結婚式の準備、そして当日
本日2回目の更新です。
お間違えの無いようにお願いしますね。
今日はケリーの部屋でウェディングドレスのための採寸をしていた。
ミルラがケリーの周りを忙しくぱたぱたと走り回っている。
「ここがもう少し、こう。うーん……」
男性陣をシャットアウトしての採寸作業。
下着姿のケリーは寒いだろうが我慢してされるがままになっている。
「うん。これで大丈夫。ケリーさん服着ていいよ」
「ありがとう。ミルラちゃん。でもすごいのね。まさかドレスをミルラちゃんが仕立てることになるなんて」
得意そうに腰に手をあて、胸を張るミルラ。
「わたしはこれを取っちゃったら、ただのギルドのサブマスターでしかないですからねー」
スケッチブックのようなクリップで止められた紙の束に、思いついたままスケッチを始めるミルラ。
「うわ、可愛らしいですね」
「うん。ここはこう、ふわっとさせてね。でも、このあたりは大人の魅力たっぷりにして」
「うふふ。楽しそうね」
「うん、今回はガゼット叔父さんが全額出してくれるって言うから遠慮なしに作れてもうねー」
「もしかして」
「うん。総シルク製だよ。レースは前に作ってあったものを流用するけどね」
「ちなみにお幾らいくらいになりそうなのかしら?」
「んー。金貨5枚くらいかな」
「うそ!」
「ああ見えてガゼット叔父さんは貯金たくさんあるから」
「これ、一度着たらもう袖を通さないような……」
「それは大丈夫。お兄ちゃんがケリーさんの等身大の人形作ってくれるから、それに着せていつまでも飾っておけるんだよ」
伊織は地魔法の応用で簡単ではあるがマネキンの製造にも成功していたのだ。
「それは、また楽しみね」
「でしょー」
「仮縫いはその人形でやるから今晩あたりに私の部屋に見に来てね」
「はい、ありがと。楽しみで仕方ないわね」
その晩、ミルラの部屋。
「お兄ちゃん、それ、そんなにおっぱい大きくないよ」
「そ、そうか? これくらいかな」
伊織が魔力を流すと、木製のマネキンが徐々に形を変えていく。
「まったくおっぱい好きなんだから」
「それは心外だぞ!」
「それで、手はこの向きに、そう。もう少し足をね、こう。そうそう、そんな感じ」
「……ふぅ。思ったより集中力使うな。こんなもんかな?」
「いい感じ。誰が見ても裸のケリーさんだよ」
「あ……」
「お兄ちゃんのエッチ」
「ミルラ、お前なー……」
そう言いながらミルラは人形に下着を着せていく。
「うわ、もっとエッチになっちゃった」
「駄目だ。俺、もういくから。何かあったら呼んでくれればいいよ」
そう言って出ていく伊織。
「うん、ありがとね。お兄ちゃん」
伊織と入れ替えに入ってきたマール。
「先生が顔真っ赤にして出て行ったけど。ふわぁ……すごいね、これ」
「でしょー。お兄ちゃんの力作なんだよ」
「とんでもない才能だよね。記憶だけでここまでの再現力。やっぱり先生ってエッチだったんだ」
「そっそ。もう才能だよねー」
顔から髪まで精密に作られたケリーの人形を見て、うっとりとしているミルラとマール。
「これから仮縫い?」
「うん。今晩中には本縫いまで仕上げちゃうかなーって」
「無理しちゃだめだよ?」
「大丈夫。楽しいことは疲れないから」
次の朝、目の下に隈を作りながらもドレスを完成させてしまったミルラ。
「おし。これで、完成……きゅぅ……」
ベッドに倒れてそのまま寝てしまう。
「ミルラ、朝ごはんでき──」
セレンが呼びにきたようだったが。
「うわぁ……綺麗……」
それは恍惚とした表情で右手を差し出して、ダンスを受け入れる瞬間のポーズをしているケリーの人形。
舞踏会のワンシーンのような美しい姿をしていた。
「お姉さん、どうし──」
セリーヌも固まってしまった。
「「綺麗よねー」」
昼過ぎにミルラも起きだして、ケリーとガゼットを呼んでのお披露目となった。
「俺、これになら金貨十枚出してもいいわ」
ガゼットがそう言うと。
「えぇ、綺麗ね……」
ケリーも感動したのか涙を流している。
「これ王国の美術館に置いてもおかしくないわね。あたしも作って欲しいな……」
ちゃっかり来ていたメルリードがうっとりとしながら見入っている。
同じ女性として興味があったのだろう。
「これね、ドレスを脱がしたらもっとすごいのよ……」
メルリードの耳にこっそりと話しかけるミルラ。
「うそ、そんなとこまで作り込んであるのね。イオリさんたら……」
「どうした? 何の話だ?」
「ううん。なんでもないのよ。女の子同士の秘密」
「なんだよそれ」
「あなた」
「はい!」
ガゼットはびくっとしながら返事をする。
「結婚式が楽しみね」
「そ、そうですね」
もう〔あなた〕呼ばわりされていたガゼットだった。
ぱたぱたとした準備に追われながらも、当日となった。
控室でドレスの着付けをしているミルラ。
「苦しくない? ケリーさん」
ミルラに軽くウェストを絞められながら、ケリーが笑顔を向ける。
「大丈夫よ、この日のために甘いものを我慢したんですから!」
綺麗にサイドを編み込んだ髪型に、伊織が作った可愛らしい控えめなシルバーのティアラを乗せている。
マールが化粧の最後の仕上げに、筆で唇に薄ピンクのルージュを引いていた。
「うん。ケリーさん。可愛い、綺麗、もう最高です」
「ありがとう、マールちゃん」
「いえいえ、どういたしまして」
ミルラが少し離れて最後の確認をする。
「うん。完璧!」
ケリーはその場で一回転してみせる。
「うわぁ、綺麗だね」
「うん。わたしの自信作だもの」
「でもさ、先生。どれだけ肩書できちゃうんだろうね。魔工師、彫金師、人形師……」
「このティアラもお兄ちゃんが作ったっていうから。もう芸術家だよねー」
「そうだねー」
中央に妖精が躍るような装飾が施された銀製のティアラ。
そして、ウェディングドレスを脱がした人形には、白のロングドレスが着せられていた。
「この人形もすごいし、どこまでいっちゃうんだろうね」
「うん。ある意味予想ができないよ。先生って」
コンコン……
「はーい」
「そろそろ準備できたかしら?」
セレンの声が聞こえてくる。
「うん、できたよ。お姉ちゃんも見てみるといいよー」
ドアを開けて入ってきたセレンとセリーヌ。
「うわぁ、綺麗ね」
「ケリーさん。凄く幸せそう……」
「うん。嬉しいの。ありがとうね」
「ほらほら、泣いたら化粧落ちちゃうから」
マールが軽く目元をハンカチで押えてあげる。
「はい」
教会の祭壇までに敷かれた真紅のヴァージンロードをジムの腕に引かれて歩いてくるケリー。
亡き父親の代わりにジムがこの役を引き受けたのだ。
物凄く緊張してカクカクとした歩き方になっていたジム。
「ほら、あなたが緊張してどうするんですか?」
「だって、姉ちゃん。緊張するなって方が無理だよ」
沢山の参列者の間を通ってくるケリーとジム。
祭壇の前では騎士団にいた頃の制服を着ているガゼットの姿が。
「義兄さん、あとは頼んだよ」
「お、おう」
それを見てクスクスと笑う神父役を取り仕切るアリーシャ。
その横にはなんと、シスターの姿をしたリンダがいるではないか。
笑顔で二人を見守っていた。
気付いていたのは伊織とマールそしてセレンだけだった。
「んっ。静粛にお願いします」
全体が水を打ったように静かになっていく。
「私が神父の代わりをさせて頂きます。この教会の責任者、アリーシャと申します。では、新郎。ガゼット・アールヒルド」
「はい!」
「声が大きいですよ」
「ごめんなさい、姉ちゃん」
「おほん! 貴方はこの女性ケリー・マグムレットを妻とし、健やかなるときも、病めるときも。喜びのときも、悲しみのときも、これを愛し、これを敬い、これを助け、その命の限り愛することを誓いますか?」
「はい、誓います!」
「新婦、ケリー・マグムレット」
「はい」
「貴女はこの男性ガゼット・アールヒルドを夫とし、健やかなるときも、病めるときも。喜びのときも、悲しみのときも、これを愛し、これを敬い、これを助け、その命の限り愛することを誓いますか?」
「はい、誓います……」
「私はこのお二人の婚姻が成立したことを宣誓いたします。精霊の見守られる中で、その祝福が二人に満たされることを私は望みます」
ガゼットは片膝をつき、ケリーのヴェールを軽く持ち上げる。
ケリーはガゼットを見下ろすように顔を近づけていき、口づけを交わした。
尻に敷かれることを決定づけたかのようなシーンだったが、参列者は感動につつまれていくのだった。
その瞬間、皆からの拍手が鳴りやまなくなる。
ガゼットは立ち上がり、ケリーを抱き上げ。
「ありがとうございます。俺! 絶対にこの人を幸せにしましゅ……あ」
噛んだ。
爆笑の渦が二人を包んでいった。
読んでいただいてありがとうございます。
閑話はこれで終わりになります。
次回からは第二部がスタートとなります。
これからもよろしくお願いします。