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第8話 勇者としての生き方

本日2回目の更新になります。

「申し訳ございませんでした」

 気が付いた国王は、身支度を整えて伊織たちの前に姿を現した途端。

 土下座をしてきた。

 なんと、この国では強者に従うのが当たり前なのだという。

 これまでは国王がこの国最強の戦士だったのだと。

 だが、女王制をとらないこの国で、実際一番強いのはメルリードの姉のキャロラインだった。

 それに次ぐ強さのメルリード。

 自分より弱く、ただ偉そうなだけの男とは結婚なんてできない。

 そう言ってキャロラインを追って逃げ出したのだという。

 あのオーク事件で自分の強さに疑いを持つようになり、その後本当に偶然伊織の強さを見てしまった。

 マールやセレンたちには黙っていたが、一目惚れだったそうだ。

「あなた、それだけですか?」

「はい。今後メルリードのことに関しては一切口出しいたしません」

 つかつかと国王の前に歩いて行くメルリード。

「あとね。人間に対してはあたしたちと同じように接すると皆に伝えなさいね」

「はい。そうさせていただきます!」

 くるっと回って伊織に笑顔を送る。

「これでいいかしら?」

「うん。俺はいいと思うよ。これで皆を連れてこれるからね」

 メルリードは伊織に近づいて耳打ちする。

「あのね。何かエルフとの友好の証になる方法ないかな?」

「そうだね。あ、メルリードにお願いあるんだけど」

「いいよ。何でも言って」


 メルリードには椅子に座ってもらった。

「そう、それで赤子を抱いて微笑んでるように。うん、それでいいかな」

 伊織は大量の木材を出すと、一度まとめて二メートル四方のかたまりにする。

 そこから削り出すように形を変えていく。

 メルリードの横で不思議そうに見ている王妃の顔や体型をよく観察する。

 微調整をしながら全体を仕上げていく。

 最後にメルリードが赤子だったらどういう姿になるかを、イメージして細かく彫り込んでいった。

「よし、あとは全体を研磨するように、と。これでいいかな?」

 メルリードは立ち上がって伊織が作った像を見る。

「うわぁ……」

「これは、初めてみるわ。ここまで美しい、あれ? 私に似てるような……」

「イオリさん。これママとあたしでしょ?」

「うん。そんなイメージで作ってみたんだけど」

 日本でいえば聖母マリア像のような、イメージで作り込んでみた。

「ママ、これ。イオリさんたちの種族との友好の証として作ってもらったのよ」

「えぇ。ありがたくいただくことにするわ。メルちゃんをよろしくお願いしますね」

「はい」

 伊織は深々と頭を下げた。

「ママ、あのね」

「なに? メルちゃん」

「あたしね。子供が生まれて育ったらね」

「はい」

「この人が死んだら、一緒に死ぬことにしたから。ママ、ごめんね」

「そう」

「この人を失った後、何百年も一人は嫌なのよ。親不孝な娘でごめんね」

「そこまで人を愛せるようになったのね。いいわ、好きにしなさい」

「ありがとう。ママ、愛してるわ」


 メルリードの用事が済んだので帰ることになった。

 メルリードが帰ってきてるということが人々に伝わっているのだろう。

 往来で彼女に気付いた人々が挨拶をしてくる。

 小さな子が手を振ってくれる。

 こんな日常を壊してはいけない。

 馬車まで戻ると受け取って並んで御者席に座る。

 ゆっくりと走らせる。

 収穫前の小麦がまるで金の光を放つ庭のようだ。

 その間をゆっくりと進んでいった。

「メルさん」

「なに?」

「俺が生きている間にさ、もしここの人たちに悪さをするような人間が現れたらさ」

「うん」

「俺が何とかするから」

「大丈夫よ、ここの人たちはそんなに弱くないから。そう思ってくれただけでも嬉しいよ」

「うん」

「あのさ」

「なぁに?」

「メルさんから聞いた話には、人の暗い部分の話がなかったじゃない」

「どういうとこ?」

「どこかの国にはさ、奴隷制度があると思うんだ」

「うん、あえて言わなかったけど。あるね」

「悪いことをしての償いなら仕方ないんだ。でも」

「うん」

「そうでない場合もあると思う。俺のいた世界にもなかった訳じゃない」

「そうなのね」

「だから、もし。そんなことに直面したら。俺は動いちゃうと思うんだ」

「救える命があるなら」

「うん」

「俺は救いたい。それが俺のエゴでも」

「うん」

「これまでやってきた、オークもフレイヤードもね。俺の自己満足を満たすためなんだよ。俺が嫌だと思ったからそうしただけ」

「うん」

「偽善者と呼ばれてもいいんだ。俺にはそれができるから」

「そうだね」

 メルリードは伊織の手を握ってきた。

 伊織はメルリードの手を強く握り返して。



「それがさ、俺の勇者としての生き方だと思う」



 メルリードは伊織の手を両手で握って目を見た。

「うん、好きだな。そういう生き方って。あたしもそうありたいな」

「ありがと」

 周りに人影が見えなくなるのを待って、伊織は馬車を止める。

 ヴンッ

 アールグレイの街の手前に戻ってくる。

「まったく、もう戻ってきちゃったんだね。感傷に浸る余裕もなかったじゃないの」

 距離が距離だけに、少しだけ疲れが出たかもしれない。

「……そんな余裕はないよ。やることは沢山あるんだからね」

 馬車を進めて、街の中に入っていった。


 その夜、皆で食後のお茶を飲んでいたとき。

 メルリードはリーブエルムであったことを、包み隠さず話していた。

「──そんな感じ。だからね、あたしは皆と同じ時間を生きることに決めたの」

 一番仲のいいマールがメルリードのその言葉に涙を流す。

「メルリードさん」

「もう家族になるんだからさ、メルって呼んでくれないかな」

「うん、メル姉さん。あのね、私も先生から力をもらったの。それを成すことができる力をね」

「そうみたいだね」

「だから、私も先生の生き方についていく。置いて行かれるのはもう嫌だからね」

「何言ってるのよ、いつもべったりついて回ってるじゃないの」

「えへへ」

 伊織はその場で立ち上がった。

「あのね皆。俺はこの世界の理不尽と戦うことに決めた。見つけ次第叩き潰すつもりなんだ。そうすることで、皆に迷惑をかけるかもしれない。だから今のうちに謝っておくね。ごめんなさい」

「あの」

 セリーヌが手を上げた。

「あのね、私何もできないけど。イオリさんの生き方を支えようと思うの」

 横にいたセレンがセリーヌを抱きしめて。

「私もね、大したことはできないと思う。でも、できるだけセリーヌと一緒に支えるわ」

「お兄ちゃん」

「なに?」

「お嫁さん四人なんて、身体もたないんじゃない?」

「あのねぇ……」

 セリーヌが。

「大丈夫、私、滋養のつくもの沢山つくるから」

「だからそうじゃないってば」

「マール」

「メル姉さんどうしたの?」

「イオリにあれやられちゃったよ。お酒」

「あー、手ごわいでしょ?」

「ここまでだと思わなかったよ……」

「何の話?」

「「イオリさん(先生)には関係ないです!」」

「なんだよそれ」


読んでいただいてありがとうございます。


沢山のブックマーク、及びご評価ありがとうございます。

これを糧にがんばりますので、よろしくお願いします。


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