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第13話 孤児院を始めよう

本日1回目の更新になります。

 その後、一人を除いて粛清なしで解体を終えた旧フレイヤード地区。

 夜逃げ同然で主のいなくなった公爵家の館を当面の孤児院として使うことになった。

 王城はそのままガゼット夫妻が使うことになる。

 多少の手直しが必要にはなるが、両方ともそのまま利用可能だと解かった。

 その日のうちに伊織がカムシン夫妻の寝具などの私物を全て孤児院へ。

 ガゼット夫妻の荷物を全て旧王城へ運んでしまった。

 ガゼットから残った貴族たちは男爵、子爵、騎士爵として迎えると聞いた。

 本来ならジムもこっちに来るかと思ったが、ケネスと仲がよくなってきたこともあり。

「今が一番大事な時期なんだ。俺の人生がかかってるんだから、行けるわけないじゃないか」

 と、アールグレイに残ることになった。

 カムシンとシャルリーゼも孤児院の立ち上げで毎日忙しい日々を送っているそうだ。


 伊織はマールとメルリードを連れてガゼットと孤児院の話しをしに来ていた。

「例の孤児院の話ですけど、イオリさん」

「やめてくださいって。ガゼットさんは伯爵閣下なんですよ?」

「いや、俺にとってはな、そのな、恩人だから。私人のときはやはりさん付けをしないと」

「しないと?」

 少し離れたところで、マールとメルリードがケリーと話をしている。

 そっちを見て小声で伊織に答える。

「怒られるんだよ、ケリーさんに……」

「完全に敷かれましたね」

「うちの家系は嫁さんが強いからなぁ。でも案外いいもんだぞ、常に気にしてもらってる感じがしてな」

 ロゼッタとコゼットを思い出した伊織。

 確かに逆らえないところがあるな、としみじみ思った。

「惚れた弱みですね」

「言い返せないところが辛いな……」

 そんなときであった。

「ケリーさん、大丈夫? マールちょっとお願い。治癒魔法使えたでしょ?」

「はい。ケリーさん、もう少し待って。こっちに」

 何があったんだろう。

 ガゼットが勢いよく立ち上がった。

「どうした? ケリーさんになに──」

「ガゼットは黙ってて! 余計ややこしくなる。あたしたちがついてるんだから、そこで待ってて」

 一瞬で落ち込んだガゼット。

「俺、役に立たないのな」

「あの二人がついてるから大丈夫ですよ、きっと」

『メルさん。頼んだよ』

『大丈夫。病気じゃないわよ』

『先生。多分心配しなくていいですよ』

『よくわかんないけど。頼んだよ』

 ガゼットは何気にショックだったのか、呆然としたままだ。

 伊織はとにかく、二人の報告を待つことにした。


 それからちょっと経って。

『先生』

『どした? 大丈夫だった?』

『あのね、ケリーさんおめでたみたい』

『寝室で休ませてるから、そっちで説明するわ』

『ありがと、助かったよメルさん』

 すぐに二人が戻ってきた。

 報告の通り、ケリーは一緒ではなかった。

「メルリード、ケリーさんはだいじょ──」

「しっかりしなさいよ! あんた、お父さんになるんだから」

「メル姉さん」

「あっ、ごめん」

 メルリードはつい言ってしまったようだ。

 長い耳を撫でて恥ずかしそうにしている。

 もちろんガゼットは石化したように固まっていた。

 結局、話しどころではなくなってしまった。

 それこそ読んで字の如く〔独身貴族〕だったガゼットが、あっという間に父親になったと聞かされたのだから呆然とするのは仕方ないことなのだろう。

 伊織は固着したガゼットを転移させながらケリーの休む寝室へ。

 場所が解らなかったので、マールとメルリードの後をついてちょっとづつ転移させたのだった。

「先生。ここです」

 伊織たちが部屋に入ったときにはもう、ケリーが身体を起していた。

「ケリーさんおめでとうございます」

「イオリさん。ありがとうございます。気持ち悪いやら嬉しいやらで、わけわかりませんね」

 苦笑をしながら伊織に礼を言うケリー。

「ほら、叔父さん。いつまで固まってるのよ。ケリーさんが待ってるよ」

 従兄妹だというのに未だにガゼットのことを叔父さんと呼んでいたマール。

「まぁ、十歳も違えば叔父さんだよね。ほら、ガゼット、いい加減にしたら?」

 付き合いが長いのか遠慮のないめりるーどだった。

「うふふ……いいんですよ。あとで叱っておきますから」

 案外容赦ないケリーだった。


 ちょっとした騒ぎになったが、ガゼットとケリーを二人にしてあげようとアールグレイに戻ってきた三人。

 今回、旧公爵の屋敷を孤児院にするという案は伊織が出したのだった。

 ジータにある孤児院は本当に手狭になっていて、これ以上孤児を受け入れることができないらしい。

 事の始まりは、メルリードとエルフの国から帰ってきた後。

 伊織は犯罪者が罪を償うという意味での奴隷は仕方ないとは思っていた。

 あちこちの国を巡ってきたメルリードの話で、そうでない奴隷もいるということを知った。

 得てしてそういう場合は、抵抗できない女性や子供であることが多いという話だという。

 メルリードも直接見た訳ではないが、一国の姫であった彼女には姉からも通じていい情報も悪い情報も入ってくるのだ。

 もし保護した女性や子供たちがいたとして、全ての人を伊織が面倒見ることはできない。

 直接的に国と伊織に被害があったフレイヤードという案件。

 伊織にも進言する資格があったから、カムシンとシャルリーゼの処遇に困っていた国に対して提案をしたということになる。

【困っている人たちのために尽すという罰はいかがでしょうか? 例えば手狭になっているという孤児院などを増やしてそこの管理をしてもらえばいいのではないですか?】

 これが、伊織からコゼットとロゼッタに提案した内容だった。

 どのような罰を与えるかという部分で悩んでいた国としては、伊織の提案は乗るに値するものだった。


 フレイヤードの圧政の影響は今でも残っていた。

 地下牢で伊織が聞いたジムの言葉に。

【俺達みたいな下っ端は魔法で治してもらえないんだよな】

 これは一般市民にも言えることだったのだ。

 アールグレイに移住してきた人の中で、大きな街ではなく小さな村から来た人の中に。

 生活が苦しくて薬もろくに買えない状態で病で夫を亡くし、女手ひとつで幼子を育てている人がいる。

 ろくな栄養もとれない、そんな状況では例え風邪のようなよくある病気でもなくなってしまう人もいるのだ。

 それは一人二人ではなかったのだ。

 現にケリーですら食べて行くこともままならない状況まで追い込まれていたのだ。

 この世界には託児所という施設がないと聞いた。

 だからこそ、孤児院という枠を超えて、病院と孤児院と託児所の機能を備えた保護や支援ができる施設を作りたかったのだ。

 そのためにはカムシンとシャルリーゼだけでは人手が足りない。

 それに故郷へ帰りたいという人も少なからずいるのだから、そういう人の働く場所としてもいいと思ったのだ。

 日本では福祉ではあたりまえのようにあったものだが、この世界には福祉という考え方が薄い。

 伊織の提案した、ある一定期間は家賃をもらわないという考え方では足りなかったのだ。

 だからこそ、伊織も個人的にカムシンとシャルリーゼを応援しているのだった。


読んでいただいてありがとうございます。


ブックマーク、及びご評価ありがとうございます。

これを糧にがんばりますので、よろしくお願いします。


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