表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/187

第3話 お酒が入ると心が大きくなりがちですよね?

今日1回目の更新です。

 伊織の工房の奥は部屋ではなくリビングになっている。

 大きなテーブルにソファが四つ。

 本当はこっちに引っ越そうと思ったのだが、皆に猛反対されてしまった。

 夜もちょっと仕事と言ってはこっちで酒を飲んでいたりする。

 今夜も最近できた揚げ物の店から数点買ってきて、それをツマミに飲んでいた。

「ぷはっ、美味いねー。静かでいいなーここ」

 たまには一人になりたいだなんて、贅沢な悩みを抱えている。

 コンコン……

「はい、どうぞー」

「お、美味そうな物飲んでるな。俺もいいか?」

 入ってきたのはジムだった。

「おう。座ってくれ」

「ほんと、参っちゃうよ。姉ちゃんと兄ちゃんのらぶらぶっぷりがウザくてよ」

「それはご愁傷さま」

「他人事かよ!」

「まぁ、飲めよ」

「おう」

 伊織は新しいグラスを出すと、そこに酒をついだ。

「ちょっとまて、何も割らないのか?」

「おう。このままが一番美味いんだよ。まさか、強くて飲めないなんて言わないよな?」

「そ、そんなことねぇよ。んく……きっつ」

「あははは。お子ちゃまだな」

「ほっとけ」

 男の友人同士で飲むのは初めてだったりする。

「ほんとイオリはいいよな。あんな綺麗な婚約者が三人もいるんだからなー」

「お前、あの子はどうしたんだ?」

「ん?」

「ケネスちゃん」

「ぶーっ! げほっがほっ……何いきなり言うんだよ」

 少ないとはいえ、吹きだしてしまったジム。

「きったねーな。あれ? 違ったか? 前にいいなーって言ってなかったっけ?」

「いや、違わないんだけどな」

「まだ告ってないのかよ」

「いや、だってよ。あんな可愛い子が俺のこと相手にするわけないだろうが」

「そうか? あの子まだ彼氏いないってマールが言ってたぞ」

「そうなのか!」

「お前だって、ガゼットさんの義理の弟だぞ。立派なもんじゃないか。それに一番弟子だし」

「そうかな?」

「うん。大丈夫じゃね?」

「よし、明日、いやまだいるかもしれないから、デートに誘ってみるわ。じゃ、俺行ってくる」

「おう、逝ってこい!」

「じゃぁな!」

「まぁ、酒の勢いも必要だろうな」

 コンコン……

「あれ、もう玉砕したのか?」

「邪魔するよ。って誰だと思ったのかな?」

 今度入ってきたのはメルリードだった。

「あ、こんばんは。さっきまでジムがいてね、ケネスちゃんに告白してくるーって出て行ったんだ」

「そっか。若いっていいもんだね」

「メルリードさんだって、若いじゃないですか」

「まぁ、そうなんだけどね。あたしもいただいていいかな?」

「はい、どうぞ」

 伊織はまた新しいグラスを出すと酒を注いだ。

「ありがと。んっ。これは結構美味しいけどきついね」

「お、わかりますか」

「そりゃ、あたしもお酒は好きだからね」

 静かに飲んでいたところで伊織が切り出した。

「あの、メルリードさん」

「ん?」

「俺に話があったんじゃないですか? じゃなきゃ、こんな変わったとこまで来ないでしょ」

「あー、そうなんだけど。これがね、ちょっと……」

 酒の勢いもあって、心が若干大きくなってる伊織は胸を拳でドンと叩く。

「何でも言ってくださいよ。俺に出来ることなら何でも協力しますから」

「そうなんだ? じゃ、話してみようかな」

「どうぞ。それで?」

「あのさ。あたしの国に親がいるんだけどね」

「はい」

「最近帰って来いってうるさくてね」

「よくある話ですよね」

「そうなんだよ。それでね」

「はい」

「見合いしろってうるさいんだよね」

「あー。マールもそうだったって言いましたね」

「うん。だからさ。お願いがあるんだよね」

「んくんく……はい、何でも言ってください」

「ほんと?」

 伊織はグラスに残った酒を一気の飲み干して。

「……ぷはっ。男に二言はないです、はい」

「あのさ」

「はい」

「あたしもさ」

「はい」

 相づちをうちながら、グラスに新しい酒をつぎ、また飲む。

「婚約者にしてくれないかな?」

 伊織は酒が入っていて心が若干大きくなってきている。

 そしてつい。

「……ぷはっ。いいですよ」

「ほんと? よかったぁ……」

 メルリードはグラスを両手で持ち、残った酒を飲み始めた。

「ん? あれ? 今なんて言いました?」

「婚約者にして欲しいって言ったらね、いいよって言ってくれたの、イオリさんが」

「な、なんですとぉおおおおお!」

 残りの酒を飲み干すと、メルリードは立ち上がって。

「男に二言はないんだよね。断られると思って言いだしにくかったのよ。近いうちに国に案内するから、よろしくね」

 メルリードは嬉しそうに顔を赤らめて戻っていった。

 足取りが軽そうでまるでスキップでもしているかのように。

「俺、とんでもない約束しちゃったのか?」

 こうして婚約者が増えてしまった伊織だった。


『先生!』

『はい』

『今どこにいますか?』

『となりの工房ですが』

『今から行きますから、逃げないでくださいよ。逃げたら火球ぶち込みますからね!』

『は、はい』

 ばたばたばた……

「はぁはぁはぁ……なにやってるんですかぁ!」

「ご、ごめんなさい」

「さっきメルリードさんに会って【あたしも家族になるから。よろしくねー】って言われたんですけど、どういうことですか?」

「はい、お酒入ってて。相談されて、つい」

 経緯を話すと呆れた顔になったマール。

「メルリードさんも悪いですけど、先生」

「はい」

「女性に甘すぎます!」

「ごめんなさい」

「甘甘です!」

「ごめんなさい!」

「理由があるんでしょうけど。あとで聞いておきます。と・に・か・く」

「はい」

「こんなことは今後ないように!」

「はい。すみませんでしたーっ!」

「あと、言ったからには約束を守ること。指輪も用意するんですよ?」

「はい」

「あと、暫く一人で飲むのは禁止です!」

「はいぃいい!」

 伊織はその場で銀を取り出して、シンプルだが可愛らしい指輪を作るのだった。


 マールはそのままメルリードを探し出してリビングに連れて行った。

「マール、さん。目が怖いよ。どうしたの?」

「メルリードさん」

「はい」

「ご婚約おめでどうございます!」

「はいぃ?」

「理由を話してもらえますよね?」

「はいぃぃ!」

 メルリードは伊織に話したことよりもっと詳しい話をすることになった。

「──ということなの。身近にあんな超優良物件がいるじゃないの。だから相談に行ったんだよね。そしたら、いいよって言ってくれて。嬉しかったわー」

「あの、お酒入ってると、先生、心が大きくなっちゃうの知ってましたね?」

「えっ、し、知らないよー……」

 吹けもしない口笛を明後日の方向を向いて吹いてるつもりのメルリード。

「メ・ル・リード・さん」

「ごめんなさい。でもさ、三〇〇歳も四〇〇歳もくってるおっさんと見合いさせられてみなよ、逃げたくもなるでしょ? マールならわかってくれるよね?」

「それは、まぁ、わからないでもなですけど。私もそんなことありましたから」

「それが嫌でこの国に逃げて来たんだけど。どこからか見つかってしまってさ。あたし、まだ二八歳なんだよ。寿命千年あるうちの種族じゃまだ若いピチピチなのに、おっさんなんて嫌よ!」

「理由はわかりました。あとで姉さんとセリーヌちゃんには自分から説明してくださいね。まったく困ったことを……」

「はい、そうします。すみませんでした!」

「あと、私の母と姉さんのお母さまにはメルリードさんが話してくださいよ」

「えっ、うそっ」

「知りません。私のせいじゃないんですから、責任もってくださいね」

「はい、わかりました……」


読んでいただいてありがとうございます。


遅くなりましたが、沢山のブックマークとご評価ありがとうございます。

これを糧に更新頑張っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ