキさん。あたしも悪いのよ」

「いいえ、これは伊織ちゃんの責任です。いつも悪いのは伊織ちゃんなんですっ」

 傍から見たら痴話喧嘩のような言い争いをしてた三人。

 その喧騒で目を覚ましたワァル。

「……んーっ。うるしゃいなぁ……すんすん、あっ。この香、もしかして」

 伊織の手から葉月に飛び移ったワァル。

「やっと見つけた、この匂い間違いないわぁ。魔力出してみてー」

 葉月は意味が解らなかったが、指先から魔力を絞り出すように丸く発現させる。

「いっただきまーす。あむ。うんうん、これだわ。この芳醇な香りと口の中に広がる甘さ。あの男の子の魔力も美味しかったけど、やっぱりこっちのが美味しいの。あなたはもしかして、聖女じゃないかしら?」

 伊織とメルリードは驚いた。

「そうね。そう呼ばれることはないのだけれど、そうとも言うわね」

 葉月も自分が聖女だという意味は半分も解ってない。

「前にね、クァールちゃんが女の勇者さんの魔力は美味しかったって教えてくれたのよ。それでね、ちょっと前にまた現れたって探しに行っちゃったのね。悔しくなってクァールちゃんより先に探してあげようと思ったの。そしたら、その男の子の匂いに釣られてふらふらーっとしちゃったのね。そこの男の子は多分、勇者さんなんじゃないかな。すごく美味しかったし」

 伊織が勇者だと当てられたことも驚いたが、葉月が聖女だということがなぜ解ったのか。

 聖女という存在が前にもいたのか。

 伊織は聞いてみることにした。

「ワァル、聖女って前にいたのかな?」

「んっとね。勇者さんってね、二人目はいないはずなのよ。お母さんに昔聞いたことがあるのね。もし二人目の勇者さんが現れたら、それは聖女だからってお母さんが言ってたの。もう千年以上前だったかなー」

 そんな前から勇者が存在していたのか。

 この国の文献にも残っていない真実がここにあった。

 ワァルの存在がそれなのである。

「クァールって誰のこと?」

「えっとね。あなたたちの言い方では、闇の精霊っていうのかな?」

 メルリードはワァルの存在だけでも驚愕したのだが、闇の精霊種の話を聞くとは思わなかった。

 それも伊織を探して回っているというではないか。

 葉月の肩に乗ったワァル。

「あのね、私ワァルっていうの。あなたの名前教えてくれる?」

「はい。私はね、葉月っていうの。ここでお医者さんをしているのよ」

「そっか。ねぇ葉月。毎日魔力を食べさせてくれたら、あなたを守護してあげるわ」

 小さいなりにドヤ顔でそう言ったワァル。

「ハヅキさん。精霊の、それも精霊種の加護ってすごいことなのよ……」

「あらそうなのね。嬉しいわ。うん。毎日食べさせてあげるから仲良くしてね?」

「うん。これからよろしくね。汝、聖女である葉月と、我、光の精霊ワァルはここに契約された。汝が死するまで我は汝を守護し、いかなる外敵からも守るとここに宣言する……はい、これで契約は終わりね」

 ワァルから発せられた淡い光が葉月を包んでいく。

 すると、葉月の右手の小指に綺麗な白い指輪が存在していた。

「あら、プレゼントかしら? 可愛い指輪ね」

「うん。それが私の依り代になるから、いつもはそこで寝てるのね。何かあったら起こしてちょうだい。あと、お腹が空いたら出てくるから。じゃ、おやすみなさーい」

 そう言うと指輪に光が収束していき、ワァルの姿が消えていった。

「イオリさん。あたし、歴史的な瞬間に立ち会っちゃったかも……」

「うん。俺もそう思うわ」

「そうなのかしら? 可愛いお友達ができて嬉しかったわ」

 葉月はやはり何もわかってない、とメルリードは思った。


 葉月とは明日野草の採取を手伝う約束をして、メルリードは葉月に謝りまくって一緒に帰っていった。

 一人残された伊織は、ベッドに横になってワァルの言っていたことを反芻していた。

 自分のことを闇の精霊が探している。

 まだ見ぬ出会いにちょっとだけわくわくしていた。

 そのとき、すーっと入ってくる黒い靄のようなものがあった。

「……おなかすいた」

「えっ?」

「……やっとみつけた。お前魔力よこす。我契約する」

 黒い靄が晴れたと思うと見た目はワァルとそっくりだが、黒い羽の小さな女の子がいた。

「あ、もしかして。クァ──」

「……いただきます」

 伊織の右手の人差し指をはむっと咥えた。

 じゅるじゅるじゅる……

 その瞬間、人差し指を軸に、大量の魔力が抜けていく感覚に襲われる。

「うあ、なんだこれ。ちょっ……」

 伊織はそのまま気絶してしまった。

「……我満足。汝、クァール、以下略。契約完了。おやすみ」

 黒い靄がまたあふれ出し、伊織の指の根元に収束していく。

 そのあとすぐに、人差し指には漆黒の指輪が残っていた。


 自分の部屋にいる葉月の小指。

 白い指輪が光り始めた。

「あら? どうしたのかしら?」

「葉月。クァールちゃんが来たわ。今契約が終わったみたい。あの男の子、気絶したみたいね。クァールったら相当お腹空かせて出て行ったから、際限なく食べちゃったのかも。でも大丈夫よね、魔力切れたくらいなら死なないはず。そういうことだから、おやすみなさい」

 ちょっと苦笑いしながら、逃げるように指輪へ戻っていったワァル。

 事態を理解した葉月は、慌てて伊織の部屋へ走って行った。

「伊織ちゃん。大丈夫……じゃないみたいね」

 まるで悶え苦しんだかのように、気絶していた伊織。

 伊織の手を見ると人差し指に葉月の指輪に似た漆黒の指輪を見つける。

 横に座って、眉間の皺を撫で始める。

 同時に少しでも楽になるようにと、魔力を流してみた。

 すると苦しそうだった表情が段々穏やかになってきた。

 そのまま横に寝て、頭を抱えるように抱きしめる。

「これで大丈夫みたいね。おやすみなさい。伊織ちゃん」

 葉月は、ちょっとした役得かな、と嬉しそうに抱きしめながら目を閉じた。


読んでいただきまして、ありがとうございます。


沢山のブックマーク、ご評価頂きまして、本当にありがとうございます。


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